VWの4WDは35年前のパサートからスタート
各地から豪雪のニュースも多く届く冬季の日本。毎年メーカー各社は自社の雪上性能をアピールすべく雪上試乗会を開催するのが定例となってきた。そんな中、フォルクスワーゲン(VW)が今年初開催となる雪上試乗会を長野県・タングラム斑尾スキーリゾート特設コースで行った。用意された試乗モデルはVWティグアンTDI4モーションとVWパサート・オールトラック4モーションの2車種だ。
現在VWジャパンの販売ラインアップにはアルテオン、パサート・オールトラック、ティグアン、ゴルフ・オールトラックの4車種系列に4輪駆動仕様の4モーションが設定されている。以前はVWトゥアレグなど大型SUVが4輪駆動仕様の旗艦となっていたが、現在トゥアレグはラインアップから外れている。それだけにティグアン4モーションの登場をVWファンは待ち望んでいたに違いない。
VW車の4輪駆動車の歴史を遡ると、1984年にパサート・ヴァリアントにビスカスカップリングを搭載した「シンクロ」が最初となる。その後「シンクロ」システムはゴルフ/ゴルフ・カントリーにも拡大採用され1996年になるとトルセンデフを採用したパサート・ヴァリアント・シンクロへと進化していく。
そして2000年になると欧州ハルデックス社のハルデックスカップリングを採用した「4モーション」がボーラV6に搭載され初登場する。今回試乗に供されたティグアン、パサート・オールトラックには第5世代にまで進化したハルデックスカップリングが採用されており、その雪上性能に注目を集めたいというわけだ。
ティグアンTDI4モーションは昨年秋に追加された新グレードで、2リッター直4直噴ディーゼルターボのTDIエンジンを搭載。7速のDCTトランスミッションを介し4輪駆動システムのハルデックス電磁クラッチカップリングが、4モーションとして後輪へも駆動力を配分し4WDとして機能する。前後のトルク配分は前50:後50を最大基本値とし前100:後0までを自動的に制御してくれる。
現行のティグアンが国内に導入された当初はガソリンエンジンに前輪駆動(FF)のみの設定でがっかりしたのだが、ようやく待望の4モーション・ディーゼルが加わったということだ。
モーグルのような悪条件でも走破する高い実力を体感
特設コースはモーグルコースとパイロンスラローム、急坂道の登坂および降坂そして定常円旋回路で構成されている。まずはモーグル路。20センチ以上の段差で凹凸が作られたコースでは前後1輪が対角で浮き上がり通常なら発進が困難なシチュエーションを想定している。ティグアンはSUVらしく180ミリと余裕のある最低地上高を活かし、底打ちすることなくモーグルに進入できる。
車輪の対角浮きが発生すると前輪が空転。すかさすハルデックスが後輪にも駆動力をかけるが、後輪も1輪が浮き上がっているので空転。4輪駆動といえども脱出が難しい状況になる。だが4モーションはここで空転輪に個別にブレーキをかけ、接地側の車輪に駆動力をかけて難なく脱出することができる。ドライブモードはコンソールのダイヤルスイッチを使い即座に変更可能。雪道ではスノーモードを選択するが、モーグルのような悪条件ではオフロードを選択することでトラクションコントロールを完全にオフにして力強い駆動力を与えることができるようになる。
パイロンスラロームではステアリングの効きの良さと前後オーバーハングの短いデザインが取り回し性の良さを感じさせてくれる。スノーモードではライントレース性がよくスムースにクリアでき、安定して安全性が高い。オフロードモードにしてパワーをかけていけばダイナミックな4輪スキッド姿勢を造り出せアクティブに走れるが、トラクションが強ければ車速が高まり過ぎて旋回が辛くなるのは基本通りだ。
続いて坂道コースへ。傾斜度20度ほどの人工的な坂道だが、路面が磨かれてミラーバーンのスリパリーなコンディション。登坂の途中で一旦停止させヒルホールドさせえ再発進。トラクションコントロールとハルデックスが滑り具合に応じて適切なトラクションを引き出し、再発進もスムースに行えた。
下り場面ではヒルディセントが強い味方となる。30km/h以下の速度でブレーキ操作で降坂速度を決め、あとはペダルから足を離してステアリングに集中することが可能だ。4輪個別にブレーキが掛けられるので進行姿勢が乱れず安心感が高い。
最後の定常旋回ではスノーモードとオフロードモードの特性を確認できた。スノーモードでは操舵応答が確保され、車速を上げずにライントレース性を高める。オフロードモードではダイナミックに4輪パワースライドさせスピンコントロール。パワードリフト姿勢も可能だった。ティグアンTDI4モーションはこのように特設コースでも余裕のある走破性を示し、トゥアレグに勝るとも劣らない悪路性能を持たされていることが確認できた。
高い悪路走破性は公道での安心にもつながる
次にパサート・オールトラック4モーションに乗り換える。このクルマには先日一般舗装路およびワインディング路で試乗し、軽快なハンドリングに好感を持っていた。はたして雪道ではどんな特性をみせるのか。
走りだしてすぐに感じたのは快適性の高さだ。圧雪路ながら轍ができて角が凍って固まり、路面コンディションは良くない。普通ならガリガリ、ギシギシ、ゴーゴーとタイヤが氷を崩し、また細かな路面凹凸から受ける衝撃が車体に入力されボディをキシませる音がするものだ。しかしパサート・オールトラックは静かで快適なまま走れる。快適すぎて路面は乾燥舗装路ではと勘違いしてしまいそうだ。
ブレーキをときどき踏み制動Gと制動姿勢を確かめながら走るが、電子制御が完璧で速度コントロールさえ誤らなければライントレース性は完璧だ。S字コーナー区間では軽快なアジリティさえ示し、ワインディングで感じた特性がそのまま雪道でも再現されている。
今回の雪上試乗会ではミシュランのXアイス3プラスがオフィシャルタイヤとして装着されていたが、いくらシャシー性能が高くてもタイヤがプアなら本来の走行性能は引き出せない。そういう意味でもミシュランと4モーションの組み合わせは理想的であり雪道での頼もしい走りを実演してみせてくれていた。