ベルト調整式チャイルドシートとは?
text:Kumiko Kato(加藤久美子)
日本を含め、世界複数の国々で「スマートキッドベルト」という名称で販売されている商品をご存知だろうか?
複数のメディアでも紹介され、日刊自動車新聞社の「第32回日刊自動車新聞 用品大賞2019 準グランプリ」も受賞している。
アマゾンなどの通販サイトはもちろん、全国のコストコ倉庫店、でも販売され、カー用品店や国産ディーラーが販売しているケースもある。
事情を知らない人からすれば、「Eマーク」もついているし、安心して使える安全性が証明されたチャイルドシートのように見える。
クルマのシートベルト(肩ベルト)の高さを調整して子どもの体に合わせて使用するという点では、ブースタークッションなどと原理としては同じだ。
ブースタークッションは、かさ上げすることで子どもの肩をシートベルトに合わせるが、スマートキッドベルトは肩ベルトじたいを低い位置に下げて子どもの肩に合わせる。
同じタイプもあるが、異なる点が存在
肩ベルトの位置を低くして子どもの身長に合わせるタイプは、他に「マイフォールド」という製品がある。
こちらも日本の国交省が認める安全基準ECE R44/04に適合するもので、日本では抱っこヒモで有名なダッドウェイが輸入販売元となっている。
しかし、マイフォールドがSKDと違うのは「座面」が存在すること。
座部の厚さは約2cmなので、ブースタークッションのように、シートでかさ上げする効果はそれほどないと思われるが、「座面+調整ベルトの組み合わせ」であれば、国際的なチャイルドシートの安全基準であるECE R44/04の要件を満たすことになる。
国際的な協定規則に従って安全認証
スマートキッドベルトは、国連が定める幼児用ベルト補助具の基準においては、「ガイドストラップ」というカテゴリーに入る。
しかし、この「ガイドストラップ」カテゴリーの製品は「認証を与える対象ではない」と明記されている。(詳細は後述)
日本のチャイルドシートは国交省が安全性を確認し、型式指定をおこなって初めて販売(流通)が許可されるが、その基準の元になるのは、国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe)が決めた安全基準だ。
自動車や自動車部品に関する国際的な規則(Contracting Parties to the 1958 Agreement通称:「58協定」)では、チャイルドシートに限らず、自動運転や内装部品、自動車用ガラスなど多岐にわたって数多くの協定規則が存在。
国連の相互承認協定加盟国として欧州を中心に世界50か国以上が参加している。
そしてこの58協定においては加盟国で認証が得られるチャイルドシートの基準はECE R44/04とECE R129という2つの基準となる。
R44とR129はダブルスタンダードの状態。チャイルドシートメーカーはR44基準のチャイルドシートを販売することはできても、今後、新規チャイルドシートについてはR129基準でのみ認証が与えられる。
国交省の規則にはどう記されている?
以下は、国土交通省が原本と翻訳版を合わせて公開している「協定規則第44号 自動車の幼児乗員用拘束装置の認可に関する統一規定」である。
ECE R44/04に関する詳細な公式文書なので、作成者は国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe)だ。
正確に文脈をご理解いただくために、原文と和文(国交省制作)を両方掲載する。
◇原文
2.8.8. “guide strap” means a strap or device which constrains the shoulder strap of the adult seat belt in a position to suit the child and where the effective position at which the shoulder strap changes direction can be adjusted by means of a device which can be moved up and down the strap to locate the wearer’s shoulder, and then locked into
that position. This guide strap is not meant to carry a significant part of the dynamic load.
A guide strap is considered as a part of a child restraint system and cannot be separately approved as a child restraint system under this Regulation.
◇和文
「ガイドストラップ」とは、成人用座席ベルトの肩帯部を幼児に適した位置で抑止し、かつ、肩帯部の方向が変わる有効位置を、帯部に沿って上下に移動させて装着者の肩の位置で止めることのできる装置によって調節して固定する帯部をいう。
このガイドストラップは動的負荷の相当部分を負担するためのものではない。
ガイドストラップは、幼児拘束装置の一部とみなされており、本規則に基づく幼児拘束装置としての個別認可を受けることはできない。
◇個別認可を受けることはできない
正式な文書によると、ガイドストラップは幼児拘束装置の「一部」とみなされている。
本規則に基づく幼児拘束装置として「ECE R44/04の個別認可を受けることはできない」と明記されている。
それなのに、なぜECE R44/04の認可が与えられたのだろうか?
輸入販売元や他メーカー、どう考える
認可を与えたのは、スマートキッドベルトのメーカーBraxx社があるポーランドのテスト機関である。
間違った認識で認可を与えている以上、オランダやドイツ、フランスなどの消費者団体や検査機関をはじめ、58協定に加盟する国の多くが「スマートキッドベルトは排除されるべき」という立場を表明している。
実際、販売禁止を決めた国もあるが、「シートベルトをそのまま装着するよりは安全」と黙認する国もある。
確かに、チャイルドシートの用意がないタクシーやレンタカー、カーシェア車においては、大人用のベルトをそのまま、または何もベルトを使わないよりは衝突安全性は確保できるだろう。
輸入販売元のメテオAPACに確認したところ、以下の回答を得た。
「スマートキッドベルトは『ベルトガイド』という形状でブースターシートでもないためECE R44/04 S11※の影響は受けません」
(著者注:そもそも「ベルトガイド」ではECE R44/04の認可は下りないのだが……)
「現時点でスマートキッズベルトはR44/04の認可された商品であることに変わりありません。これについて状況が変わることがありましたら、適切に対応します」
「輸入販売元の当社としても状況を注視しながら国内法令に則って引き続き良い製品を提供するため、適切な対応の検討/実施をおこなってまいりたいと思います」
国内チャイルドシートメーカーの担当者はこう明かす。
チャイルドシートメーカーはどう見る
「たしかに認証を与えるべきではなかった製品ですが、一度認証を与えたものを取り消すことはできないでしょう」(国内チャイルドシートメーカーの担当者)
「国交省も昨年、スマートキッドベルトの安全性についてテストをしています」
「その際、ECE R44/04で許可されるべきではない製品が、なぜか、R44の認証をとって市場で販売されていたので、その性能をテストしました。今回は、R129の規定に基づいてテストをおこないました。」
国交省も「ECE R44/04で許可されるべきではない製品」と認めています。
気になるテスト結果ですが、腹部への圧迫がかなり高いものの、『著しく危険か』というとそうでもない結果になっています」
だから、ただちに販売中止になったり、使用禁止になったりはないと考えられます」
日本では特に今のところ規制がなく、スマートキッドベルトに代表される「ベルトガイド」方式のチャイルドシートの販売が続いているが、あくまでもタクシーなど短時間乗車の際の緊急使用として考えるべきだろう。
◇※ECE R44/04 S11とは?
2017年2月9日から背もたれのないジュニアシート(ブースターシート)の使用は、身長125cm体重22kg以上での使用を義務付けるというもの。