アウレリアではシリーズ4がベストtext:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ランチア・アウレリアB20なら、土曜日はラリーやスプリントレース、ヒルクライムに興じ、日曜日は母親を教会のミサへ送り届けられる。月曜日からは通勤の足にも使え、9.6km/Lの燃費で往復できた。
ランチアはアウレリアの強みを理解し、7年間のモデルライフで、6世代に渡る改良を加えた。その多くには、モータースポーツでの経験が活かされた。
ランチア・アウレリアB20 GT S6(1957年〜1958年)アウレリアの成功の背景で、デザイナーはあまり表に出てこない。ブランドの歴史に詳しい人物によれば、ギア社のフェリーチェ・マリオ・ボアーノが手掛けたという。98台が作られた後、ピニンファリーナ社が製造を引き継いだ。
ピニンファリーナ社による手打ちのボディは、ランチアの下請けとして製造。そのためB20には、ピニンファリーナのエンブレムが付いていない。
改良を受けたシリーズ2では、5psの追加の馬力と、大型化されたブレーキを獲得。クロームメッキのバンパーと、リアに目立つフィンを備えている。
2.5Lエンジンは、1953年のシリーズ3から。テール周りが丸みを帯びたデザインに改められ、バンパーの形状も新しくなった。B20の中では最速のシリーズだと、自己主張するように。
実際ファンの間では、シリーズ4がベストだと考えられている。大きなエンジンに、ドディオン・アスクル式のリア・サスペンションが組み合わされ、最も安定したハンドリングにまとまっている。
1956年のシリーズ5では、ややパワーダウン。そのかわり、トランスアクスルとブレーキが強化された。
広々とした車内で視界に優れるフラミリア1957年から1958年を受け持ったのが、最終型のシリーズ6。クーペにはベンチレーション機能付きのクオーター・ウインドウが付いているから、すぐに分かる。
シリーズ5と6では、ディティールが改められ、見た目のチャーミングさが弱まっている。シリーズ4より若干重く、活発さでも及ばない。もっとも、アウレリアの輝きを霞ませるほどではない。
ランチア・フラミリア・クーペ 2.8(1963年〜1967年)今回登場願ったアウレリアは、チップ・コナーがオーナーのシリーズ6。ランチアの専門ショップ、ソーンリー・ケルハムの手で、完璧な状態に保たれている。シルバー・ボディの左ハンドル車だ。
現代に合わせて、小さな改良も加えられている。ツイン・ウェーバーのキャブレターやフロアから伸びるシフトノブなど、すべてが「正しい」ランチアに感じさせる本物感が漂う。
並ぶフラミリアも同じ。繊細なアイボリーに塗られたボディが美しい。1962年のクーペを、今はスティーブ・アーノルドが面倒を見ている。2.8Lとしては最初期の1台。ボディサイズは以上に、車内は広々としている。
フラットでワイドなシートに座ると、全方向に視界が良い。リアシートにも、大人が座れるだけの空間がある。設計は1950年代末だが、アウレリアの狭い車内と比較すると、1970年代を見越したデザインにも感じられる。
アウレリアB20の狭い車内には、茶室のにじり口のように、頭をかがめて乗り込む必要がある。横幅も狭く、左肘側には余裕がない。ウインドウを開いて運転したいと思わせる。
滑らかなトルクと反応の良いパワー感2台ともにハンサムで、お皿のようにメーターが大きい。ペダルはフロアヒンジ。ダッシュボードのスイッチ類は高級感があるものの、ランダムに選ばれたようにも見える。
新車当時でも決して速いクルマではなかったが、アウレリアの排気音が、深く滑らかに響く。シフトレバーは、金属的な精度の高さを匂わせる。V6エンジンの即時的なピックアップが、気持ちをそそる。
ランチア・アウレリアB20 GT S6(1957年〜1958年)フラミリア・クーペも感触は似ているが、全体的にリモート感があり一体感は薄い。生々しい雰囲気が、微妙に薄められている。
車重はアウレリアより200kg重い。エンジンは滑らかだから、車内からは落ち着いて感じられる。タペットノイズはやや大きい。2速や3速で回転数を引っ張れば、同等の中間加速は得られるだろう。
どちらも、高回転域でのパワーを楽しむタイプではない。滑らかなトルクと、反応の良いパワーデリバリー、変速を味わうタイプのユニットだ。それだけに、街なかでの運転もしやすい。
