就職氷河期やワーキングプア、リーマンショック、派遣切りといった数々の受難に見舞われながら、「失われた20年」とともに生きてきた今のアラフォー世代。
アラフォー女性に関していうと、現在、約半数は非正規雇用の立場にあり、35歳から44歳の独身非正規女性の7割近くが年収250万以下だといいます。
そうしたお金の問題はもちろんのこと
・結婚や出産リミット
・老後
・病気
・親の介護
・孤独
といった問題もいよいよ我が身におしかかってきて、悩みは尽きません。
そんな、アラフォー世代の女性たちが抱えている不安や悩みにスポットを当てた『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)を刊行した雨宮処凛(あまみや・かりん)さん。
そして、大阪国際大学准教授・全日本おばちゃん党代表代行の谷口真由美(たにぐち・まゆみ)さんという、アラフォー世代のおふたりに、「これからアラフォー世代はどう生きていくのか」をテーマとした対談をしていただきました。
左:雨宮処凛さん/右:谷口真由美さん
■今のアラフォー世代は「貧乏くじ世代」とかひどい名前をつけられてきた
雨宮処凛さん(以下、雨宮):私たち、ふたりとも1975年生まれですよね。
谷口真由美さん(以下、谷口): そう。まったく同い年、同じ学年。
雨宮:今回、『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)を読んでいただいたかと思うのですが、どうでしたか?
谷口:すごいリアル。リアルすぎて、ほんまにようこんなこと書いたなって(笑)。
雨宮さんが書いた『非正規・単身・アラフォー女性』を読んで「リアル過ぎる……」と話す谷口さん
雨宮:この世代は、「貧乏くじ世代」とか、ひどい名前しかついていないじゃないですか。本にも書いたんですが、学生時代は受験戦争もいじめもひどくって、社会に出る頃には、バブルが崩壊して、就職氷河期、その後はワーキングプア、リーマンショックに派遣切り。
谷口:日大アメフト部みたいなしごきに耐えてきた。それはもちろん私も同じ。
雨宮:谷口さんは、大学の正規職員ですよね。
谷口:そう思っているでしょう。実は私は任期制教員で、この次の3月で大学を辞めるの。その後の行き先も決まってない。
雨宮:じゃあ、今までは雇用契約を更新してきたってことなんですか?
谷口:そう。なぜ私たちをパーマネント(正規の教員)にしてもらえないんだと散々言ってきたんですが、ある時、もうプチコンと切れて、「(パーマネントになる)意思はありません」って。今まで「パーマネントにせい!」って、みんなで戦ってきて、その先頭を走ってた私が「いらん」って言いおったと学内騒然になって(笑)。
雨宮:谷口さんのほうから、見切りをつけたんですね。
谷口:そう。パーマネントの先生たちが親切なフリしながら、仕事をすべて任期付の教員に振っていて。
雨宮:「頑張れば正社員にしてあげる」って目の前に人参ぶらさげられている派遣社員の人みたいな。
谷口:たとえば、入試委員長とか、就職委員長とかを任期付職員にやらしてて。「そういうことをやったら、ポイントがあがる」「正規の教員になりたかったら、やったほうがいい」とかいって。それをやってきた人たちが、ことごとく落ちたことに対して頭きて、教授会で、また、「ええ加減にせいよ。人の人生なんや思ってるんですか」って。違法ですよって。こんなん、裁判したら負けまっせって。
雨宮:就業規則とか、全部出せば勝てますよね。
そんな『非正規・単身・アラフォー女性』を執筆された雨宮さん。
谷口:私も、裁判やったら勝てると思ってるけど、もう、それこそ、後ろ向きにそんなところ争っててもしゃあない。もう、気持ちが萎えたんです。
今まで、「付き合いたい、付き合いたい、好きやねん、好きやねん」って言ってた男の子に、ずっとけんもほろろな態度を取られてて「もうええわ」と思ったときに、「付き合ったってもええで」と言われたみたいなもんやから「いらんねん、もう! 遅いねん、Too late!」みたいな感じで。こっちから願い下げじゃ、お前みたいなんはいらんって。
雨宮:大学なんていうと、アカデミックでしっかりと人権が守られた世界っていう感じがしますが、こんなふうに一般企業のような理不尽があるんですね。
■「お前も我慢しろ。だって私もしんどいんだから」というメンタリティ
雨宮:谷口さんは、同じ年だけど、大学教員という立場で、結婚して、お子さんもいる。お子さんは娘さんでしたっけ?
