993型GT2に迫る性能を半分の価格でtranslation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
992型のポルシェ911の性能を確かめてみる。フラット6は2基のターボで過給され、図太いリアタイヤを駆動する。0-100km/h加速は4秒程度でこなし、最高速度は290km/hを超える。993型のGT2を思い浮かべることもできる性能を持つのが、新しい911カレラ。エントリーグレードでもそれほどの性能がある。
1990年代半ばにレース参戦を前提に誕生した、ホモロゲーション・スペシャルに匹敵する性能が、最新のエントリーグレードでも手に入るのが2019年。しかもスポーツクロノ・パッケージを選べば、100km/hまでの加速時間は4.0秒に縮めることができる。993型の911 GT2は、4.4秒だった。
ポルシェ911カレラタイヤサイズを見ると、992型のカレラが履くリアタイヤは幅が295で、現代の高性能スポーツカー基準で見るとやや控えめな方。1995年のGT2が履いていたのは幅が285だったが、一般道のポルシェの基準で考えるとやり過ぎにすら思えた。
1995年にそんな高性能の911を手に入れるためには、当時で17万3000ポンド(2249万円)も用意する必要があったが、2019年なら約半分の値段だ。かつてのGT2は1300kgを切る軽量なクルマだったが、最新の911はアルミニウム製ボディで軽量に努めてはいるが210kgほど重い。時代の流れでもある。
4輪駆動でもカブリオレでもない素のカレラでも、トランスミッションは7速マニュアルではなく、8速のPDKデュアルクラッチATとなる。いまのところ。エンジンは基本的にカレラSと同じ3.0Lの水平対向6気筒エンジンだが、ターボを小型化することで最高出力は450psから385ps/4500rpmへとパワーダウン。最大トルクも53.9kg-m/2300rpmから45.8kg-m/1950rpmへと、充分な数字は残っているが削られた。
額面ほど実感しにくいパワーダウン実際の加速性能としては、Sとの大きな差はないだろう。新しい911カレラSの80km/hから112km/hへの加速時間は2.2秒とされており、先代の素のカレラも2.6秒でこなしていた。恐らく、直接比べなければ多くのドライバーはSとの差は実感できないと思う。
ブレーキもSのと比較すると小径なものになるが、多彩なオプションから大径ブレーキも装着可能で、今回の試乗車にはカーボンセラミック・ブレーキがおごられていた。なおカレラSには後輪操舵システムが付かず、車高が10mm下がるPASMスポーツサスペンションも選べない。
ポルシェ911カレラ何もオプションを付けない素のカレラの価格は8万2793ポンド(1076万円)となり、素のカレラSよりも1万ポンド以上(130万円)安い。この試乗車にはノーズリフト・システムにスポーツエグゾースト、ダイナミック・エンジンマウントを含むスポーツクロノ・パッケージなど豊富なオプションが追加されており、総額はかなり上乗せになっている。
オプションで90Lの大容量燃料タンクも装備していた。AUTOCARが今年の初めにテストした高速巡航燃費は14.1km/L程度だったから、無給油で1280kmくらいは走り続けられることになる。
インテリアはSと大きな違いはなく、ダッシュボードには10.9インチのインフォテインメント・システム・モニターと、インスツルメントパネルには7インチのモニターが収まる。古い純粋主義者は慣れるまで時間がかかりそうだが、トリュフ・ブラウンの上質なレザーに、「パルダオ」ウッドトリム・パネルがあしらわれ、素晴らしい雰囲気を作っていた。
低ブースト圧が生むシャープなレスポンスかつて最もベーシックな911は、甘美なドライビングを味わわせてくれた。小径なタイヤに狭いリアトレッド、柔らかいサスペンション。社会的な速度域でも感覚豊かなハンドリングを味わうことができた。それを踏まえると、最新の911カレラの仕上がりには期待と不安が混ざる。
992型では、Sモデルと同じ46mm広いワイドボディをまとい、フロントトレッドは先代のGT3と同値になった。タイヤサイズは、オプションのフロントが20インチ、リアが21インチという大径を履いていたが、標準なら1インチずつ小さくなる。大きなボディに大きなタイヤだから、一般道を圧倒する走りを叶えている。
ポルシェ911カレラ385psの3.0Lエンジンは、2019年基準でも不満のない数字だし、ツインターボのコンプレッサーは小径化されておりフィーリングは良い。ブースト圧はカレラSよりも0.3bar低くなるぶん、ターボラグは少なくレスポンスはとてもシャープ。常にふんだんなパワーとトルクを引き出せるから、欲求不満を感じることはないだろう。
回転数の立ち上がりは、重たいフライホイールを付けた自然吸気エンジンのように、後輪へトルクが伝わるまでに一瞬のタメがあり、古い911を彷彿とさせる僅かな金属音を響かせる。だが、走り出せばそのレスポンスは驚異的。7500rpmのレッドライン目がけて、軽快ながら重厚感ある勢いで、容赦なく吹け上がる。