アウレリアほどではないものの、フラミリアの変速フィールも素晴らしく正確。低い段数でのギアの唸りは、アウレリアのように聞こえてこない。シンクロは強化され、クイックに変速できる。
どちらのランチアも、高速で走らせてもガタツキやきしむ音はない。目に見えない部分へのコストを惜しまない改良が、洗練性となって表れている。
バランスに優れる流暢な身のこなしフラミリアのブレーキは、4本ともにダンロップ製のディスク。強い制動力で、50歳を重ねるクルマにしては安心感が高い。アウレリアはドラムで、より強くペダルを踏む必要があるものの、それでも充分に良く効く。
ハンドリングは当然のように良い。現代の交通に交わっても、落ち着いて運転できる。大きく速いクルマなら速度を落としたいカーブでも、控えめなパワーを活かしながら、滑らかに抜けていく。
ランチア・アウレリアB20 GT S6/ランチア・フラミリア・クーペ 2.8細身のタイヤからは、ランチアの優れるバランスや、流暢な身のこなしを想像できない。路面の隆起やうねりを見事に吸収し、安定性も良い。ドライバーの熱意を示すように、ボディは程よくロールする。
アウレリアの方が、ステアリングはクイックで重い。フラミリアはより軽く、レシオもややスロー。直立気味の大きなステアリングホイールを介して、正確に操れる。
フラミリアのグリップ力は高い。アンダーステアはほぼなく、もう少しの余裕があることを感じさせてくれる。
2台のランチアは、ドライバーの気持ちに応え、充足感を与えてくれる。メルセデス・ベンツやジャガーのターゲット層を取り込むような、洗練されたクルマを目指して開発されている。特にアウレリアは、今でも多くの輝きを感じさせる。
実際は、アウレリアもフラミリアも、多くのドライバーを獲得することはできなかった。フラミリアの方が技術的には洗練されている。しかしボディは大きく重く、必要な3.0Lエンジンが搭載されることもなかった。
不思議に強く惹かれるフラミリア筆者の場合、アウレリアよりもフラミリアの方に強く惹かれてしまう。理由はわからない。2台の間には、現在の取引価格で10万ポンド(1340万円)ほどの差がある。
フラミリアへの共感は、歴史的な背景以上の部分が含まれている。手に負えない高価なクルマだからといって、否定的に見ているわけではない。
ランチア・アウレリアB20 GT S6/ランチア・フラミリア・クーペ 2.8おそらく、フラミリア・クーペの方が、筆者の育った年代のランチアなのだろう。ブランドへのイメージが湧きやすい。
ただし、ここにランチア・アウレリアB24スパイダーが並んだら、考えも変わるかもしれない。クルマを評価する気持ちは、人それぞれなのだ。読者の場合はいかがだろうか。
ランチア製クーペ 2台のスペックランチア・アウレリアB20 GT S6(1957年〜1958年)のスペック
価格:新車時 3346ポンド/現在 15万ポンド(2010万円)以下
生産台数:424台
全長:4369mm
全幅:1549mm
全高:1359mm
最高速度:177km/h
0-97km/h加速:14.0秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1310kg
パワートレイン:V型6気筒2451cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:119ps/5000rpm
最大トルク:18.4kg-m/3500rpm
ギアボックス:4速マニュアル
ランチア・フラミリア・クーペ 2.8(1963年〜1967年)のスペック
価格:新車時 3388ポンド/現在 4万5000ポンド(603万円)以下
生産台数:2153台
全長:4674mm
全幅:1727mm
全高:1422mm
最高速度:178km/h
0-97km/h加速:12.7秒
燃費:5.7km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1520kg
パワートレイン:V型6気筒2775cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:138ps/5400rpm
最大トルク:22.4kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速マニュアル