結成1年目で『ワタナベNo.1』優勝のゼンモンキーとは?佐久間宣行・加地倫三らも評価する若き才能
2021年2月15日に開催された『お笑いABEMA CUP2021~ワタナベNo.1決定戦』。連日メディアに引っ張りだこの四千頭身をはじめ、『ABCお笑いグランプリ』で優勝した実力派コント師のファイヤーサンダーや、『NHK新人お笑い大賞』で優勝したGパンパンダなど、そうそうたる芸人がネタを披露するなか、なんと結成1年目のトリオ・ゼンモンキーが優勝した。審査員を務めたテレビプロデューサーの佐久間宣行氏や加地倫三氏も彼らのコントを高く評価していたのも印象的だ。
結成1年目とは思えないレベルのコントを披露した3人は、どのようなコンテンツに触れてきたのだろうか。彼らが幼いころから今に至るまで、影響を受けたコンテンツについて辿る。
共通点はほとんどなく、たまたま同時期に解散が重なって結成した3人
——みなさんはどのように芸人を志したんですか?
むらまつ 1997年2月10日生まれ、埼玉県出身
むらまつ 高校2年生くらいのとき、同級生から誘われて、『ハイスクールマンザイ(吉本興業主催の「高校生お笑いNo.1」を決めるイベント)』に出たりして、お笑いに興味を持ち始めました。
——そこから芸人の道へ進んだんですか?
むらまつ 高校を卒業するときには芸人になろうとは考えてなくて、親戚がやっている地元の看板屋で働き始めたんです。それからも高校の同級生とちょっとお笑いをつづけてたんですけど、仕事が忙しくなってきたとき、親戚のおじさんから「10年後、お前はどうしたいんだ? 溶接やるか?」と言われて。「いや、やっぱりお笑いやりたいな」と思ったので、ワタナベコメディスクール(養成所)に通うことを決めました。
——芸人を目指したきっかけの芸人さんはいますか?
むらまつ 小学生のときに『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)をよく観ていて、イモトアヤコさんをずっとおもしろいと思っていましたね。
——じゃあ、ワタナベを選んだ理由はイモトさんがいらっしゃる事務所だからなんですか?
むらまつ いえ、事務所を選んだのは、一緒にお笑いをやっていた友達なんです。僕はついていくかたちで入りました。きっかけは友達でしたけど、今となっては改めてイモトさんはカッコいいなあって思いますね。
荻野将太朗(おぎの・しょうたろう) 1996年8月22日年生まれ、埼玉県出身
荻野 僕はもともとお笑いが好きだったんですけど、明確に芸人を目指したのは大学時代に「早稲田大学お笑い工房LUDO」に入ってからです。3年生くらいのときに、サーフボードストレッチのハシケンさんや、ラパルフェの尾身映画さんといったサークルの先輩方に勧められて、芸人を志すようになりました。ワタナベに所属したのも、同じサークルの先輩方が多いという理由が大きいです。アンゴラ村長さんにも影響を受けてますね。
——事務所(養成所)選びで悩むことはなかったんですか?
荻野 ワタナベ以外で悩んだのは、人力舎とマセキ芸能社ですかね。でも、マセキはオーディションを受けないと入れなくて。人力舎は、入る自信がなくて……。ワタナベだったら、何か僕のおもしろさを見つけてくれるんじゃないかと思ったのもあって決めました。
ヤザキ 1996年9月24日生まれ、東京都出身
ヤザキ 僕は、小学校の卒業アルバムにも「将来の夢:芸人」って書いてたくらい昔から芸人になりたかったです。バナナマンさん、東京03さん、さまぁ〜ずさんとかのコントを観て、カッコいいなって思ってました。
高校時代くらいからハライチさんのことが大好きになって、ラジオも全部聴いて、岩井(勇気)さんがラジオで紹介した曲をプレイリストにしてまとめたりもしていて。あとは、『笑う犬』とか過去のコント番組もよく観てましたね。
そんなことを考えながら大学に入ったんですけど、卒業するときに「普通に就職するのは嫌だな、じゃあひとつやりたいことをやってみよう」と思って、そのままお笑い芸人になりました。
——ゼンモンキーを結成したきっかけはなんだったんですか?