谷口:ふたりいて、娘がひとり、息子がひとりですね。
雨宮:私は、フリーランスで、独身で子どももいません。アラフォーにもなると、かなり人生が分かれていると思うんです。同世代で、そういうふうに結婚して、子どももいてって人も多い一方で、未婚率も高くなっているし、出産をしない人もたくさんいる。
谷口:そうですよね。
雨宮:けれど、社会的には、とにかく男性とつがいにならないと生きていけないみたいな感じじゃないですか。
ある程度の年齢までは、お父さんに面倒を見てもらって、それからは、正社員の、健康な成人男性の夫と世帯を作ってもらって――っていう前提があるから、男性の庇護がなくなると途端に貧困になってしまう。それこそ、シングルマザーとか。男女の賃金格差もあるし、あと、社会保障も世帯単位ですよね。
谷口:日本国憲法って、個人として生きていけということを書いているにもかかわらず、実際はカップルかファミリーにならないと生きていくことが難しい。
本来は、個人として生きていける法政策を取るべきであって、選択肢が多い社会というのが、みんなが機嫌良く生きられる社会なんです。けれど、現実には、女性で法的に保護されるのって、女子か、妻か、寡婦(未亡人)で、シングルマザーの保護なんてまったく十分ではないし、シングルの成人女性は入ってない。
雨宮:女子というのは未成年を示すんですか?
谷口:そう、女子は未成年。というか、法的には「女子」は成人女性も含む言い方なので、ここでの場合だと、若年のときに家族に保護されている女性。
雨宮:それらの網からこぼれ落ちることが、想定されていないわけですね。
谷口:人間が社会からケアを受ける期間って、人生の半分くらいだと思うんです。
雨宮:半分?
谷口:たとえば、多くの人々が大学や専門学校といった高等教育を受ける時代であると想定をすると、22歳くらいまではケアを受けている側です。それで60歳(定年)になって、年金は今65歳からですけど、そこからはまた社会によるケアを受ける側になります。
雨宮:22歳から65歳ないし、60歳までは、独り立ちして生きていっていると想定されている。
谷口:そのレンジの人たちには、なんの保障も保護もないというのが、この国の特徴。実は社会から一番放置されているんちゃうか、って。だからこそ逆に「自分たちは自分の足で立ててんねん」って納得したり。
雨宮:「自分の足で立つ」ことが当たり前になっているからこそ、「すべて自分でやれ」という自己責任論になっちゃったりとか。
谷口:インターネット上で自分の意思に反する意見に対して攻撃的になってしまうのは、この「自分たちは、自分たちの足で立てているんだ」という幻想を抱いているからなんです。でも、保障という名の網からこぼれ落ちた途端に、いやいや、全然できてへんかったやん、セーフティネットないやん、みたいなことがわかる。だから、枠から外れないように必死だし、誰かに対して、自分の必死さを悟られまいと、ヘイトになっていったりとかもあると思うんです。
結局、上を見て暮らすな、下を見て暮らせという発想。なんにも明治時代から変わっていないですよ。明治維新150年とか言うてますけど、メンタリティは何も変わってへん。昭和どころか、たぶん、明治くらいから、権利意識とか、人権意識とか、何も変わってない。自分たちに権利や人権があると思っていないから、他人の人権なんてもっと尊重できない。
雨宮:脈々と、そういう世界が続いてきているわけですね。
谷口:自分がずっとDVを受けているみたいな状態だから、「お前も我慢しろ、私もしんどいんだから」となる。政策を見ているとDV的じゃないですか。国家的なDVというのが日々おこなわれている中で、自分たちの日常の生活とかもDV的になっていくんだろうなと思うんです。
■100年前に起きた米騒動と「保育園落ちた日本死ね!!!」は一緒
雨宮:今年(2018年)って、米騒動(※)から100年でもあるんですよね。
