もくじ
ー バングル 沈黙おわる 新作は……
ー なぜバングルはBMWを去ったのか
ー アニメ、酒、宇宙船も手がける
ー 心に残るあのモデル 現在に不安視も
ー おまけ じつはベンチづくりに夢中
バングル 沈黙おわる 新作は……
評価のわかれる4代目BMW 7シリーズや、有名なクーペ・フィアットで知られたカーデザイナーであるクリス・バングルは、2009年にBMWを去って以降、われわれの目から完全に姿を消していた。
しかしその時間も終わったようだ。
車内スペースに新たなアイデアをもたらすことを意図した、「レッドスペース」という名の奇妙な中国製シティカーのコンセプト・モデルとともに、これまでとは全く異なるプロジェクトで再びわれわれの目の前に登場した。
11月のLAモーターショーで発表されたこのクルマは、バングルと彼のチームが2014年から開発を続けており、2020年の生産が予定されている。バングルはコストの問題を認めつつも、デザインにほとんど変更はないだろうと楽観的だ。
では、なぜバングルはBMWを去ったのだろう?
なぜバングルはBMWを去ったのか
「15年経ったらBMWを離れようと決めていたんです。結果的には17年になりましたが。決してBMWが嫌いになったわけではないですよ」
「もしあのまま留まっていたら、何か変化が必要になり、その変化は決して好ましいものにはならないとわかっていたからです」
「わたしが知る多くのデザイナーは、ほとんどがそのキャリアの最後を上手く終えることができませんでした。ひとびとの見る目が厳しくなり、彼らはあらゆる手を尽くして創造性を保とうとするからです」
だからこそ、バングルは彼自身のデザイン・コンサルタント会社をイタリアに設立することを思い立ったのだ。BMWはバングルに数年間カーデザインをしないよう求め、彼は喜んでその求めに従った。「4つのタイヤを持つクルマのデザインは殆どやりつくしていましたから」と彼は言う。
彼の最初のプロジェクトのひとつは広島にある老人ホームのデザインだった。
この老人ホームの運営会社のトップがバングルのイタリアにあるスタジオに偶然出会って彼に仕事を依頼することにしたのだ。
「あのプロジェクトでは非常に多くのカーデザインの手法を取り入れました」と彼は言う。「予約も済ませましたよ」
予想外のプロジェクトはこれだけではなかった。
アニメ、酒、宇宙船も手がける
予想外のプロジェクトはこれだけではなかった。バングルはヘネシーVSOPのボトル・デザインも手掛けることになったのだ。
このプロジェクトでは有名なコニャックの「ゆるぎない伝統」を感じさせるデザインが求められた。バングルはこのデザインを彼も携わった新世代ミニの成功になぞらえる。ヘネシーのプロジェクトも成功裏に終えることができた。
「ヘネシーはデザインを気に入ってくれましたよ。最も売れ筋の商品ですからね」
その他には超高級クルーザーや宇宙船のプロジェクトまであり、宇宙船は後に1/1スケールが作られた。現在進行中の興味深いプロジェクトとしては、インターネットとポッドキャストで公開されるアーキー・アーチと呼ばれるアニメがある。
このプロジェクトの目的は教育的で、アニメの創作過程を共有でき、子供たちの創造性を喚起しながら、インターネットの良い面を見せることにあるそうだ。
バングルのコンサルタント・チームは現在総勢8名だが、彼は案件ごとにBMWの元デザイナーやエンジニアを含め、さらに必要なメンバーを集めることにしている。
バングル自身に彼の最高傑作を選んでもらうのは難しいだろうけれど、あえて聞いてみることにした。
心に残るあのモデル 現在に不安視も
「現場のデザイナーから、チームを管理する立場になれば、自分よりもチームを誇りに思うようになります。あえて挙げるなら……そうですね。例えば、Z4はわたしにとって素晴らしい作品です。」
「なぜなら、このプロジェクトではチームにふたりの女性、ジュリアン・ブラージとナドゥヤ・アルノートを加えて、初めて主要な自動車メーカーにおける主要なスポーツカーのデザインを行ったからです。過去30年、こんな試みは誰もしていないと思います」
「自分自身がデザインを行った最後のモデルはクーペ・フィアットですが非常に気に入っていますよ。見れば見るほど好きになるんです」
では、彼の最新プロジェクト、レッドスペースについてはどうだろう?
「このクルマは自信作ですよ」と彼は言う。「カーデザインに何か新しいことができるかどうかという意味で、わたしにとってはとても重要なプロジェクトです」
このプロジェクトは生産段階に移るまで、バングルにとっての主要な案件であり続ける。しかし、他に彼は何を成し遂げたいのだろうか?
バングルには公表しない数多くのプロジェクトがあるが、それよりも彼はカーデザインの未来を優先させるつもりのようだ。「カーデザインを前に進める手助けになれればと思っています。どうあるべきかといった先入観を取り払って、何ができるかを考えたいのです」
「いま現在、われわれはデザインの岐路に立っており、間違った方向へ進もうとしています」
「つまり個性よりも完全さを好むという方向です。残念ながら、これは世界中のひとびとから自分たちの好みを選ぶ権利を奪うことになるのです」
おまけ じつはベンチづくりに夢中
バングル自身によれば、彼の最大の作品はビッグ・ベンチ・プロジェクトだという。
「わたしのことをカーデザイナーだと思っているかも知れませんが、ごらんのとおりわたしはベンチづくりに夢中なんです」と彼は言う。
バングルと彼の妻による2.5m×3mのベンチが欲しいという思いから始まったこの計画は、いまやビッグ・ベンチ・コミュニティ・プロジェクトと名付けられたNPOへと発展している。
バングルは厳格に定められた基準を満たしていれば、パテント済みのプランを無料で開放している。その基準とは、例えば誰の迷惑にもならず、ひとびとが思わず行ってみたいと思うことなどだ。
現在、44のビッグ・ベンチがイタリアとニュージーランドに設置済みで、英国、ドイツと米国からも問い合わせが来ている。
彼いわく「天気の良い週末には自宅の前のベンチに座るために、200台もクルマが集まるんです。とても光栄なことです。大切なルールは税金を使わずに、民間の寄付か有志で行うということです」
「イタリアでは一般的な方法ではありませんが、これは公共のために民間資金を使うというコンセプトなんです。驚くほど効率が良いですよ」