Aさん(当時60代の女性)は、世田谷区で独り住まいをしていた独身女性だった。生涯結婚はしなかったというので、当然子供はいなかったし、両親は既に他界していた。親戚付き合いもなかったようなので、天涯孤独と言えよう。とは言え、生活には困っていなかった。
父親はかなりの資産家で、Aさんの為にマンション等の不動産を残してくれていたので、マンションの1室を住居とし、他の部屋を貸して、その家賃収入だけでも十分に暮らしていけたという。Aさんは、気の合う友人と海外旅行に行くなど、老後の人生をエンジョイしていたという。
そんなAさんの生活が一変するのは、マンションの入居者だった女性との間にトラブルが起きてからだ。どのようなトラブルだったのかは詳細までは分からないが、近所の住人の話では、女性の身なりや臭気に、Aさんが文句を言ったのが、きっかけだったという。
行方不明となったAさん
やがて、近所中にAさんの頭がおかしくなった(痴呆症)という噂が流される。そして、Aさんからマンションの管理を任されていた不動産業者が、Aさんの甥だという男を連れてきたことまでは分かっているが、それ以降Aさんがどうなかったは、近所の住人にも分からないという。
そして、Aさんが行方不明だという話が、彼女が毎回出席していた昭和女子大学のクラス会で話題になった。Aさんが最後に出席した2000年初頭のクラス会では、Aさんが「パスポートも取り上げられてしまい、外国旅行もできなくなった」と、親しい友人に愚痴っていたという。
心配したクラス会のメンバーの一人が、娘をAさんの宅に見に行かせると、Aさんが使っていったマンションの部屋には人が住んでいる気配がなかった。近所の住人に聞くと、マンション管理を任されていた不動産業者が、Aさんの甥を連れてきて、Aさんは甥が後見人になって、施設(老人ホーム?)に入れられたらしいということまでは分かった。この話をAさんの同窓生だった母親に話すと、母親は「おかしいわね、Aは確か独り子だったはずなのに」と言ったという。
参考記事:Amazon血だらけの不在票… 配達人がドアを殴る蹴る音 家人が恐ろしくて出ることが出来なかった結果… | TABLO
母親の話では、資産家だったAさんの父親は、生前Aさんの女子大の友人たちを自宅に招待し、パーティーを開いていたという。その際、集まった友人たちに「Aは一人娘なので、皆さんよろしくお願いします」などと言っていたというのだ。
一人娘になぜ甥がいたのか、Aさんがどうなったのか、調べて欲しいという依頼が、Aさんの同窓生の娘から筆者に持ち込まれてきたのだが、Aさんがいなくなって(2003年前後)から既に15年以上が過ぎているし、これは調べようがないと思われた。
とりあえず、Aさんが所有し、彼女名義のマンションの不動産登記を見ると、名義は替わっていないことがわかった。登記上Aさんは生きているようだ。
たぶんろくな答えは返って来ないと思いつつ、Aさんのマンションを管理している不動産業者に電話すると、案の定「なんでお前にそんなことを答えなきゃいけない」と言われながら、ようやく聞き出したことは、甥というのは姉の息子で北陸に住んでいる。Aさんは施設におり、3年前にうちの社員が会っている、ということまでは聞き出せたが、女子大の同窓生がAさんと連絡したがっているから、Aさんの連絡先を教えてくれるか、せめて手紙をAさんに渡してくれないか、と頼んでも「ご存知でしょうが、個人情報保護法があるからできません」と断られた。
結局、これ以上は調べられないから、依頼者には「あとは皆さんでお金を出し合って、弁護士を雇って交渉するしかないでしょう」と言わざるを得なかったが、Aさんの同窓生も80歳を超えているので難しいようだ。
忽然と姿を消す裕福な老人
ちなみに、先の不動産業者は、熱心な学会員で、選挙になると公明党議員のポスターが貼ってあるという。筆者の「なんで不動産業者が老人ホームの世話までするのです」という質問には、「頼まれたから紹介しただけだ」と答えたが、近所の住人の話では、一人暮らしや子供のいない老夫婦の家に老人ホームの案内状を配って勧誘していることがわかっている。
Aさんの甥が本当に甥だったのかは、分からない。Aさんの父親が「Aは一人娘で」と友人に紹介したとしても、年の離れた姉や、異父・異母の姉がいた可能性もあるからだ。従って事件かどうかは、断定できない。
ただ、成年後見制度に最も熱心だったのが公明党の議員であり、同党が国土交通省のポストに拘っていることを指摘しておいた方が良いだろう。現在、この国には所有者不明の土地が九州地方に匹敵するほどあり、さらに年々増える傾向にある。土地に関する情報が集まるのが国交省なのだ。
世間では、それほど話題になっていないが、2000年4月1日に成年後見制度が施行されてから、この手の話が確実に増えている。読者の周りにも、資産家の老人が、忽然と姿を消すような事例が起きているかもしれない。その多くは、成年後見制度による後見人がついて、施設に入った(入れた)のだ。そして、中には遠い親戚や、赤の他人が、年寄りの財産を横取りする為に後見制度を悪用しているケースもあるのだろう。(文◎高田欽一)