「睡眠の質向上」や「ストレスの緩和」をうたい消費者の支持を獲得。乳酸菌飲料市場を一気に押し上げてきた「ヤクルト1000」に、初めて成長の壁が訪れている。
【図表で見る】ヤクルト1000のヒットが業績を大幅に押し上げた
ヤクルト1000の全国発売は2021年。従来のヤクルト商品よりも単価が高く採算もよい同商品のヒットで、ヤクルト本社の国内飲料・食品の事業セグメントは急成長。2019年度に182億円だったセグメント営業利益は、2023年度に495億円まで拡大している。
今やヤクルト本社の収益柱に成長したヤクルト1000。しかし、実は昨年度、会社の数量目標を達成できずに終わってしまったのだ。
なぜ計画未達になったのか
ヤクルト1000は店頭専用商品が「Y1000」、宅配専用商品が「Yakult(ヤクルト)1000」と分かれている。
店頭品は2023年度、期初に1日当たり95万本の販売計画だったが、期中に上方修正し、最終的に102万本で着地。2022年度と比べて50万本増と好調だった。
一方、宅配品は期初に1日当たり250万本の計画だったが、最終的に216万本で着地。2022年度の203万本から増加したが、6%の伸びにとどまった。この結果、2023年度の国内飲料・食品セグメントの営業利益は前期比4.4%増の495億円となり、期初計画の534億円に対して未達に終わった。
未達の背景には、増産に対する期待があった。宅配品の生産量は既存客の需要には応えられていたが、新規顧客へ提案するには不十分だった。在庫を切らすリスクを避けるため、ヤクルトレディの営業活動にも制限をかけざるを得なかったのだ。
そんな中、今年1月に待望の静岡県・富士小山新工場が稼働。最大生産能力は宅配品が1日当たり60万本、店頭品が同25万本だ。これでヤクルトレディも営業にアクセルを踏み込み、顧客獲得が進むとみられていた。
それでも結局、販売本数は計画に届かなかった。ヤクルト本社の大濱弘和・広報室 IR室長は「増産で一気に顧客を獲得する計画だったが、簡単ではなかった」と肩を落とす。
宅配品の営業はこれまで、主に既存顧客へアプローチして伸ばしてきた。さらなる成長には、接点のない新規顧客にも働きかける必要がある。「新規顧客の獲得には時間がかかるとわかった。ヤクルトレディの教育を見直し、体制を整える。着実に価値の訴求をして、少しずつ売り上げを上げていきたい」(大濱室長)
店頭品も出荷した商品がすべて売り切れる状態だった。増産を経て、今後は積極的な販促を打ち出す。継続的に飲用してもらうための6本パックの配荷や、コンビニでのキャンペーンの実施、給食といった新チャネルへの配荷など、多方面の取り組みで数量を伸ばす構えだ。
今2024年度の数量目標は宅配品が1日当たり230万本(前期216万本)、店頭品が130万本(同102万本)だ。富士小山工場も6月12日からフル稼働状態に入る。増産効果を発揮するためにも、営業の強化が焦点だ。
ブームから必需品にシフトできるか
乳酸菌飲料で大きな利益を上げてきたのは、日清食品グループの日清ヨークも同じだ。機能性表示食品である「ピルクル ミラクルケア」のヒットが続いている。主力商品を安定的に供給するため、一部商品は休売を余儀なくされるほどだった。
好調を背景に、ピルクルシリーズも生産体制を増強する。今春に埼玉の関東工場のラインを増設。さらに2025年春には兵庫県の関西工場のラインを増設する。増強後の生産能力は約2倍になる予定だ。
「多様なラインナップ展開や昨今の乳酸菌飲料市場の活況で、ピルクルシリーズの販売数量は増加している。(生産体制の増強で)さらなる需要の拡大に対応していく」(日清ヨーク)
大ブームとなったヤクルト1000シリーズやピルクル ミラクルケアは、メーカー側が積極的に働きかけずとも売れる商品だった。だが、最近では小売店の棚や自販機に安定的に並ぶようになり、業界では「ブームは一段落したのでは」との声も聞こえてくる。
増産投資を行う以上、増産分も確実に売りさばく必要がある。メーカー側も積極的なマーケティングを仕掛け、新たな消費者をつかむ段階にきているのだ。
乳酸菌飲料は、消費者に効果を実感してもらうため、各メーカーが毎日飲み続けることを勧める商品だ。一過性のブームでなく、必需品として消費者の生活へ定着させられるかが、さらなる成長のポイントとなりそうだ。
(田口 遥 : 東洋経済 記者)