PDKも抜群のでき。変速は瞬間的につながる感覚を伴いながら、スムーズに完了する。つまりパワートレインは秀抜の仕上がりで、実際のパフォーマンスは別として、楽しさという点ではカレラSよりも優れている。まさに下剋上状態だ。
グリップ力が高くシャシーの安定性にも優れ、車内は風切り音やエンジンノイズから切り離されているから、その速さにドライバーは実感がわかないかもしれない。気がつけば160km/hをうっかり超えていた、ということもアウトバーンならありそうだ。
しなやかなサスペンションが生む自由度フロントよりリアのホイールサイズを大きくすることで、クルマの重心点が前方にやや移動しており、360mmという小径のステアリングホイールを切った方向へ、クルマは苦もなく向きを変える。ステアリングは重いがレスポンスは軽快で、常に直感的に操作できる優れものだ。
つまりすべてが、これまで試乗した最新の992型で得た印象に負けなくらい素晴らしい。正確でニュートラルで、驚くほどに速い。違いは、素のカレラはカレラSほどシリアスではないところ。
ポルシェ911カレラPASMスポーツサスペンションを装備したクルマと比較しなければ充分に車高は低く見えるが、やはりサスペンションのトラベル量は大きく、ボディの動きも大きい。そして社会的な速度域での運転感覚は、フィーリングが豊かだという点でカレラSとは異なる。
サスペンションはしなやかに上下し、ブレーキング時に重心がやや前方に移動することで、クルマを操る自由度の制限がゆるくなる。オーバーステアやアンダーステアは、最新の911では忌み嫌う言葉かもしれないが、かなり積極的に走らせたとしても、素のカレラのコーナリング時の滑らかな動きには驚かされる。
後輪操舵は付いていても良い。機敏なクルマをさらにご機嫌にしてくれるし、2速を使うヘアピンでも息を呑むスピードで抜けられる。ただし、個人の好みではあると思う。
低速コナーでフロントタイヤに荷重を移し、リアを少し流してオーバーステアに移すことも可能だ。だがグリップ力を失うことはなく、徐々に外に膨らみ、スリップしながらラインが外に膨らむ程度。サスペンションは柔らかめの設定ながらボディコントロール性が優れているから、挙動はやや急なところもあるものの、一貫性はある。
911は上位モデルが良いとは限らないサスペンションは、10kmも乗れば素のカレラ以上に硬くする必要があるのか、疑問に思えてくる。過去に試乗したカレラSは、英国西部の傷んだ路面などではクルマが浮いたような感覚を伴うことがあった。しかしカレラなら、横方向の制御に関しては、デフォルト状態で素晴らしい柔軟性を示してくれる。もちろんスポーツ・プラスモードにすれば、1段階引き締めることもできる。
今回の試乗コースはドイツの滑らかな路面だったから、911カレラは期待数通りの、優雅な走りを披露した。英国で試乗できる機会を得たら、小径の標準サイズのホイールで、傷んだ路面をどのように処理してくれるのか確かめたいところだ。
ポルシェ911カレラ最新のポルシェ911の売れ行きも、素のカレラよりもカレラSの方が好調となり、1・2年後に登場するであろう、カレラGTSがさらに人気となるのだろう。718ボクスターやケイマンとは異なり、ポルシェ911のドライバーは上位モデルを選択する傾向が高く、さらに高いモデルを選ぶひとほど、オプションも沢山選ぶ傾向があるようだ。
992型のポルシェ911を運転したいま、そんな流れが正しいものだとは思えない。ワイドボディは車線内で窮屈に感じるが、存在感はカレラS並みに強くなったとも解釈できる。そして滑らかで飛ばせる道路であっても、380psが物足りないと感じる瞬間はないはず。直線スピードではSに並べなくても、それ以外の区間ではタコメーターの針はさらに上を指す可能性もある。
新しい911カレラはしなやかで運転しやすい、真のスポーツカーだ。限界領域の80〜90%くらいのレベルで楽しむのなら、カレラSよりも好適だと思う。もしさらにシリアスさを求めるのなら、サーキットでタイムを削りたいのなら、今ならGT3か993型のGT2が良い。
ポルシェ911カレラのスペック価格:8万2793ポンド(1076万円)
全長:4519mm
全幅:1852mm
全高:1300mm
最高速度:292km/h
0-100km/h加速:4.2秒
燃費:9.4−10.0km/L(WLTP)
CO2排出量:206g/km(WLTP)
乾燥重量:1505kg
パワートレイン:水平対向6気筒2981ccツインターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:385ps/6500rpm
最大トルク:45.8kg-m/1950-5000rpm
ギアボックス:8速ツインクラッチ・オートマティック(PDK)
ポルシェ911カレラ