鈴木雅選手がトレーニングを深く、細かく解説するこのコーナー。今回はハムストリングスのなかでも、もっとも大きな筋肉である「大腿二頭筋」のトレーニング。鈴木選手の、あのバリバリのハムの秘密がここにある。
構成:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 岡部みつる(P.26) 筋肉図提供:ラウンドフラット
ハムストリングスの構造
ハムストリングスの構造
ハムストリングスは大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋の3つの筋肉で構成されています。なかでももっとも大きな筋肉が大腿二頭筋です。大腿二頭筋の短頭は大腿骨に起始部、脛骨の側面に停止部があり、膝を曲げさえすれば働きます。一方、大腿二頭筋長頭は、坐骨結節に起始部、脛骨の側面に停止部があるので股関節、膝関節の2つの関節をまたいでいます。半膜様筋、半腱様筋も同様です。
ハムストリングスを最大収縮させようとすると、股関節は伸展します。つまり、収縮ポイントで大腿二頭筋長頭などを的確に刺激するには、股関節を伸ばした状態で動作を行う必要があるのです。
日本人は腸腰筋が硬く、ハムストリングスを使うことに不慣れな人が多いですが、ストレッチ種目であるスティッフレッグド・デッドリフトなどを行うことで速筋繊維を刺激し、強化することが可能となります。
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「ハムの日」は必要か
ボディビルダーで脚のトレーニングを「大腿四頭筋の日」「ハムストリングスの日」に分けて行っている人は少なくないと思います。私もコンテストに出場しはじめたころは、分けてトレーニングしていました。
ハムストリングスは瞬発系の筋肉なので、持久力には難があります。3セット目に1セット目と同じレップ数がこなせるかといえば、できないはずです。
私は「ハムの日」は設けていません。大腿四頭筋のトレーニングのあとに実施しています。ハムストリングスに関しては無駄なセットも極力やらないようにしているため、量も少ないです。種目も4つにとどめています。
ハムストリングスのトレーニングで重要なのが股関節の柔軟性です。先述の通り、ハムを最大収縮させようとすると、股関節は伸展します。これは個人的な見解ですが、大腿四頭筋をしっかりと使った後のほうが股関節の柔軟性が増して、ハムストリングスに刺激が入りやすいのです。
また、大腿四頭筋に筋肉痛が残っている状態では、股関節を伸展させることができません。ハムストリングスのトレーニングは、大腿四頭筋に筋肉痛が残っていないときに行いたい。これも、脚のトレーニングを大腿四頭筋とハムストリングスの日に分けていない大きな理由のひとつです。
私の場合、ハムストリングスが発達してきたのは東京選手権で優勝(05年)した以降のことです。それまでは「ハムの日」を設けて、多くの種目をこなしていました。プローンレッグカールもマシンを変えて2種類やっていました。
しかし、東京選手権の直前にハムを切ってしまいました。トレーニング量が多すぎて回復が追いつかず、疲労がたまっていたのです。そこから解剖学の本を読み、より効率的にハムストリングスのトレーニングをして改善に努めるようにしました。ここ2、3年でハムのトレーニング量を減らしてからは、さらによくなってきた実感があります。
次ページではトレーニングの進め方を解説
トレーニングの進め方
鈴木雅選手のハムストリングス
鹿屋体育大学での実験で、私が様々なパターンのスクワットを行い、各筋肉群の刺激の大きさを計ったことがありました。その実験では、ハムストリングスに効くとされていたフォームでスクワットを行っても、ハムにはそれほど大きな刺激を与えられていないことがわかりました。
考えてみれば、プレス系種目では下げる動作の際には膝が曲がり、ハムが緩みます。なので私はプレス系種目ではハムを狙うということはやらないようにしています。
①プローンレッグカール
②ハムフレクサー
③スティッフレッグド・デッドリフト
④バックエクステンション
基本的にはこの順番で実施しています。ストレッチ種目のスティッフレッグド・デッドリフトを最初にやることはありません。股関節の調子が悪く、あまりハムに効かせられそうにない日は最初にバックエクステンションを行って、お尻周りの筋肉を動かしやすくしてからプローンレッグカールに入ることもあります。シーテッドのレッグカールは、私にとっては強度が弱い種目なので選択肢からは外しました。
動作としては、爆発的に上げて、少し耐えながらゆっくりと下ろしていきます。一発一発、バツン!と刺激を入れていくイメージです。レップス数は、プローンレッグカールでは5回から8回ほど。シングルレッグのハムフレクサーはお尻の下部の質感を出すためにある程度の回数を行いますが、それでも10回ほどです。セット数も各種目2セットにとどめています。
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トレーニングの注意点
レップ数が少ないということは、一発一発の負荷が高いということを意味します。ハムストリングスは疲労がたまりやすく、切れやすい部位なので、トレーニングでは細心の注意を払う必要があります。ケガを防ぐためにも、トレーニング前のストレッチでハムストリングスが硬いと感じたら、ストレッチポールに乗るなどして少し緩めるようにしましょう。また、人体の構造上、ハムストリングスを伸ばすと脊柱起立筋も伸びます。逆に言えば脊柱起立筋が固まっているとハムも固まるため、腰をしっかりとほぐすとハムも緩むことがあります。
重量設定は、しっかりと伸展・収縮できる重さを選ぶようにします。あまりに重すぎると、ハムストリングス以外の筋肉を動員して、無理に引っ張り上げようとしてしまいます。ネガティブ動作ではハムが重量に耐えきれずに切れてしまう危険性もあります。
ただ、マシンでチーティングを使うのは決して悪いというわけではありません。チーティングが使いやすいということは、解剖学通りに体を動かせているということでもあります。マシンに操られるのではなく、「マシンを使いこなす」という感覚を持つこともトレーニングでは大切なのです。
鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。
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