弁護士にして格闘家、そして不動産投資家という異色の肩書きを持つ堀鉄平氏。楽待新聞では以前、その投資手法や格闘家としての経歴などをインタビュー記事で取り上げた。
前回の取材から約1年、格闘家としては第一線から退いたものの、現在は若手投資家の育成に注力、また本業である弁護士を続けながら、投資家としても新たなステージに立とうとしている。闘う弁護士の次なる一手とは。動画と記事で紹介する。
都心に土地を買い、新築を建てて売る
現在、個人による不動産投資は、中古のアパートや区分マンション、戸建て物件などを購入して賃料収入を得る、あるいは地主などが節税のためにアパートを建てるといった方法が主流だ。
一方、堀氏が実践しているのは、赤坂や六本木、青山など都心の土地を購入し、自ら新築物件を建ててから売却するという手法。不動産賃貸業というよりはデベロッパーに近いやり方だ。
堀氏の事務所に張られている地図。港区を中心に、これまで投資対象となった物件に丸印がつけられている。写真中央、縦の線より東側は地盤が悪いため、投資対象とはならないのだという
この手法にたどり着いた背景には、8年ほど前、居住用に購入した港区の自宅マンションが値上がりし、高値で売れたことがあった。本業の弁護士報酬を遙かに超える額をあっさりと稼ぎ出す「不動産の威力」を目の当たりにした堀氏は、これを期に本格的に不動産の勉強を始める。
その過程で、ネットやチラシでたくさんの投資用物件を目にしたが、どれも「見るからに素人が買いやすいようにつくられた、割高なパッケージ商品」という印象で、魅力が感じられなかった。土地から買って自分で新築を建てた方が、業者の利益が乗っていない分、安く仕上がる。自然に「だったら自分でイチからやろう」という考えに行き着いた。
堀氏が土地から購入して新築した都内某所の一棟マンション。資産家など富裕層が好むこうしたデザインで物件を建て、売却している
狙うのは都心部の住宅地。なかでも一本奥に入った前面道路の狭い土地、私道の問題が絡む物件、接道義務をギリギリクリアしているような小・中規模の土地だ。「あまり大規模になるとデベロッパーと競合してしまう」ため、このような土地が狙い目なのだという。「保有し続けてもよいし、売却して利益確定してもよい」と堀氏は考えている。
この手法で投資を始めたのは今から6年ほど前のこと。宅建士も雇用し、弁護士とは別の法人を立ち上げた。最初に南青山に3億円で購入した土地では1億5000万円でマンションを新築し、6億3000万円で売却することに成功。以来、同様の売買を繰り返し、昨年までに25億円の売却益を得ているという。
「インベスタークワドラント」
現在、投資家の間で主に行われているのは、郊外や地方の築古・高利回り物件への投資。しかしあくまで都心部での投資にこだわる堀氏は、こうした物件にはまったく興味がないという。
「今後10年、20年経ったときに入居者が付くかどうかというと、かなり怪しいですよね。私もよく出張で地方に行きますが、人が少なそうなエリアなのに大きなマンションやアパートがいくつも建っているのを目にします。ああいう場所では人口が減っていけば入居率が50%みたいなことも普通にありえるし、今後金利が上がって返済ができなくなる可能性もある。だったら青山とか六本木とか、成長余地のある都心でやった方が絶対にいい」
そんな堀氏の考えをシンプルにまとめたのが以下の図だ。ロバート・キヨサキ氏が提唱した「キャッシュフロー・クワドラント」に着想を得て、堀氏が独自にまとめたもの。不動産投資の手法を4つに分類した、「不動産投資家(インベスター)クワドラント」と言ったところだろうか。
現在の投資手法は大まかにこの4つに分類できるという(画像は堀氏が行っているセミナーの資料から)
例えば地方の築古物件をメインとする投資手法は、物件のバリューアップはできるが、地方なのでエリア自体の成長は見込めないため、図の右上(地方・ボロボロ)に当たる。規模の拡大に成功した大家や、買い取り再販を行う業者の土俵だ。彼らが仕上げた物件を購入するのは、図中左上の高属性サラリーマンなどだが、「融資が締まっている現在、出口はとりづらい手法」だと堀氏は言う。
