フランスといってもパリから660km以上離れたスイスとイタリアの国境近く、フレンチアルプスのスキー場暮らし。そんな田舎&山から、華やかさはないけれど、ごく普通で一般的なフランスの日常や教育についてご紹介。今回は、日本と並んでグルメ国として名高いフランスの子ども達はどんなランチで育っているのか? 幼稚園から大学までの給食&学食についてリポートします。
第9回 味覚の秋 フランスの給食&学食事情は?
文部省が提唱する「給食の意味・4大ポイント」
食文化&食習慣は国によって実にさまざま。
ヨーロッパ内では北欧やドイツなど北に行くほど朝食重視。朝から魚料理やハム&チーズを食べたり、スープを飲んだり。甘味より塩味系を口にする傾向が強く、和朝食に少し似ている。
それがイタリアやスペインなど南に行くほど朝食軽視になり、まったく摂らなかったり、小さな甘い菓子をかじるだけだったり。朝からパンにアイスクリームを挟むのが当たり前の地域もある。
南北いずれにしろ昼食の比重は高く、そのため出張などで日本を知る欧州人の多くは「ランチタイムの短さ」や「蕎麦やラーメンだけで済ませる」ことにとても驚く。
フランスも保健相が「摂取エネルギーの配分は朝食20%・昼食40%・間食10%・夕食30%が好ましい」と公式説明。「昼食は夕食以上に重要」とされていて、オフィスワークの場合、原則的には昼休みは1時間半から2時間を被雇用者は確保できる。
親も子どもも会社や学校から一旦帰宅。昼食を共にとる家庭も多く、面倒なようだが「昼に一度、職場や学校を離れることは気持ちの切り替えになる」という人も多い。
文部省が提唱する「子どもや学生にとっての給食&学食の意味」では
1. リラックス(午前の緊張から解き放たれ、午後の集中力を蓄えられる時間)
2. コミュニケーション(人と様々な対話をできる時間)
3. 発見(家では知ること味わったことのない未知の食にも触れられる機会)
4. 歓び(食す歓び。食す楽しみを体験できる時間)
この4点。「リラックス」が筆頭に挙げられている。
村の幼稚園&小学校の9月の給食。ほぼ毎回、前菜(1行目)メインデザート(最終行)と順番に皿も替えて給仕される
日仏の給食の違い・トップ3
2018年に横浜市教育委員会が市内の公立中学と小中一貫校148校を対象に調査したところ、9割を超える135校が「昼食時間は15分に設定」と回答。「早飯も芸のうち」などという言葉も日本には昔からある。
一方、フランスでは昼食時には「最低でも25分以上はテーブルに着席する習慣を持つこと」が定義づけられていて、その25分は昼食時間ではなく「着席時間。すなわち食べている時間」。25分である理由は「野菜から肉魚、デザートの乳製品までバランス良く摂取するため。25分以下ではそれは不可能」
幼稚園児は45〜55分。小学生には30〜45分が必須とされ、実際に私が勤務している村の幼稚園&小学校では、幼稚園児は11時45分から12時半の45分。小学生は12時から13時10分までの1時間10分前後、着席し給食を食べている。
日本の給食との違いは色々あるが、トップ3といえば・・・
1. 教室では食べない(中・高・大学も同様。コレは他国から見てもフランスの大きな特徴だという。フランス人から言わせれば「衛生的に教室で食べることを行政が認可できないはず」「校内清掃員の労働負担が大きくなる」「匂いなどで勉学に集中できず弊害は起きないだろうか?」となるらしい)
2.幼稚園の給食から食器は陶器の皿&ガラスのコップを使用
3. 幼稚園&小学校はセルフサービス制ではないことも多く、その場合、子どもは配膳せず座ったまま、スタッフから前菜メインデザートと順次、皿も替え、給仕される
とても興味深いのはセルフサービスの場合でもフランスの子どもや学生達はプレートにのせた前菜・メイン・デザートの皿を、律儀に前菜メインデザートと順番に食べていくこと。これは大人達も同様。
例えばマクドナルドでも「前菜にサラダ。メインにハンバーガー&ポテト。デザートにサンデー」というセットが主流。そのセットも、サラダを全て食べ終えてからハンバーガー&ポテトに食べ進む。
また在仏&フランス育ちの日本人の子どもにも「まずはお味噌汁やスープなど汁物を食べ終えてから、ご飯とおかずにとりかかる子」がとても多い。
村の幼稚園&小学校のある日の給食。上はクスクス&チョコレートケーキ。下はベジタリアンメニュー。前菜にタブレ(麦サラダ)メインが大豆のハンバーガー&インゲン。デザートの前にチーズ。デザートは焼きリンゴ
「カロリー」より「バランス」重視&表示
フランスの給食&学食のメニュー作りで重視&注意され、提示もされるのは「野菜」「肉や魚などのタンパク質」「乳製品」「果物」といったバランスを見るための食材分類。カロリー表示がされている学校はとても少なく、とりわけ重視されているのが「野菜」と「果物」。
国をあげて「1日に5種食べること」も推奨。給食メニューにも毎食必ず野菜や果物が含まれている。
日本ではあり得ない! と思う幼稚園&小学校のメニューといえば、「ムール&フリット(フライドポテト)」「アーティチョーク」「サーディンやラディッシュにはバターが添えられて出される」「メロンやグレープフルーツ、そしてピザは前菜にされること」
給食費は誰が払う?
