中国「BYD」ってどんなメーカー?
1995年に広東省深セン市でバッテリーメーカーとして誕生したBYDは、現在、蓄電池や半導体、EVメーカーとして業界をリードする企業にまで成長した。
【画像】実車に対面【BYDの導入する3モデルを詳しく見る】 全10枚
自動車事業は2003年にBYDの自動車部門「BYD汽車」を設立。
まだ20年にも満たない新しい会社ではあるが、世界で最も多くのBEV/PHEVを販売しており2021年は中国市場においてEVは前年比145%増の販売台数を達成。
プラグインハイブリッド車の合計で、世界トップクラスの年間販売台数約60万台を記録している。
さらに電気バスにおいても2022年現在、合計7万台のBYD製電気バスが70超の国と地域で走っており、今やあの有名なロンドンバスもBYD製の採用が進んでいる。
もちろん世界シェアナンバー1である。
そんなBYDがこのたび日本市場にてEV乗用車の販売をスタートすることが明らかになった。
もしかすると、BYDという名前を初めて聞いたことがある人もいるかもしれないが、BYDは2005年から日本で事業展開を開始。
意外と長い歴史を持っている。
2015年には電気バス「BYD K9」を5台、京都市内を走るバス「プリンセスライン」に納入した。
価格の安さはもちろん、高品質でしっかりとしたアフターサポートによってBYDの電気バスは全国の自治体やバス事業者に続々と採用が進んでおり、2022年5月現在、日本国内での納入台数は65台にまで増えた。
また、電気バス以外にもBYD e6というステーションワゴンが2022年より法人向けに発売開始となり、京都の都タクシーに代表される「タクシー車両」としての採用も進んでいる。
プラットフォーム 劇的な進化
電気バスでの実績を踏まえて、ついに2022年7月21日、かねてから日本での要望も高かった3種のEV乗用車、コンパクトSUV「アット3」(中国名:元PLUS)、プレミアムセダンの「SEAL」(同:海豹)、そしてコンパクトカー「ドルフィン」(同:海豚)が日本に導入されることが発表された。
いずれも本国での発売から1年未満の新しいモデルだが、このうち最も早く日本での販売を予定しているのが2023年1月発売予定のアット3である。
アット3は2022年2月に中国で発売され、今春からオーストラリアやシンガポールでの販売も開始。いずれも非常に好評なモデルとなっている。
日本に導入される3車種にはすべてBYDが新開発したEV専用「e-プラットフォーム3.0」を採用している。
この「e-プラットフォーム3.0」は駆動モーター、モーターコントローラー、トランスミッション、車両コントローラー、バッテリーマネジメントシステム、DCコンバーター、オンボードチャージャー、高電圧配電モジュールなどの8つのモジュールを1つに集約させたものだ。
安全性はもちろん、効率性や居住性、そしてスマート化を実現させた最新のプラットフォームとなっている。
筆者は本日、アット3に短時間だが同乗試乗した。
旧型プラットフォームを採用したタクシー車両のe6にも今春、同乗試乗する機会を得たが、乗り心地や静粛性がまるで違っていて本当に驚いた。
着座位置も低めで乗り降りもしやすい。
このような劇的な進化がわずか数年間で実現できることに驚嘆する。
斬新装備 日本導入の3モデル
3車種のスペックや特徴を紹介しておこう。
◇アット3
アット3のサイズは全長4455mmx全幅1875mmx全高1615mmで日本で乗るのにちょうどいいサイズ。
駆動方式は前輪駆動で、フロントに出力150kW(204ps)のモーターを配置。
容量58.65kWh、BYD独自開発の安全性の高い「ブレードバッテリー」を搭載し、1充電で485km(WLTP方式)の走行を可能としている。
後部座席に乗ってみたが、エクステリアデザインの美しさもさることながら、インテリアの斬新なデザインや、遊び心あふれる機能性に感動した。
例えばドアポケットには実際に音が出る「弦」のようなものが採用されている。しかもドア4枚にすべてだ。
楽器のような機能を持っており、指ではじけば3本の弦はそれぞれ音程も異なる。
先進の電装技術を多数盛り込みながら、ドアポケットには指で音を出すアナログな楽器を採用するなど、ガソリン車を作ってきた自動車メーカーには到底マネができない。自由で新しく、ファッショナブルな装備が満載である。
◇ドルフィン
ドルフィン=イルカの名のとおり、2021年よりスタートした新たな商品群「海洋」シリーズの第1弾で「e-プラットフォーム3.0」を初めて採用したモデルとなる。
ボディサイズは全長4290mmx全幅1770mmx全高1550mm。日本でも扱いやすいコンパクトサイズとなっている。
搭載するブレードバッテリーはスタンダードモデルが容量44.9kWh(WLTP方式での航続距離386 km)、そしてハイグレードモデルが容量58.56kWh(同じく471km)。日本での発売は2023年半ばを予定している。
◇シール
こちらもドルフィン同様、「海洋」シリーズのモデル。
2022年5月に発表されたばかりのBYD最新車種となる。
美しさとスポーティさ、プレミアム感もたっぷりのルックスが特徴だ。
ボディサイズは全長4800mmx全幅1875mmx全高1460mmでスタンダートモデルとハイグレードモデルが用意されている。
スタンダードは後輪に出力230kW(313ps)のモーターを搭載するFRモデル、ハイグレードは前に160kW(218ps)のモーターを加えた四輪駆動モデルでバッテリーは2グレードとも容量82.56kWhを搭載。
WLTP方式での航続距離も2モデルとも555kmと500km超を誇る。日本には2023年の下半期に投入を予定している。
社長に聞く なぜ対面販売?
ここで気になるのは、BYD車の販売方法である。
2022年3月に最新のEVアイオニック5とともに、久しぶりに日本市場へ復帰した「ヒョンデ」(HYUNDAI)は「オンラインのみ」の販売方法を採用したことで話題を呼んだ。
しかし、BYDでは対面販売をおこなうべく2025年までに全国100か所のディーラー網を整備するという。
その理由を日本在住歴20年以上のBYDジャパン劉社長は以下のように話す。
「オンライン販売はいつでもできます。すぐにでもできます」
「しかし、BYDは乗用車ブランドとしては新しく、また、EVというまだ多くの人にとってはなじみのない分野のクルマを販売するのです」
「だからこそ、ディーラーとお客さまとの信頼関係を築くうえでもディーラー販売にこだわっています」
「クルマは『買ってから』がお付き合いの始まりです。アフターフォローを対面でおこなうことに大きな意義を感じています」
「ひとまず3年間で全国100か所の販売・整備拠点を考えています。すでにディーラーとなっていただける販売業者様の募集もおこなっています」
「実際にBYDのEVにサーキットなどで試乗いただいて、いったいどんなクルマなのか? 世界トップクラスの販売台数というが中国製のEVがほんとに日本でちゃんと走るのか? そのような疑問も実際に乗って触れていただいて解消していただいています」
1度に3車種導入されることにも驚いたが、やはり100か所のディーラーを整備することが今回の最大の驚きである。
最先端の電子技術に感嘆させられる一方で、アナログで血の通ったコミュニケーションが自動車販売には重要と考えるBYD。
これからの展開が楽しみである。