アパートの外廊下や外階段を支える「鉄骨」。築年数の古い建物では、この鉄骨が風雨にさらされて錆びてしまっているケースは少なくない。しかしこの「錆び」を放置していると、入居者の命に関わる大事故につながる恐れがある。実際、過去には鉄骨が錆びて共用廊下が崩れ、入居者が落下してけがをする事故も起きている。
では、錆びてしまった鉄骨はどのように修理すればよいのだろうか。今回は鉄骨を補修する専門業者に密着。ある現場で行われた鉄骨補修工事の様子を記事と動画でお届けする。築古アパートなどを保有するオーナーはぜひ参考にしてほしい。
築40年のアパート、「向こうが見えるほどの穴」も
取材したのは、東京都三鷹市にある横山鉄工所。主に建物の外部にある鉄部の補修を行っている会社だ。これまで600件以上の現場を手掛けており、その多くがアパートや戸建て物件のオーナーからの依頼だという。
今回の現場も、東京都内にある築40年ほどの木造アパートだ。共用廊下を支える鉄骨が錆びて腐食が進み、向こう側が見えるほどボロボロになっていた。このまま放置すれば床の崩落にもつながりかねない危険な状態である。
2階の共用廊下。モルタルが割れて剥がれ、その下の鉄骨はボロボロに錆びてしまっていた
2階の共用廊下を1階から見上げる。床を支える鉄骨が錆び、向こう側が見えるほどの穴が空いている。強度にも大きな影響が出そうだ
オーナーによると、10年前の東日本大震災で2階廊下のモルタルにひびが入り、その後数年間をかけてそのひび割れから雨水が染みていった、ということのようだ。鉄部の腐食もじわじわと進み、目に見えて劣化が確認できたことから「このままでは危険と判断して、今回補修工事を行うことにした」という。
この現場で行われる工事は大きく分けて、「鉄骨の補修・補強工事」「床モルタルの補修」「塗装」「長尺シート貼り」の4つ。まずは腐食した鉄骨の補修・補強工事を行い、ひび割れたモルタルを新たに打ち直す。そして鉄部全体に塗装を行い、最後にモルタル面に長尺シートを貼って工事完了だ。足場や養生などを含め、約2週間の工期となる。
なお、横山鉄工所の横山文夫氏によれば、補修費用は現場によって大きく異なるという。「鉄骨階段の段板を2、3段だけ取り替えるとか、ちょっとした防水工事だけという場合は10万円程度で済むこともある」という一方で、全面に防水工事を行う場合や、新たな鉄骨の手すりを追加するといった工事の場合は、「何十万円という費用になってくる」(横山氏)。
鉄骨を追加して補強する
工事開始から2日、この日は鉄骨の補修工事が行われていた。まずは腐食した鉄骨の穴を塞ぐ作業。床の下地(デッキプレート)や梁に、鋼材を溶接して固定する。この鋼材は、補強というよりは「目隠し」のためのものだ。
穴が空いて向こう側が見えてしまっていた部分にL字型の薄い鋼材を取り付ける。これは補強というよりは目隠しの役割
続いて、新たにC形鋼と呼ばれる鉄骨を取り付けて、床を補強していく。既存の鉄骨に「アングルピース」を溶接し、そこにC形鋼をボルトで留める。これによって腐食した既存の梁にかかる力が分散され、全体の強度が高まる。
新たに鉄骨を取り付けて補強する。L型の「アングルピース」を既存の鉄骨に溶接し、新しい鉄骨をボルトで留める
続いては踊り場の直下に当たる部分。ここも床を支える鉄骨の梁が錆び、一部に穴があいていた。ここにも新しい鉄骨を取り付けて補強していく。
階段の踊り場を支える梁も腐食が進んでいたが…
手前にもう1本梁を追加して補強。これで鉄骨の補修はほぼ完了した
塗装のキモは「ケレン」にあり
鉄骨の補強と並行して、鉄部の塗装も行われた。廊下や階段の手すりなどに防錆のための下塗りをし、その後中塗り、上塗りと3度に分けて塗装をかけていく、という流れだ。
鉄骨における塗装は、鉄部を塗膜で保護するという非常に重要な役割を持っている。その塗装を長持ちさせるために欠かせないのが、「ケレン」と呼ばれる作業だ。
ケレンとは、劣化した既存の塗料や汚れを取り除き、表面に傷を付けて凹凸をつくる作業のこと。これによって塗料が付着しやすくなり、新たに塗った塗装が剥がれにくくなる。
劣化した塗装を剥がすケレンの作業
金属のヘラや金属のたわしなどを使って塗膜を剥がし、傷を付けていく。塗装を担当する職人によると、「鉄骨の塗装ではこのケレンが最も重要」だという。ケレンをせずに塗装を行うのは、かさぶたの上から塗り薬を塗るようなもので、せっかく塗ってもすぐに剥がれてしまい意味がないそうだ。DIYなどで鉄部塗装を行う場合はこの点を覚えておきたい。
最後の仕上げ、「長尺シート貼り」
鉄骨の補修と塗装がひととおり終わると、最後の工程である「長尺シート貼り」に移る。長尺シートはモルタルを保護するためのもので、摩耗に強く、人が歩行する床などによく使われる。
まずはモルタルの表面を掃除してほこりを取り除き、のりをまんべんなく塗っていく。モルタルの表面が汚れたままだと、シートが剥がれやすくなってしまうため、表面の清掃は重要だ。
大きなひび割れが補修された床のモルタルにボンドを塗っていく
シートのつなぎ目はカッターで切りながらぴったりと合うように調整。最後は熱溶接でつなぎ目の隙間を埋める
最後に、オーナーに作業報告を行い、今後のメンテナンス方法などを説明してすべての作業が完了した。
工事完了後に1階から廊下を見上げる。ボロボロだった廊下がきれいに生まれ変わった
外階段や外廊下の鉄骨、寿命はどのぐらい?
今回工事を行ったようなアパートの外階段、外廊下の鉄骨の寿命はどの程度なのだろうか。
横山鉄工所の横山氏によれば、立地や使用条件、構造仕様によっても大きく変わってくるものの、「塗装によるコーティングや腐食の補修が施されていない外階段の鉄骨は10~15年程度でボロボロになってしまう」という。
そうならないために重要なのが、鉄骨の表面をコーティングする塗装だが、その塗装自体も一般的には10年程度で剥がれてしまうと言われる。
横山氏は「ギリギリまで放置してボロボロになってから直す、というやり方では、かえって費用が割高になるケースがあります。まだダメージが浅い7年ぐらいのスパンを目処に、定期的に塗装をかける方が長持ちし、最終的にはコストも安くなる。虫歯と同じで、鉄骨も悪くなる前の治療が重要です」と話す。
建物が長く稼働できるよう、手遅れになる前にこまめな塗装や補修を行っていきたい。
撮影協力:横山鉄工所
(楽待新聞編集部)
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