※米騒動:1918年(大正7年)に日本で勃発した米価格の急騰にともなう市民運動。
谷口:ほんまや。
雨宮:米騒動って、ある意味、女の一揆というか、女性が米を求めて立ち上がる、というのはいい話だと思います。一番シンプルでいいじゃないですか。米がない、米が高い。だから女たちが怒って、米を求めて運動を起こすって。
谷口:でも、結局、女の運動だったから、革命にならなかったんだなというのもあると思う。米騒動に、男も巻き込みきれなかったことが、日本の近代市民運動のつらいところかな。
雨宮:なんでこの運動に男性がもっと参加しなかったのかっていうと、テーマが米だったからですかね。もっとでかいもの、戦争とか、安全保障系とかだったら、男性も喜んで参加するのかなって(笑)。
谷口:「米なんて、しょぼいわ」と思っとったんやろ。
雨宮:これって今でいう、保育園問題ですよね。
谷口:世の中に保育園を必要としているのはお母さんだけと思ってること自体がね、もう、アホかって話でしょう。だから、米騒動と「保育園落ちた日本死ね!!!」は一緒や(笑)。
雨宮:保育園を見つけてくるのも妻だし、保育園落ちたら仕事やめるのも妻だし、米を買ってくるのも妻。
谷口:そう。炊くのもね。脱穀するのもですよ。
雨宮:これってすべて生きる上で必要なことなのに。
谷口:だから、男性は、生活を馬鹿にしすぎなんだと思うんです。日常生活というものに対しての敬意がすこぶる低い。「日常生活はたいしたことない、外で働いているのは価値のあるのもの」みたいな、しょうもない発想。
■歴史に刻まれてこなかった敗者と女性の歴史
谷口:この前ね、沖縄の学芸員の女性とお話しをしたんです。そうしたら、「聞いてください。実は、移民史の研究をしていて、男性の聞き取りと、おばあさんの聞き取りもしたいと言ったら、『女性の話は感情的で、歴史的な意味がないからしなくていい』と上司に言われたんです」って話していて。
雨宮:それは酷いですね。
谷口:彼女は、非正規の立場だから、強く言えなくて、どうしようって悩んでいたので、「じゃあ私がエッセイに書けばええんや」と思って。
そのときの話で面白かったのが、「ハブを殺す」という話でも、男女によって話し方が違うということ。たとえば、男の人は武勇伝のように語る。「角からハブがヒューッと出てきたやつを、俺がこん棒を持って、バンッとやって、シャーッと逃げていった」とか。でも、女の人は違っていて、バシッと締めた後に、天ぷらにしたとか、焼いて食べたか、そういう話なんです。
雨宮:女性の話になると、一気に生活感が出てきますね。
谷口:これは俗説ですけど、歴史という単語「History」は、大体、「He’s story」だからという話があるんです。でも、それ、すごい言い得て妙で、やっぱり「He’s story」なんです。男の歴史というか。基本的に、勝者の男の歴史しか残っていない。敗者とか女性の歴史というのは本当に残っていなくて。
雨宮:女性が、いかに蔑ろにされてきたかっていう。
谷口:だからそれをエッセイに、書いたんです。
男性は過去を自分の話というより、一般化して、そして武勇伝的に語る傾向があります。女性の話は生活に根ざしており、感情的ではあったとしても生身の人間が生きていた話をしてくれます。どちらもあって初めて、立体的に歴史が捉えられるのではないでしょうか。
文章提供:谷口真由美
谷口:そうしたら、そのエッセイが新聞に載った2日後に、学芸員の女の人たちが、私のその記事を持ってピースサインしていている写真が送られてきて。上司が、「女性の聞き取りも再開してください」って言ったと。
雨宮:すごい。その人に通じたんですね。
谷口:自分のことを、当の本人だと気が付いたどうかはわからないけど「ああ、そうだな、女性への聞き取りもやらなきゃいけないな」と思ったんじゃないかなと。初めて「なるほど、自分が何かすることで、社会が動くこともあるねんな」と思った瞬間やったんです。ハブを食べるとか、天ぷらにしたら美味しかったとか、そんな話、聞いたことないじゃないですか。
