「Hey、Hey、おおきに毎度あり~♪」というキャッチーな関西弁の歌詞は、1994年にリリースされたSMAPのヒット曲「HeyHeyおおきに毎度あり」。なぜかメンバーに関西人はいないのに、歌詞が全編関西弁であることが話題になった。そこで、今回はこの曲ついて……ではなく、サビに出てくる歌詞・関西弁の「おおきに」と「ありがとう」という言葉に注目し、6月30日(日)に放送の「コトノハ図鑑」が徹底調査した。
「ありがとうの達人」登場!
関西の老舗ラジオ番組といえば今年で45年になる「ありがとう浜村淳です」(MBSラジオ 毎週月~土 あさ8時)。取材を担当したMBSの田丸一男アナウンサーと松井愛アナウンサーは、このラジオ番組のメインパーソナリティ・浜村淳に「ありがとう」という言葉について話を聞いた。
浜村は開口一番「『ありがとう』という言葉を聞いて怒る人はいないから、わざとらしく言ってもいいのです」。続けて「関西でいえば『おおきに』ですね。栃木県あたりでは『お大事』っていいます。これは大丈夫という意味もあれば、ありがとうという意味もあるらしい」と話した。
このほかに全国には「ありがとう」の方言がたくさんある。番組では、北海道の「いや助かった」、山形「おしょうしな」、新潟「ごちそうさまです」、埼玉「あんがとう」、徳島「たまるか」、沖縄「にへーでーびる」などを紹介していたが、今回は関西弁の「おおきに」を取り上げ、語源などをリサーチした。
「大きに ありがとうございます」
関西人は普段の生活で「おおきに」とはいう人はあまりいない。今は、昔ながらの商店街で買い物をした時、店の人から「まいど!おおきに!」と威勢のいい声を聞く程度になっているかも知れない「おおきに」。この語源について、関西弁の歴史研究をしている(大阪大学)金水敏教授は「おおきには字で書いたら『大きに』。元々は、『ありがとう』を強調する言葉だった」と解説。
つまり、「大きに ありがとうございます」が正式な言い方となる。関西弁の「おおきに」は、肝心な「ありがとうございます」が抜けて、英語でいう「Thank You very much」のvery muchだけをいっているのと同じこと。つまり、「おおきに」に「ありがとう」という意味はないのだ。
言葉の丁寧さで距離を取る
省略された「おおきに」は、関西の商人文化が関係している。金水教授は「丁寧にするってことは、人と距離を取ることになります。で、短くすることは、距離が近づくことになります。例えば、八百屋できゅうり1本買ったときは『まいど!おおきに』。短くていいのです」。言葉を短くすることで客との距離を縮めて、商売をうまく成立させたのが「なにわの商人(あきんど)」なのだ。
「ありがとう」と「ありがとうございます」の使い分け
街行く人に「ありがとうこざいます」と「ありがとう」の使い分けについて話しを聞いた。
「上司に奢ってもらった時は?」の質問ではほとんどの人が、「ありがとうこざいます」。やはり、上司とは距離があるので略さずに「ありがとうこざいます」と丁寧にいう。
では、「家族に醤油を取ってもらった時は?」の問いには、「ありがとう」が大多数だった。中には、「言わない」「無言」も。この「無言」もありがとうの省略になるという。
「ものを言うことに重みがある」東北の人
関西人は言わずもがな「おしゃべり」である。しかし、「東北の人はものを言うことに重みがあるため、あまり挨拶もしないし言葉は少ないです。見知ったもんは何も言わない文化ですね」と金水教授が説明している最中にも、大阪出身の松井アナは「大阪やったら、まず顔見たら『おはようさん!暑いな』『日焼けするわな』って言うけどなー」など、田丸アナを掛け合いしながら一気にまくし立てた。
バスの運転手に声かける?
バスを降りる時、運転手に「ありがとうございました」と言うのは、関西人には当たり前のこと。上司に奢ってもらって「ありがとうございます」と言うのと同じくらいの感覚だが、ほかの地域、特に東北の人は運転手に「ありがとうございます」と声をかけて降車しないというのだ。大阪出身の田丸アナと松井アナは「えっ!? それは...無愛想やん」と仰天。この番組は関西ローカルの番組なので、視聴者も驚いたのではないだろうか。
「すみません」と「ありがとうございます」
何かをしてもらって、まずいうべき言葉は「ありがとう」なのか?「すみません」なのか?
それを、街の人に記念品を手渡して実験してみると、返ってきた言葉は「すみません」だった。特に若い人は「すみません」が多い。本当なら、「ありがとう」というシチュエーションなのになぜ、「すみません」といってしまうのか?
場所を変えて松井アナがMBSのアナウンス室でも実験してみた。ゴミ捨てをしてくれた松井アナに「すみません。ありがとうございます」と言ったのは後輩の西靖アナ。松井アナより先輩の高井美紀アナは「ありがとう」。そして、松井アナより15年後輩の大吉洋平アナにコーヒーを入れてあげると「すんません」の言葉の後に「恐ろしいわ!なんぼ請求されるんやろ」と、仲の良いアナウンス室の様子が垣間見えた。
このように「すみません」(謝罪の言葉)と、「ありがとう」(感謝の言葉)は全く違う意味なのに、なぜ同じ場面で使ってしまうのか。「ポライトネス理論(人と人との距離を言葉で調整する)というものがあります。人間は人に近づきたい感情もあるけど、一方ではあまり近づきたくない、それ以上『寄らんといて』という気持ちがある」と金水教授。つまり、人はこの両方の気持ちを行き来して微妙に会話を調整しているという。
近づきたいは「ありがとう」、離れたいが「すみません」という言葉に関係している。
なにげなく使い分けている「ありがとう」と「すみません」。人間関係を潤滑にするための処世術の1つではあるが、今後、この2つの言葉をちょっと意識して使ってみると新たな発見があるかも知れない。
「コトノハ図鑑」(MBS 毎週日 あさ5時45分放送)は、MBSのアナウンサーが「コトノハ図鑑」の編集者として様々な分野の"言葉(コトノハ)"の世界を取材。「アナウンサーが言葉を学ぶこと」を通して、視聴者にも発見を届ける。"コトノハ"を深く知れば、『人生が少し豊かになる』をコンセプトに知的好奇心をくすぐる番組。
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