お月見や秋のアレンジメントに使われるススキや荻。ゆらゆらと秋風にゆられる様子は優雅で、太陽の光にキラキラと穂が輝く美しさも圧巻です。
秋の七草で知られる「萩(はぎ)」は知られていますが、漢字を間違えやすい「荻(おぎ)」という植物を意外にご存知ない方も多いのでは?
「荻(おぎ)」はススキに似ています。しかし生える場所も特徴も異なります。類似するススキや葦とは異なる風情で秋の歌にも詠まれてきました。本日はそんな「荻(おぎ)」に注目してみましょう。
銀白色が美しい「荻(おぎ)」
株になってはえるススキ
いね科ススキ属の植物で学名は「Miscanthus sacchariflorus」。属名の「Miscanthus(ミスカンサス)」は、ギリシャ語の「mischos(小花の柄)」と「anthos(花)」が語源にちなみ、種名の「sacchariflorus」は「サトウキビ属の花の」を意味しています。
日本の全土から中国大陸まで広く分布し、ススキが乾燥した場所に生えるの対し沼や水の流れの悪い溝、湿った池の堤防、 荒れ地、公園、河川敷など多くの場所で、群生しているのを見かけることができます。
また、全体としてススキ(薄)より穂が白く毛深く見えるので、比較すれば見分けはつきます。それぞれの穂は、小穂と呼ばれる最小単位で構成されていますが、ススキでは小穂の基部に小穂とほぼ同じ長さの白毛が付いており、小穂の先端には刺のようなノギが付いています。オギでは、小穂の基部の毛は、小穂の2~3倍もの長さになり、ノギはありません。ススキのように茎が立って株になるのではなく、根茎は横に長く這(は)い1本1本は並行して生えます。
草木釉として、陶磁器のうわぐすりに使われた「荻(おぎ)」
荻の群生
荻は全国に分布しており地名にもなっています。「荻」が自生している場所は年々減っており、「荻窪」では保存の会が発足し活動されているようです。
「おぎ」や「すすき」の葉にはガラスと同じ硅酸塩が含まれていて、葉の縁は指を切ってしまう程に鋭くそのお陰で茎や葉が物理的な強度を保っています。釉薬とは、陶磁器の表面に付着したガラスの層のことで釉薬のことを単に「うわぐすり」ともいいます。「すすき」や「おぎ」の灰が釉薬に使われいたこともあったようです。
「荻(おぎ)」のたなびく様子は、神のお告げ⁉
こちらはパンパスグラスというイネ科の植物
荻(おぎ)には「風ききぐさ」という異名があります。水辺に繁殖するその草は背丈が高く、細長い葉や茎は風に靡いて さやさやと音を立てます。それは秋の到来を告げる「荻の声」として歌われています。
荻の葉のそよぐ音こそ秋風の 人に知らるる はじめなりけり
紀貫之 (拾遺集)
葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の 吹き来るなへに雁鳴き渡る
巻10-2134 作者未詳
こちらは、荻の葉音に秋の到来を感じ取り、「風の音、さやぐ荻の葉音、雁の声」と 心地よい秋の音の三重奏です。
万葉集では、ススキや葦が多く歌われ荻は比較すると少ないのですが、和泉式部が、わびしさや、物寂しさについて荻に関する歌を多く読んでいます。
ねざめねば 聞かぬなるらむ 荻風に 吹くらむものを 秋の夜ごとに
和泉式部
物思いで夜中に目覚めたりなさらないからお聞きにならないのでしょう あなたをお招きする荻風が秋の夜ごと吹かないことがあるでしょうか
荻の葉にそそや秋風吹きぬなり こぼれやしぬる露の白玉
大江嘉言(よしとき)(詞花集)
「をぐ」という言葉は神または霊魂を招く意で霊魂を呼び醒す意味にも用いられていて、 「をぎ」の名も霊魂に関係した信仰上の意味があるようです。そのそよぎに神の声を聞いたのでしょうか。荻がそよそよと揺れることを「そよ」「そそや」などと擬声語で表しますが、「そよ」「そそや」も神のお告げを示す言葉から由来します。
秋の七草でもあるススキ(尾花)は、密かなに想いをよせる恋心などとして歌われますが、荻は秋の到来や秋夜長の静けさに聞こえる音などがテーマとして歌われているようです。
フワフワと冬支度をしているようですね
ススキと姿がよく似ていますが、荻は株にならないことと、茎の基の部分にフシ(節)があること、穂の毛が長く白く軟らかいのでススキ(薄)よりもしっとりとしてシルクのように見えることがポイントでしょうか。見分けがつくと面白いですね。
引き続きスポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋と味わい深い秋をお過ごしください。