むらまつ ほとんど同時期にそれぞれのコンビを解散したからですね。最初にシンゴが解散して、その1カ月後くらいに僕が解散しました。シンゴは1カ月間、ひとりでネタやってたと思うんですけど……あ、ヤザキも!
ヤザキ 大丈夫だよ別に! シンゴでも!
むらまつ あ、ヤザキです、ごめんなさい。僕はピンでやるのがけっこう嫌で、ヤザキを誘いました。その次の日くらいに荻野くんも解散したんですけど、荻野くんがおもしろいっていうのは養成所生の中では知れ渡っていたので、チャンスだと思って誘いましたね。
ヤザキ たまたま同時期に解散したから組んだだけなんです。これと言って明確な理由はなくて、3人それぞれひとりではやりたくないから、「じゃあ一緒にやろっか」くらいの始まりだったんですよね。
学生時代を共にした友達と一緒にコンビを組んだり、似た価値観や境遇がきっかけでコンビを組むケースが多いなか、3人はそれぞれまったく違う道を歩んできているように思えた。では、彼らが影響を受けてきたコンテンツはなんだったのだろうか? スポーツ、テレビ、ラジオ、芸術など、年代ごとに心を動かされたコンテンツについて聞いた。
むらまつのコンテンツ経歴
<小学時代>
むらまつ 父がサッカー好きだった影響で、サッカーの国際試合とかをよく観てました。ただ、観るよりもやるほうが好きだったので、コンテンツとしてあんまり興味なかったかもしれません。ゲームも、友達の家で『ウイイレ』やるくらい。よく観ていたテレビ番組は、『クイズ!ヘキサゴン』(フジテレビ)や『いきなり!黄金伝説。』(テレビ朝日)とか。「1ヶ月1万円節約生活」などの、芸人が根性見せるような企画が好きでした。
<中学時代>
むらまつ このころ、両親が離婚しまして。経済的にちょっとランクが落ちたので、コンテンツに触れるよりも山や川で遊んでましたね。山や川で遊ぶほうがテレビを観るより楽しいと思っていました。
<高校時代>
むらまつ 高校時代から祖父の家で暮らすようになったんですけど、その祖父がなぜか『爆笑レッドシアター』、『爆笑レッドカーペット』(いずれもフジテレビ)、『イロモネア(ウンナン極限ネタバトル! ザ・イロモネア 笑わせたら100万円)』(TBS)、『エンタの神様』(日本テレビ)といったネタ番組をずっと録り溜めてたんですよ。
——なぜそんなにネタ番組を……。
むらまつ なんでだったんでしょうね。わからないんですけど。高校時代はそれらを再生して観てましたね。あと、本はけっこう読んでました。西加奈子さんが好きで、小説を全部持ってます。中でも、『きりこについて』が好きです。ほかにも、綿矢りささんとか、村田沙耶香さんとかも好きですね。映画も好きです。『キサラギ』とか、『愚行録』とか。
<現在>
むらまつ 最近は『ディスカバリーチャンネル』のYouTubeチャンネルで、全裸で無人島に放り出されて生活する番組とか観てます。あとは、『あいのり』も観てます。あれもアフリカ巡ったりするので。
ヤザキ 『あいのり』をその視点メインで観るやついないって! 恋愛観ろよ!
むらまつ いやいや、アフリカ編とかアジア編がおもしろいから。
——では、自然を見るために『あいのり』を観ていると?
むらまつ そうです! そうです!
小学生時代はサッカーに夢中になり、中学時代は山や川で遊んでいたむらまつ。高校時代に映画や本も好むようになった。
荻野将太朗のコンテンツ経歴
<小学時代>
荻野 『コロコロコミック』をよく読んでいました。
ヤザキ 『ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん』とか、『バビブベボブボブ!!さっぷくん』とかね!
荻野 特に影響を受けたのは、『絶体絶命 でんぢゃらすじーさん』かなぁ……。
ヤザキ あと、『ペンギンの問題』、『ケシカスくん』とかもね!
荻野 あとは、小学生のときに『キングオブコント』が始まったので、2700さんのネタはよく友達とやってましたね。
——キリンスマッシュですか?
