何かと慌ただしい世の中にささやかな光を届けたい。
先日、「書に祈りを込める」試みをしてみました。
相棒はおなじみの ぺんてる筆 《極細》。
その時の記事にご質問をいただいたので回答いたします。
まず、梵字についてですが、Wikipediaがかなり詳しいので読めばだいたいわかります。基礎知識はこれ以上要らないのでは?というくらいの情報量だと思います。
梵字 - Wikipedia
ja.wikipedia.org
造字規則はハングルに近いですかね、たぶん。
寺院で使われる悉曇文字(しったんもじ)とは、インドで体系づけられた 表音文字 である シッダマートリカー【 siddhamātṛkā 】のことです。「完成された文字」という意味で、全ての音韻を表現できるように作られているそうです。悉曇は【 siddha (完成された~)】の音写です。
字義はほとんど後付けのような気がします。
(商業利用されていたから)
密教ではこの一字一字に諸仏を割り当てました。これは意味を圧縮することで大量の臨場感情報を扱えるようにするためだと思います。
”日本人の多くは「一個の桃」から勇敢な男の子、爺さん婆さん、鬼、イヌ、サル、キジを抽出することが出来ます。これは背景として圧縮保存されており、普段は意識に上がらなかったとしても、必要な時に展開させることが出来ます。しっかり含意はされているわけです。これが臨場感情報の圧縮ということです。「インセプション」というハリウッド映画ではトーテムと呼ばれる持ち物でこの機能を利用しています。呪具の一種です。※機会があれば解説します。”
仏を内包させた悉曇文字を「種字」と呼びます。植物の種に「発芽、生長、開花、結実、次の種」が内包されているように、情報が圧縮されていることから種という字をあてたのだと思います。
”字形は画像検索が可能です。辞典も存在します。Wikipedia「梵字」の悉曇章で構成について詳しい解説がありますが、日本語で音写しきれないため理解は難しいです。”
押さえておきたいポイントは以下です。
”・いくつかの要素を合わせて造字が可能・音や意味に影響を与えない装飾がある”
Wikipedia内の 表1 摩多 に半体という欄があり、それらで音の合成が理解できます。とりあえずは11と12だけでも十分です。11がつくと音として「ン」が、12がつくと「ク」が加わります。
11は空点と呼ばれますが、三日月が傾いたような「仰月点」が加わることがあります。これは音に影響のないただの装飾です。
では、質問に回答していきます。
阿弥陀如来の種字、キリク。
「カ」「ラ」「イー or リ」「ク」だと思います。
阿弥陀如来は密教では胎蔵界曼荼羅の五仏の一尊(五人組アイドルグループのメンバーみたいなもの)となっていて、西方を担当しています。
インドにいた頃はアミターバ(無量の光)、アミターユス(無量の寿命)とも呼ばれていました。「アミター(無量の~)」が音写されて阿弥陀になっています。
”仏のプロフィール(Biography)を記述したものを儀軌(ぎき)と呼び、基本的には経典化されています。ご利益などはここから引用されます。もちろん捏造されたものだと思います。釈迦が「苦」の解放を発願したように、仏は基本的に仏に昇格する際にゴール設定しています。そのゴールの性質によって仏の利益が決まります。パン屋になった仏にはパンをもらうということです。”
浄土系の救済が縁で日本人と親和性が高いため、書くことにしました。慌ただしい世の中なので。
虚空蔵菩薩の種字、タラーク。
「タ」「ラ」「アー」「ク」だと思います。
空海が室戸岬の洞窟での修行における本尊です。梵名のアーカーシャガルバは「虚空の母胎」という意味ですが、これは宇宙の根源と理解するのが適切であると思います。神智学でいうアカシックレコードの「アカシック」の語源です。わたしは欲望の対義としてみてます。
宝や福を生み出す宝生如来の種字でもあります。
(今の時代に限りませんが)満たされない想いをしている人が多いと思いますので書きました。
不動明王の種字、カーン。
「カ」「アー」「ン」だと思います。
日本では馴染みのありそうな仏(明王)。煩悩を抱える最も救い難い衆生をも力ずくで救うため、忿怒相(怒った姿)をしているとされています。梵名のアチャラナータは「揺るぎなき守護者」という意味。わたしみたいなものですね。(わたしは忿怒相ではないけれど)
鎌倉時代の二度にわたる元寇(蒙古襲来)の際、不動明王を祀る鎌倉五大堂明王院で祈願がなされ見事退けたことから、国難を退ける利益があるとされています。
今まさに国難なので書きました。
大日如来の種字、アーンク。
「アー」「ン」「ク」だと思います。
「ウ」を含むかも。
密教の教えを視覚化した両会曼荼羅の主尊です。
梵名マハーヴァイローチャナは偉大なる阿修羅王という意味です。アスラというのは古代インドの神族・魔族(力の象徴たる存在)の総称です。
全神魔、という意味で捉えればいいと思います。仏教が併合しました。
”ヴァイローチャナを光明遍照と訳すこともありますが、わたしはそれを後付けと判断しアスラ説を支持しています。宮坂宥勝先生の論、ですかね。中村元先生は「 Vairocana はもとは太陽を意味する語であった」と説明しておられます。わたしもその考えに同意なのですが、物質としての太陽と神族魔族の象徴としての太陽では意味が異なり、仏教では後者の意味をとったと推測しています。”
日本ではマハーヴァイローチャナを摩訶毘盧遮那と音写し、毘盧遮那仏と呼称しています。奈良の大仏が特に有名です。毘盧遮那仏としての性格は華厳経に詳しいです。
大日如来に関する経典は「蘇悉地経」「大日経」「金剛頂経」などがあり、後の二経典はそれぞれ胎蔵界曼荼羅、金剛界曼荼羅の解説本に相当する位置づけです。
祈願や供養に関し、祈りの方法論としての歴史があるので書きました。わたしが書いたのは胎蔵界大日の種字です。金剛界大日だと「バーンク」になります。
以上、マニアックすぎましたがおしまい。
ほとんどWikipediaベースの理解です。
思想を借りるだけならそれで充分です。
種字は以下で画像検索するとだいたい出ます。
「仏の名前 梵字」 or 「仏の名前 種字」
毛筆、朴筆 を追加するのも良いです。
金剛、胎蔵 を加えても結果が変わります。
▽ 釈迦推しのわたしによるお釈迦さま解説
スキがあふれてますので面白いと思います。
是非読んでみてください。
▽ 過去のぺんてる筆作品