フランスの給食&学食については「幼稚園&小学校は市町村」「中学は県」「高校は地方」「大学は国」が管理&運営。
つまり料金システムもそれぞれ異なり、例えばパリなど大都会では1食につき800円から1000円なのが、地方の村では400円から500円。全員一律である地域もあれば所得により異なる場合もある。
いずれにしろ「高い!」と不服ならば給食は義務ではなく「昼休みは帰宅可能」。また帰宅せず「親と街のレストランで、親が会社から貰うレストランチケットで食べる」という子どももいたりする。
ただし、給食&学食を利用しない子は、弁当持参で校内で食べるなどの自由は許されず、幼小中高までは昼休み中は校内に居ることも禁止。
なぜならば、その間は教師の勤務時間ではなく有料の給食スタッフの管理下であるため、給食&学食費を支払わない子どもの安全管理責任は誰も負えないため。
教師の勤務時間になってから校内に入ることができるという金銭に基づいたシステム。
中学以上はほぼ全校セルフサービス。地域によっては小学校も
新たな傾向
ここ10年ほどでフランスでも、さまざまなアレルギーを持つ子ども、治療中の子どもが増えている。
そしてそれらに対しては給食でも「医師の証明書提出」により個々への特別メニュー対応が義務づけられ、アレルギーがある子どもでも自宅に帰らずに学校で昼食を食べられるようになっている。
また2022年からは地産食材を50%以上使用。さらにはそのうちの20%を有機農産物にするようにとの通達がされ、すでにその移行のための措置が徐々にされている。これは保健省からではなく、経済省から文部省にされた通告。つまり国の農業推進政策によるもの。
そして非常に興味深いのが、大学の学食で開始した「ワンコイン・ランチ」。フランスの大学には返済不要の奨学生が多いのだが、彼らが1ユーロ(約125円)で「前菜からデザートまで栄養バランスの良い定食」を食べられる制度が2020年度からスタート(奨学生でない場合も3〜4ユーロで食べられる)。
メニューの内容は
1)前菜(サラダ類)&メイン(肉や魚料理&野菜の付け合わせ)&デザート(チーズや果物、ヨーグルト)で1ユーロ
2)ピザやハンバーガーなど、いわゆる多くの若者が好むファーストフード系は、それ1品で1ユーロ。
3)前菜にもパテやサラミなどの肉類を選ぶと追加料金
3)ケーキやアイスクリームなどのデザートは追加料金
4)水とパンはメニュー(1ユーロ定食)に含まれる。ジュースやビール、ワインなどは追加料金
この背景には、ここ20年ほどでフランスでも急速に増えたファストフードによる外食、それに起因する、脂肪&糖分過剰摂取、さらには過体重や糖尿病などの成人病増加対策がある。
またエコロジー推進のためにも肉食から菜食に徐々に誘導したいという思惑も。
食費を少しでも軽減させようとしている学生をターゲットに「ワンコイン・ランチ」を広げることで、前菜からデザートまでバランスよく食べる食習慣を推進。将来の成人の病気を減らし、国保負担軽減につなげるという政府のアイデアなのだ。
大学の1ユーロ定食。野菜、肉や魚、卵などのプロテイン、乳製品まで1食で摂れるので、むしろ自炊するよりも健康的にも経済的にも好ましいと学生達からの評価も高い
食育将来の国の財政
「子どもへの食育は将来の財政に関与する」というのがフランス政府の考え。
「過体重や成人病が増えれば、国保負担額が増え財政崩壊につながる」
つまり給食や学食の充実は、「国民の健康を願って」ではなく経済政策のため。
村の小学校給食に勤務している身には、そういう「政治のからくり」も勉強になっている。
高校のクリスマス料理。飲み物は普段は水だがこの日だけはジュース。前菜にフォアグラやスモークサーモンが出るところがお国柄?!食べる順番は前菜(中央)メインディッシュ(右手前)チーズデザート4種(左手前) みかん2個 なるほどカロリーよりバランス重視?!