10年程前、筆者がiPhone 4Sを購入して本格的にSNSを始めた当時、海外のSNSユーザーは絵文字をほとんど使っていなかったのを覚えている。例えば、ハートは活字「「Japanese Culture Emoji」と評され、日本の代表的な文化の一つになっている。
ここからは、絵文字の歴史と変遷をたどり、いかにして世界中に普及したのかを探っていく。
CO-59絵文字が文字コードに最初に含まれたのは1959年、日本の新聞社が記事交換用に使用した「CO-59」という六社協定新聞社用コード表で、「⚾︎」野球ボールの絵文字が最初である。
X-23,Y-36に野球ボールの絵文字「⚾︎」がある。
タイプフェイス1984年の「第8回 石井賞 創作タイプフェイスコンテスト」にて、書体デザイナーの佐藤豊氏が、佳作を受賞した絵文字を約物として使用することを提案した。
ポケベル1995年頃、ポケベルに搭載された絵文字により、文章に絵文字を組み込んで小型通信機でやり取りをする文化が広まった。
電話のダイヤルで「88(または89)」と入力することで、ハートマークの絵文字「♥」が使えた。
スカイウォーカー1997年11月、東京デジタルホン(現ソフトバンク)がショートメッセージサービスの「スカイウォーカー」をリリース。スカイウォーカーはiモードに先駆けて、携帯電話上でのEメール送受信を実現するなど時代を大きく先取りしたサービスだった。さらに、スカイウォーカーに対応した携帯端末「DP-211SW」が同年月に発売される。この端末には多くの絵文字が搭載されていた。
モノクロながら液晶タッチパネルを採用した「DP-211SW」の端末。しかし、商業的には失敗した。
iモードNTTドコモが1999年2月から始めたインターネットに接続できる携帯電話サービス「iモード」に絵文字が搭載される。リリース時の絵文字は、12×12ドット仕様で全176種類あり、これら全てを元NTTドコモの栗田穣崇氏(現ドワンゴ専務取締役)が企画開発した。その後、競合他社でも導入され、日本国内で一気に普及する。
iモード対応の初号機として、1999年2月22日に発売された「F501i」の端末。モノクロで絵文字が表示されていた。
iPhone 3G2008年11月にリリースされた「iPhone OS 2.2」で初めて絵文字が使える(日本のみ)ようになる。なお、提供しているキャリアがソフトバンクのみということもあり、ソフトバンク準拠でのデザインになっていた。その後、2009年6月にはソフトバンク(Disney Mobile)とドコモ、au、イー・モバイル、ウィルコム、そしてGmailの間で絵文字を含むメールが扱えるようになる。
The Making of Apple’s Emoji: How designing these tiny icons changed my life
When design leads to friendship, and that friendship leads ba
medium.com
2008年の夏、グラフィックデザインを学ぶ学生(インターンシップ)だったAngela Guzman氏は、AppleのアイコンデザイナーRaymond氏とともに500種類近くのEmojiをデザインし、Apple創業者Steve Jobs氏から承認を受ける。その後、Emojiプロジェクトは別のデザイナーに引き継がれる。
Unicode 6.02010年10月、世界共通の文字コードUnicodeの「バージョン 6.0」で絵文字が採録される。さらに、日本のモバイルキャリア3社の絵文字との対応表「EmojiSources.txt」が追加される。これによって、キャリアや端末に依存していた携帯電話の絵文字の表現を統一的に扱うことが可能となった。
iOS 4.32011年3月にリリースされた「iOS 4.3」で、絵文字は世界共通の機能となる。ここから世界中で絵文字の利用が加速し、SNS時代のコミュニケーションの一つとして「Emoji(絵文字)」が親しまれるようになる。
オックスフォード英語辞典2013年12月、世界最大の英語辞典「オックスフォード英語辞典」のオンライン版に「Emoji(絵文字)」が採録される。
世界絵文字デー2014年、「Emojipedia」という絵文字リファレンスサイトの主催者Jeremy Burge氏によって、毎年7月17日にSNS上で「#WorldEmojiDay」のハッシュタグをつけて記念日を祝うイベントが発足。なぜ7月17日なのかというと、iOSのカレンダーの絵文字「📅」の日付が7月17日という理由だからだ。