荻野 いや、餃子のほうです! 2700さんが記憶として、とても印象に残ってるんですよね。
<中学時代>
荻野 中学生になってからは、YouTubeをよく観てましたね。それこそYouTuberの走りとか……。
ヤザキ Ari Keitaとかね。あと、今もやってる人でいえばPDRさんとか。
荻野 そうそう。あと、6面ステーションとか! 中学生のときにパソコンを買ってもらって、それからめちゃくちゃ観てましたね。
——当時、テレビは観ていましたか?
荻野 マジック番組を録画して観てました。
ヤザキ マジック番組録画してるやつ、たぶんあんまいないよ! たしかにセロとか流行ったけどさ。
荻野 あと、Dr.レオンとか。
むらまつ 録画だから、うっかりタネを先に観ちゃったりしたの?
荻野 いや、それはなかったけど! スローで再生して、タネ研究したりはしてたかな。
<高校時代>
荻野 このころようやく、バナナマンさんとか、ラーメンズさんを知りましたね。
ヤザキ あと美大行こうとしたんじゃなかったっけ?
荻野 そうそう! 美大に行きたいと思っていたので、絵を学ぼうと美術館に行くようになりました。
——ちなみに、誰が好きなんですか?
荻野 岡本太郎さんです。
ヤザキ 岡本太郎に影響受けたのすご。てか、どういう影響の受け方するの? え、爆発するの?
荻野 いや、内面の部分でね……あるのよ。
ヤザキ どういうこと? すごいな!
——オードリーの若林(正恭)さんもよく「岡本太郎さんに影響を受けた」って言ってますしね。
荻野 そうなのよ、内側の部分なのよ。外側は柔和だけど、内面の部分なんですよ。
ヤザキ ……すごいな。
<現在>
荻野 やっぱり今は、大学お笑いですね。ダントツでデカいです。昨日も大学お笑いのライブに行ってきましたし。ダウ90000の『あの子の自転車』っていうライブ!
——私もチケット取ろうとして、取れなかったんです!!
荻野 みんなめっちゃおもしろかったです。今もうちょっとプレミアチケット状態になってますね!
——特に影響を受けているのは、やはり出身サークルの「早稲田大学お笑い工房LUDO」ですか?
荻野 そうですね、やっぱりLUDOですね。あとは、「法政大学お笑いサークルHOS」とか、「慶應大学お笑い道場O-keis」とかも好きです。
——出身サークルに関係なく、大学お笑い全体だと誰に影響受けましたか?
ヤザキ アンゴラ(村長)さんとか?
荻野 それはもちろん、見出していただいたのはアンゴラさんなのでね! あと、観てて影響を受けたのは、ターミネーターとかですね。
ヤザキ え? 急に? アンゴラ村長からの『ターミネーター』? 映画?
荻野 いやいや、ターミネーターっていうグループがあるのよ!
※ターミネーター
「お笑い工房LUDO」のコントユニット。大学お笑いの大会『NOROSHI2017』にて優勝したチーム「チーム 世界湯」(漫才:マグナム ピン:トゥークン)のコントを担った
スポーツに夢中になったむらまつと比較し、コンテンツに触れつづけてきた荻野。小学生のころはゲームに夢中になったそうだが「やり尽くした結果、意味がないと思ってやめた」とのこと
ヤザキのコンテンツ経歴
<小学時代>
ヤザキ このころから、バナナマンさんと東京03さんと、さまぁ~ずさんが好きでしたね。ただ、やっぱり小学生でそういった方々を観ているんで、だいぶトガってて……。「『めちゃイケ』は観ないぞ」っていう。
——だいぶトガってますね。
<中学時代>
ヤザキ 『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)を聴き始めて、ラジオがおもしろいと思うようになりました。でも、一番の衝撃は、歌手のYUIさんですね。CD全部持ってて、ライブも全部行ってます!
——どこでそんなに衝撃を受けたんですか?
