ファッション偏差値アップを目指す連載第3弾は、コルセット。女性の体を拘束する「拷問器具」として絶滅の危機に瀕するも、デザイナーたちを刺激してやまないフェティシズムの象徴として息を吹き返したアイテムの、進化の変遷を振り返ろう。
コルセットの成り立ち。
女性のウエストを細く補正する「コルセット」は、女性の体を変形させた父権社会の拷問器具として、長きにわたって冷笑の的になってきた。けれど、現在の歴史学者の中には、コルセット着用の理由はさまざまであるため、肯定的にとらえていた女性もいた可能性があると主張する人もいる。
地球上にコルセットの原型が誕生したのは、遡ること紀元前1600年とも言われている。その後16世紀ごろまでに、ぴったりと体に沿う袖のないボディスへと進化したが、以後、肋骨の周りに巻いてウエストを細く縛り上げる、鯨髭製またはスチール製のボーンが入った女性下着へと変化していったのだ(ときには男性が着用することもあった)。
コルセットの形状は、ヒップをカバーする長いものからウエストラインを中心とした短いものまで、400年の月日をかけて変遷を重ねた。1800年代に流行した砂時計のような形から、1900年代の「S」型まで、その時々に流行ったシルエットに体のラインを補正するために使用され続けてきた。
フェティシズムの象徴。
しかし、コルセットが一般普及しはじめた19世紀、それが女性の健康に悪影響を及ぼすという議論が活発化する。さまざまな価格で手に入るコルセットは、上流・中流階級の女性が着用し、そして次第に労働者階級の女性も着用するようになっていたが、コルセットが、呼吸器疾患や肋骨の変形、内蔵の損傷、出生異常、流産の原因になると指摘する医師が出現。一方で、体を締め付けるのではなくサポートするような「謙虚な」コルセットや、健康を目的としたコルセットは容認する人もいた。
ニューヨーク州立ファッション工科大学博物館の館長兼主任キュレーターを務めるヴァレリー・スティールと、服飾史学者で作家であるコリーン・ゴーによると、当時、コルセットを着用していた女性は、実際に肺容量の低下と呼吸パターンの変化に苦しんだ可能性があり、そのことが必ずしも呼吸器疾患の原因になったわけではないものの、失神や活力の低下を引き起こしたかもしれないという。スティールはさらに、紐をきつく結ぶ慣例や、できる限り細い腰をつくるためにコルセットを締め付ける習慣は、文字通りに解釈することができないとも主張する。この慣行を表現する文章やイメージは、事実を表すのではなく性的空想を象徴するものだった可能性があるからだ。
退廃と進化。
1920年代に伸縮素材が取り入れられるようになってからは、アクティブなライフスタイルを好む女性のための柔軟性に優れたスポーツコルセットが登場した。一方、体の形を整えたりサポートするため、女性は依然として、ガードルやコンプレッションインナー、ブラジャーとともにコルセットが必要だと訴える広告や、コルセットの最新スタイルを紹介する記事が、20世紀初期の『Vogue』に掲載されている。
その後、60〜70年代のスポーティで健康的なライフスタイルが価値を持ちはじめると、下着としてのコルセットは廃れていく。代わりに女性たちは、体の形を整えたりウエストを細くするために、食生活や運動、美容整形に目を向けるようになったのだ。
ただし、コルセットが絶滅したわけではない。いまもコルセット好きの人々によって、フェティシズムの表現手段や女装のアイテムとして着用されている。さらに、ファッションのデザイン要素としても健在だ。ファッションフォトグラフィーにおいては、女性のセクシャリティを象徴するアイテムとして、いまも度々登場している。
コルセットに魅了されたデザイナーたち。
ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)は1970年代、自身の歴史主義的なパンクの美学を表現するため、コルセットをデザインに採用しはじめた。ただし、女性を縛るものではなく、女性に力を与えるものとして。後進のジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)やティエリー・ミュグレー(THIERRY MUGLER)も然り。1991年のブロンド・アンビション・ツアーでマドンナが着用した、ゴルチエのピンクサテンのコルセットは、彼の代表作の一つとして有名になった。
ステラ・マッカートニーやジョン・ガリアーノ、プラダ(PRADA)のミウッチャ・プラダ、アレキサンダー・マックイーン、そしてカール・ラガーフェルドといったデザイナーたちもまた、コルセットにヒントを得た実験的デザインを発表している。コルセットをインナーとしてではなくアウターウェアに転換することもあった。2019-20年秋冬コレクションでも、コルセットは依然としてトレンドとして注目を集めている。
Text: Maude Bass-Krueger