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😀🌎🌍🌏📆 Happy #WorldEmojiDay! 🎉 We’ve got some 😎 new ones to show you, coming later this year! 👀👇 https://t.co/xBR9ZJ7l4g pic.twitter.com/fhDrr4J5KG— Tim Cook (@tim_cook) July 17, 2017
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iOS 8.32015年4月にリリースされた「iOS 8.3」で、絵文字に描かれた人物の肌の色を変えられるようになる。人種多様性に配慮した変更である。
今年の単語2015年、毎年恒例のオックスフォード英語辞典が選ぶ「The Word of the Year(今年の単語)」に、嬉し泣き顔の絵文字「😂」が選ばれる。当時、世界的に最も頻繁に使われた絵文字なのだそう。
MoMA Collectionニューヨーク近代美術館(MoMA)は2016年10月、日本発の「Emoji(絵文字)」を永久収蔵品(MoMA Collection)に加えることを発表した。永久収蔵品入りが決まったのは、NTTドコモ(栗田氏)が開発し1999年に世に送り出した176種類の絵文字になる。
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ドコモ時代に私が手がけた絵文字がニューヨーク近代美術館(NY MoMA)に収蔵されることになりました。>Look Who’s Smiley Now: MoMA Acquires Original Emoji https://t.co/B5d5urVryB— くりたしげたか(Re)🌰ニコニコ代表の人 (@sigekun) October 26, 2016
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Inbox: The Original Emoji, by Shigetaka Kurita | MoMA
Other installation. Dec 9, 2016–Mar 12, 2017. In 19
www.moma.org
MoMAのブログでは、絵文字誕生の経緯を紹介し、「NTTドコモから絵文字がリリースされたことは、人々が携帯電話を介してコミュニケーションする上での革命的な変化に寄与した。栗田氏の絵文字は、デザインの力が人間の行動に変化をもたらすことを力強く示すもの」と評価し、収録に至ったとしている。
Animoji2017年11月に発売したiPhone Xの「iOS 11」で、TrueDepthカメラの顔認識の技術を活用して、自分の表情と音声をブタ・パンダ・ネコ・イヌ・ロボットなど16種類に置き換えて表現することができる「Animoji」が搭載される。さらに「iOS12」では、キャラの顔を自由にデザインして似顔絵キャラを作れる「Memoji」が搭載される。
おわりに絵文字が世界中で広まったのは、2010年のUnicodeへの採録、さらには、翌年のiPhoneへの標準搭載が起点だといえる。調査会社Asymcoによると、2011年度のiOSデバイス(iPhone/iPod touch/iPad)の販売台数は1億5,600万台ほどで、iPhoneの世界的な普及とともに絵文字が広まったと考えていい。以降、絵文字は急速に種類が増え、デザインもリアルになっていく。さらに、肌の色が違う絵文字も登場して多様性が増す。1999年に栗田氏が生み出した12×12ドット仕様の176種類の絵文字は、普遍的でシンプルなデザインだ。それ故に、文章と絵文字を組み合わせてもお互い邪魔立てせず、デジタル上のコミュニケーションの阻害にもならなかった。しかし、現在の絵文字のデザインは複雑になりすぎており、発信者と受信者の間でコミュニケーションの齟齬が生じやすくなったと筆者は感じる。例えば、「😅」や「🤔」などの絵文字は、人によっては不愉快に感じるとの声がある。絵文字自体の主張が強いあまり、コミュニケーションの阻害になってしまうケースだ。絵文字の役割は本来、「漫符」のように文章に添えるものだと筆者は思う。その視点から栗田氏の絵文字を見てみると、デジタル上のコミュニケーションを楽しく円滑なものにするべく、考え抜かれたデザインだと再認識できる。