多くのカメラが店内に設置されている狙い
前編と中編で紹介してきた、「Scan,Bag,Go」の技術要素から紹介していきます。
・デジタルシェルフ用ハード
棚上に設置されている表示管理用ハードが現時点では大きく、あまりスマートではありませんでした。しかし、これは早期に解消されるでしょうし、顧客には関係ありません。
・棚真上の4眼×2連カメラ
「Scan,bag,go」の棚真上に写真のような特殊カメラが設置されていました。カバー範囲は広そうですが、構造的に深度センサーなどのない単純なRGBカメラであり、顧客行動把握にはこれだけでは難しいものです。
仮説① 顧客行動取得
顧客行動分析が目的であれば、アプリとEDGEに表示してちゃんと棚に近づけるかの検証でしょう。目的が店内動線分析だとしたらデジタルシェルフ対象コーナーにしか設置されていないので不十分です。
仮説②棚状況の監視
おそらく、こちらの用途だと思います。米国の店舗の広さを考慮すると、欠品補充を効率的に行うことでの機会損失を減らす収益効果は期待できます。ましてや買い物リスト商品は顧客が買うつもりの商品なので、来店する前にキッチリ補充しておきたいところです。また、欠品状況をリアルタイム監視して、欠品した商品位置は売価ではなく、次回入荷予定を表示するだけでも利便性は向上します。
■運用課題
現在は全ての棚がデジタルシェルフであるEDGEになっているのではなく、普通の紙プライスカードの売場と半分半分です。この影響もあるかとは思いますが、運用で残念な光景がありました。
欲しい商品の場所を見つけやすくする機能なので、次の写真がイメージ通りです。
実はこの画像は、私が紙プライスカードの位置を貼り直して撮影したものです。実際の売場で見た光景は、次のようでした。つまり、プロモーション商品はデジタルシェルフに足して、紙でアピールしようという売らんかな意識です。これが現場では必ず発生します。
日本でも単純なデジタル値札システムを導入しているスーパーは数多くあります。しかし、大抵の実運用はこうなっているのですよね。システム設計をしているベンダーや開発部門が見落としているのはこういうことなのです。現場で何が起こるかは、顧客の目線で体験しないとわからないものです。つまり、デジタル改革には、運用の改革も不可欠なのです。
アプリに将来性はあるのか
クローガーとマイクロソフトという巨人が組んだ売場とアプリが連動する最新の試みですが、現時点の実用性には疑問が残ります。このままの形では投資に値しないでしょう。
ただし、ここまでで記載したとおり、
・探しやすさ向上
・欠品対策によるLTV向上
に大きな可能性がある仕組みであり、有意義なチャレンジだと考えます。
「エンド陳列などでは、棚に近づくとEDGEに二次元コードが表示され、クーポン利用ができる」という話でしたが、私が端末を変えつつ2日間検証した範囲ではまだ実行されていませんでした。
しかし、買い物リストだけでなく、顧客の購買履歴・滞在時間などに連動してエンドのEDGEが演出するというようなOne to oneもできるハードであると感じました。
■その他のクローガーの取り組み
・QueVision:レジ待ちとサポートの可視化
「QFC(Kroger)」の店内・天井には、そこかしこにカメラが存在します。これは防犯という目的だけではなく、前述の技術と組み合わせて顧客行動分析に使われていくと推測しますが、明確な用途がもう一つあります。それはレジ待ちストレス解消です。
写真はレジ後ろ壁面にあるディスプレイです。3つの丸が並んでいます。左の数字が現在、解放されている有人レジ台数、真ん中が開けることが望まれる有人レジ台数、右が30分後に解放するべきであるレジ台数を表示しています。
これは顧客向けではなく、レジおよび店内にいる従業員向けの情報表示です。クローガーはこのシステム導入によりレジ待ち時間が大幅に短縮し、サービスが改善したと公表しています。
実際に長い時間かかったレジ待ちはなかったと感じましたが、私は実計測もしませんでしたし、2日(計3時間)では評価しきれません。待ち時間の見える化による従業員意識の向上という効果もあるでしょうし、有効な仕組みと考えます。
・カーブサイドピックアップ(Curbside Pickup)
アプリから事前注文した商品を店舗スタッフが指定時間までに揃えておき、顧客は店舗まで行って一括でピックアップする仕組みです。いつも買う商品はこれで買い物の時間を省くことができ、実物を見たい商品だけを店頭で選ぶことで時間の節約ができるわけです。顧客からすると好きな時間に取りに行くことができて宅配便待機する必要がなく、店舗はネットスーパーのように宅配コストをかけずに売上が確定できるメリットがあります。
特にクローガー独自の取り組みというわけではなく、店舗売場が巨大で宅配品質が低い米国では日本よりも普及しているサービスです。
世界No.1食品スーパーの取り組みということでかなり盛りだくさんになってしまいました。
次回以降は、世界No.1ホームセンターHomedepotの最強顧客体験、Walgreenで目撃した最新サイネージ飲料棚、AmazonGoの最新アップデートや類似スタートアップの現実、物を売らない店舗b8ta2店舗などを体験したレポートを、時には日本企業と比較しながらしていきます。