攻めの姿勢を崩さないコレクションの裏で、積極的に社会や環境問題にも取り組む。企業の志を貫くその姿勢は、ブランドを訴求する巧みな戦略でもあるのだ。
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企業価値を高める社会とのつながり方==
折衷主義、ジェンダーレスといった考えをモードに落としこみ、自由な自己表現という"ファッションの解放"を実現したグッチ。そのクリエイティヴィティに注目が集まりがちだが、それを陰で支えるのが、マルコ・ビッザーリCEOが積極的に取り組む社会貢献活動だ。そのひとつとして、人々と地球環境、未来への目標をつなぐことを目指すサイト「グッチ エクリブリウム」も誕生した。
「私たちは今、国連の世界目標と気候変動抑制に関するパリ協定の目標達成に向けて、ひとりひとりが自らの役割を果たすことができる時代に生きています。そして、目標を達成できる唯一の方法は、人々が集い、アイデアやイノベーション、体験を共有することなのです」
ジェンダーの平等、フィレンツェへの文化的支援、ファーフリー、トレーサビリティ……。こうした活動から見えるのは、グッチの企業価値を高めようという徹底した意識だ。ファッションで打ちだされる前衛的なイメージと、世界が抱える問題に真摯に向き合う姿勢。このふたつを両立させることでグッチの企業イメージはさらに高まり、強固なメッセージとなって社会へと浸透してゆくのだ。
世界中の少女と女性の幸せを支援する「CHIME FOR CHANGE」
グッチが創設した「チャイム・フォー・チェンジ」は教育、健康、公正の3 つを柱に世界89ヵ国、425以上のプロジェクトに資金を援助。ユニセフと設立委員のひとりであるビヨンセと提携し、アフリカのブルンジに安全な水を補給するなど、世界中の少女と女性へ向けた支援を行っている。問題を抱えるコミュニティとともにパブリックアートを展開するARTOLUTIONとのパートナーシップでは、世界5都市のグッチ アートウォールが、ARTOLUTIONのアートワークのレプリカで彩られた。
リアルファーの使用廃止
2018年春夏コレクションより、製品および広告に動物(ミンク、フォックス、ラビット、カラクール、ラクーン、カンガルー、アンゴラ)の毛皮を使用しないことにコミットメント。またイタリアの動物愛護団体「LAV」、米国人道協会「HSUS」との長期的なパートナーシップの成果として、毛皮に反対する国際連盟「FFA」にも加盟した。リアルファーを使用した過去の製品については、チャリティオークションを行い、その収益を「LAV」、「HSUS」に寄付するという。
持続可能なイノベーションを研究
グッチはブランドの財産である伝統や技術、人といった面にも企業として注力している。フィレンツェに設立された「グッチアートラボ」は、ブランドの未来に向けて新しい製品の素材や製造技術を開発することでアレッサンドロ・ミケーレの美学を具現化し、ブランドの成長を推し進める施設。持続可能なイノベーションの最前線であるラボによって、2018年末までにシューズとレザーグッズの製造部門で900名の新たな雇用を創出するという目標も、すでに確実なものとしている。
ブランド発祥の地の文化を支える
フィレンツェで誕生したグッチは、この地の文化や歴史を後世に伝えることも大事な使命のひとつととらえている。2018年クルーズコレクションは、フィレンツェ市、ウフィッツィ美術館とともに展開する文化プロジェクトの一環として、パラティーナ美術館で開催。また「Gucci Garden」のチケット売上の半分は、フィレンツェ市の修復プロジェクトへ寄付されている。
社会問題を共有するポータルサイト
今後10年間に推進していく、包括的なサステナビリティ戦略である"Culture of Purpose"の一環として立ち上げられたのが、ポータルサイト「グッチ エクリブリウム」。環境保全、人権の尊重、持続可能なイノベーションの新しいビジネスモデルの3つを柱に多彩なコンテンツを展開し、現代社会の重要な問題を解決するためのグッチの視点や取り組みを紹介している。
原材料の95%がトレーサビリティ
ラグジュアリーブランドが新しい基準とすべき次なる目標として、原材料の95%についてトレーサビリティを保証するなど、その実現にも意欲的に取り組んでいる。またグッチは「スクラップレス」プログラムのパイオニアでもあり、タンナリーと共同で、製造工程で処理されるレザーの量を大幅に削減。エネルギー、水、化学薬品の使用の軽減にもつながっている。
ブランドの原動力・従業員への信頼と尊敬
ブランドを支えるのは、従業員である。その考えのもと、従業員の人権と価値を尊重し、製造に関わるすべての人々の生活向上を目指しているグッチ。社内でのジェンダーの平等も約束しており、実際、グッチのシニア・マネージャーの59%は女性が占めているという。正しい枠組みと戦略で企業価値の向上を追求するイタリアの組織「Parks-Liberi e Uguali」にも加盟。
Text=いとうゆう Illustration=三上数馬