一方、堀氏が行っている投資は図の右下に当たる。「都心・ボロボロ」といっても都心の築古物件を再生するのではなく、都心の土地、あるいは建物を解体して更地にして新築物件を建てて、図左下の資産家やREITなどに利益を乗せて売却する。利回りはそこまで高くなくても、都心の好立地に建つ物件を好む資産家の中には、節税目的でこうした物件を欲しがる層が一定数いるのだそうだ。地方に比べると、資産家の数は東京の方が桁違いに多い。「出口の数」を考えれば、地方での投資は選択肢とはならないという。
90人が在籍する不動産投資塾
1年前のインタビューで、「ゆくゆくは不動産投資の知識をつけるためのスクールを運営したい」と話していた堀氏。その計画はすでに実現していた。その名も「堀塾」。
入塾料はコースによって異なるが、いずれも50~200万円と高額だ。しかし不動産投資に関するノウハウ提供のほか、物件見学会や土地の紹介を行っていることもあり、入塾希望者は多いという。
塾生に向けた講義の様子
塾生への土地の紹介は、いわゆる「三為(さんため=第三者のためにする契約)」を利用して行われる。条件のよい土地が見つかるとまず堀氏が買い付けを入れ、その後で塾生に紹介。紹介を受けた塾生に融資が付けばそのまま購入してもらうが、仮に融資が付かなかった場合は代わりに堀氏が購入するという流れだ。土地値は売り出し価格そのままで紹介し、塾生からは仲介手数料のみを受け取る。
「都心で条件のよい物件は、融資特約など付けていたらとても買えません。ですからまずは私が融資特約なしで買い付けを入れ、塾生さんに紹介する。もし塾生さんに融資が付かなければ私が買えばいい。塾生さんは個人の方なので、こういう仕組みが必要なんです。最近では週に1件土地を契約し、年間で50件くらい塾生さんに紹介する予定です」
2019年の7月に立ち上げた塾には現在約90人が在籍、これまで12人がこの方法で土地を購入し、現在新築工事を進めているという。
「築古投資で大成功はできない」
現在王道とされている築古投資では「脱サラくらいならできるかもしれないけど、大成功はできない」と堀氏は言う。
「今流行っている不動産投資って、長期でローンを組んで築古物件を買って、消費税還付を受けたり減価償却で節税して…っていうやり方だと思うんですけど、これじゃあ大して儲からないですよね。彼らの目的はCF(キャッシュフロー)の最大化だと思うのですが、何度も言うように地方の物件にはリスクがあります。融資が緩ければどんどん新しい物件を買って規模でカバーできたかもしれませんが、今の状況ではそうもいかない」
また、もともと不動産の世界に縁があったわけではなく、投資仲間も大家仲間もいないという堀氏の目には、不動産投資業界は「異常な世界」に映るという。
「複数法人スキームとか二重売買契約とか、そういうグレーな手法に簡単に手を出してしまう。きっとその人たちも普段はコンプライアンス意識のあるちゃんとした社会人なのでしょうけど、『みんながやってるから』という理由でやってしまう。赤信号もみんなで渡れば怖くない、っていう発想ですよね。銀行をだましたり、過度な節税で国から嫌がられたり…それも元をたどれば、儲からない方法で投資しているからです。そういう業界を、僕は変えていきたいと思ってます」
格闘技、弁護士、でもやっぱり不動産
格闘家としては現役を引退した堀氏だが、現在は若手のマネジメントに力を入れている。
昨年大晦日に行われた格闘技イベント「RIZIN」に出場した朝倉未来・海兄弟。2人は堀氏が代表を務めるジム「トライフォース赤坂」に所属している。兄弟が地方にいた頃、そのポテンシャルの高さに目を付けて東京に呼び寄せ、練習環境を整えたのが堀氏だ。
大晦日の格闘イベント「RIZIN」で活躍した朝倉未来選手(中央)。堀氏(左)は毎試合セコンドについている(C) RIZIN FF
格闘技への未練はなく、弁護士の仕事も現在は事務所スタッフに任せている堀氏。これから力を入れていきたいのはやはり不動産だという。
「まずは塾の活動を通じて、投資家がちゃんと儲かるようにしたい。ほかにも、投資家が税理士や弁護士などの専門家に気軽に相談できるサイトをつくったり、ファンドを立ち上げて物件を売買し、高利回りの金融商品を市場に提供する計画も進んでいます。間違いだらけの不動産投資が広まっている今の状況を是正したい。まだまだ頑張りますよ」
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(楽待新聞編集部)