雨宮:食べられるってことを、私もいま知りました。貴重な情報です。
谷口:だから、女の歴史というか、生活の知恵とかを、きちんと残していたら、みんなもっと賢くなっていたかもしれないのに。そういう女性の知恵や歴史を、おそらくですが抹消してきことは、今の世の中に蔓延する生きづらさと無関係ではないと思うんです。
雨宮:「女性である」というだけで話もロクに聞いてもらえないんだから、そりゃ生きづらいですよね。しかも、アラフォーは、特に加齢によって価値が暴落しているとされる時期ですよね。日本人男性の若い女好きって異常じゃないですか。
谷口:まぁ、ロリコンですからね。
雨宮:「出産年齢」とか「結婚は若いうちに」とか、「孫が見たい姑の圧力」とか、そういう若さにだけ価値を置くことがすごい恐ろしく思えます。その上で、やっぱり、私自身もそうなんですけど、40代になって結婚していない、子どももいない、これから先ひとりで生きていく、という人生を想定していなかったんです。自分はもちろん、この社会だって想定していなかったから、誰も準備していなくて。今回の本の中でインタビューした女性たちも、「独身で生きていくと決めたわけでは全然ない。だから備えて貯金なんかもしていない。お金があればまた違ったんだろうな」って話していて。
酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』(※)的な生活は、なんか楽しそうですよね。けれど、酒井さんはバブル世代で、私たちよりちょうど10歳くらい上ですよね。その世代の負け犬にも、私たちはさらに全部負けている。結婚もしていない、出産もしていない、それでいて非正規も多くて、貧乏という。
※『負け犬の遠吠え』:酒井順子による同世代の本音を描き出したベストセラー本。2003年講談社より刊行。
谷口:あの負け犬たちには、お金がありますからね。
雨宮:悲壮感があふれてきましたけど(笑)。でも、これからは真剣に負け犬以降の貧乏アラフォー単身女性がどう生きるか、考えなくてはいけない。
取材/Text:大泉りか
編集/Photo:小林航平
雨宮処凛プロフィール
1975年、北海道生まれ。 作家・活動家。 愛国パンクバンドボーカルなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。 以来、いじめやリストカットなど自身も経験した「生きづらさ」についての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。 2006年からは格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、運動中。メディアなどでも積極的に発言。3・11以降は脱原発運動にも取り組む。 2007年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)、『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)。
谷口真由美プロフィール
1975年大阪市生まれ。大阪国際大学准教授。大阪大学非常勤講師。専門分野は、国際人権法、ジェンダー法、日本国憲法。大阪大学での楽しく工夫された講義は名物となり、大阪大学共通教育賞を4度受賞。2012年には、プラットフォーム「全日本おばちゃん党」を、Facebookで立ち上げる。目的は、おばちゃんたちの底上げと、オッサン社会に愛とシャレでツッコミをいれること。おばちゃん目線でオッサン政治をチェックしながら、問題提起を続けている。現在党員は世界各地から5500名を超える。世界のメディアからの注目が高く、仏紙リベラシオンのポートレイト欄に紹介されたほど。