ヤザキ 『I LOVED YESTERDAY』というアルバムの初回特典のDVDがTSUTAYAで流れているのを観て、「かわいいい!!!!」と思って、初めて自分でCDを買いました。そこからどっぷりハマって、YUIさんの曲を聴くためにウォークマンを買って。それから音楽をたくさん聴くようになって、マキシマム ザ ホルモンとかのハードロック系や、ヘビメタ系も聴くようになりました。今は、FACTやSlipknotも聴きますね。
<高校時代>
ヤザキ がっつり深夜ラジオにハマりましたね。同時に、中学から一緒の友達と“お笑いごっこ”みたいなことを始めました。むらまつみたいに外で披露はしなかったんですけど、ネタを考えていて。そのときに「お笑い楽しいな」と思いました。
あとは、バスケを本気でやってました。高校のときは、お笑い芸人になろうとは思ってなかったんですけど、部活とかでウケて「いいポジションだな」って思っていたのはその時期ですね。
——ニッポン放送のオールナイトニッポン(ANN)とか“深夜のお笑い”って、私自身も好きで聴いていたからこそ、なんとなく「クラスでウケてるやつを一歩引いた目で見て笑う」って感じがするんですが、そういうところはどうですか?
ヤザキ だから、逆にめちゃくちゃ楽だったんです! ANNを聴いて、その「クラスでウケてるやつ」を普段やっていればウケるんで。
<現在>
ヤザキ むらまつとか荻野は過去にもライブに出てたと思うんですけど、僕は芸人になるまで1回もライブに出たことがなかったので、ライブシーンで人気のある人たちのことを知らなかったんです。でも、みんなめちゃくちゃおもしろいし、話しててなるほどって思うこともたくさんあって。今は楽屋で出会う先輩たちに影響を受けてますね。
——では、自分がファン目線に立って、好きな先輩は?
ヤザキ 青色1号さんとか、モシモシさんとか。あと、同期なんですけど、ニュートンズはめちゃくちゃおもしろいですね。
——なるほど。全員トリオですね。
ヤザキ 確かに。あとは、荻野に影響受けてますね。
——あら! どういった面で影響受けてるんですか?
ヤザキ 荻野は、ネタを作るときに、「短くしよう、短くしよう」って言うんですよ。僕がネタを書いていたときは、ネタをお客さんに説明しようとしていたんですけど、荻野は短くして、「言わずに伝えればいいじゃん。そしたらその分、ボケを入れられるから」って。なるほどな、と思いました。
スポーツはバスケだけでなくアイスホッケー、バンディも経験者のヤザキ。映画は「金かかってて、爆発する作品」が好きとのこと。本は読まないがマンガは好き。『ドラゴンボール』は200周した
それぞれ別の魅力を発揮しても、3人集まったときに一番おもしろくありたい
——最終的なゼンモンキーの理想のかたちはどんなものですか?
荻野 3人が個性を発揮して、それぞれ別のコンテンツに携わっていけたらな、と思っています。
むらまつ ヤザキはラジオ、僕はロケ番組とかやりたいですね。
荻野 僕は何か作る系がいいですね、美術系とか。でも軸としては、3人でちゃんとコントができるっていう。
ヤザキ 「3人集まったときが一番おもしろい」ってなれたらいいですね。
「たまたま組んだ」という3人だが、たまたまだったからこそいいのかもしれない。時として、魅力的なものというのは、自分の意図したもの、自分で決めたものより、それ以外の要素で動かされたもののほうが素敵に映ったりする。
たまたまだったからこそ、それぞれ影響を受けたコンテンツが違っていて、キャラクターが異なっていて、その3人が集まったときの色の変化がおもしろい。ネタのおもしろさは知れ渡ってきている。けれど、彼らの魅力はネタだけじゃない。「3人集まったときが一番おもしろい」そんなゼンモンキーの3人をこれからも追いかけたい。
発売中の『芸人雑誌volume2』では、毎号編集部がおすすめする芸人を紹介する「power push企画」にゼンモンキーが掲載されている。コント制作の裏話や、撮り下ろし写真と共に今の彼らがギュッと詰まっている。
『芸人雑誌volume2』ではほかに、「2021の顔」としてニューヨーク、Aマッソ、カナメストーン、9番街レトロも登場している。表紙はニューヨーク、Aマッソ、空気階段の3バージョン。
芸人雑誌 volume2(クイックジャパン別冊)