最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!
「『うるせえな、できないくせに』って思われてもいいから、伝えていかなきゃ」ーーー鹿島アントラーズの新主将になった内田篤人選手
かつては栄誉なこととされた出世が、いまや苦行の類になりつつある。望むと望まざるとにかかわらず、会社や組織のなかで昇進してパワーを持ってしまった瞬間、その人間はパワハラで訴えられるというリスクを背負い込むことになる。会社のためを思って、部下のためも思って、言ったこと、やったことが相手に苦痛と思われたら、そこでアウトとなってしまう。
ある大企業の管理職は、この1〜2年、なるべく部下と直接話さないよう意識しているのだという。頼みたいこと、言いたいことがあれば、なるべくメールで伝える。それなら推敲もできるし、証拠も残る。自分が感情的になってしまうリスクも下げられるのだと語っていた。叱責はNGでアドバイスはOK。適度な激励はOKだが、部下の希望にそわない過度の激励はパワハラとみなす。こんなに面倒なら出世なんかしなければよかったと思う人間が増えるのも無理はない。
そんな時代だからこそ、鹿島アントラーズの新主将となった内田篤人の言葉がとても新鮮に感じた。
「(先代の主将の小笠原)満男さんは背中で見せるタイプだったけど、俺はまだ体が100%じゃないからできない。うるせえな、できないくせにって思われてもいいから、伝えていかなきゃ」
もちろんサッカーと会社は違う。主将と上司も別物だ。それでも勝利を目指すために、チームとして戦うのは同じだ。その場で指揮をとる人間が「どう思われようと構わない」という覚悟を持っているかどうかは、他のメンバーにも影響を与えるはずだ。
強気な一面を見せる一方で、内田は“部下”たちのことも細かく見ている。21歳のセンターバック町田浩樹について
「いくつかミスはある。それは仕方ない。俺だって、この年になって申し訳ないけどミスあるしね。[中略]あいつは190センチで左利きってのが重宝されることに気づいてんだよ。だから、のほほんとやっている。[中略]もっとやってもらわなきゃ困るよね。鹿島のCBっていうのは、他のクラブのCBとは違うんだから」
と語ると、そのあとには20歳のMF安部裕葵について、こうコメントした。
「言動から頭のよさがわかるし、練習中の強度もすごい。走れるし、戦えるし、技術もある」
若手にとって、チームのレジェンドであり、ヨーロッパでも日本代表でも結果を残してきた内田の発言は大きな意味を持つ。内田があえて取材陣の前で彼らに言及することでモチベーションのアップをはかったのだとしたら、なかなかの策士だ。順風満帆だったサッカー人生から故障で大きな挫折を味わった。そんな男だからこそ見せられるキャプテンシーがあるだろう。その言動はビジネスパーソンにとって大きなヒントになりうる。ひとりのプレイヤーとしてだけでなく、チームをまとめる存在として、内田にはこれからも注目していきたい。
Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images