この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
思わず出た本音
娘へ。
二人の妹たちが生まれた時、あなたはまだ2歳になる直前で、まん丸の顔をパンパンにしてトコトコと歩き、何が面白いのか、とにかくよく笑っていました。
そこへ自分より小さな赤ん坊が二人も登場したのです。
最初はキョトンとしていたあなたですが、次第に自分の妹たちであることを認識し、わりとすぐに可愛いと言って可愛がってくれたので私は少し安心しました。
それからあなたはいろいろと手伝ってもくれました。
次女と三女がまだミルクを飲んでいた時、自分があげたいと言ってよく哺乳瓶を持ってくれましたね。手伝いたいというより真似事がしたいという感じだったとは思うけど、それでも妹たちとの関係が楽しいという気持ちで関わってくれていることが、生活を明るくしてくれたと思っています。
ところであなたは固形ミルクを食べるのが好きで、なにかあるたびに、指を1本出して、じじいがタバコを1本ねだるみたいなジェスチャーをしながら、訴えかけてきました。
その姿が可愛いのと、あげた時の嬉しそーな顔が見たくてついついあげてしまった私です。いつだったか私もひとつ食べてみましたがほんのり甘いだけの粉といった感じで、さして美味しくはなく、まだ本物のお菓子を食べたことがないという哀れさを感じたものです。
そんな3姉妹は2年も経つと、みな自我が芽生え、まだ次女と三女はちゃんとは喋れないまでも、「ヤダ!」や「牛乳 たい!」(牛乳飲みたい)などの欲求をストレートにぶつけてくるようになりました。
そうなると必然的に争いごとが絶えなくなります。
奪い合い、つねり合い、叫び合い、投げ合い、と、我が家は急に小さい北斗の拳の世界になりました。
誰かしらが悪事を働いていることが常だったので、脳が条件反射的に「コラ!」と叫ぶ状態になっており、街で他人の子どもがちょっとした悪いことをしているのを見ると、思わず「コラ!」と言いそうになってしまうこともしばしばありました。
ところで自分が、「コラ!」などという昔の漫画の大人みたいなことを言うようになるとは、子どもが生まれる前は毛ほども思いませんでした。
そんなベタなことを言う奴がいるか、と思っていたのですが、「コラ!」ほど簡潔でいて切れのある、そして消して悪口ではない言葉もそうそうありません。よくよく考えてみれば全く意味のない、「コ」と「ラ」のコラボ。もはや完璧だとさえ思いました。先人達が試行錯誤を重ね、磨きに磨いた「コラ!」に私はメダルをあげたいと思っています。
話がそれましたが、しょっちゅう泣かされ泣かしあっている3人(2つ歳上でもめちゃくちゃ泣かされていた長女)の仲は大丈夫かと心配する時もありましたが、泣いていた5秒後には3人で笑いながら遊び出すなど、小さい彼女たちの柔軟性の高さに感心したものです。
その頃のことです。
自宅のマンションのエレベーターに乗っていたとき、とても感動したことがありました。
家族5人で出かけた帰りのエレベーターだったと思います。
降りようとしたことろ次女と三女がふざけてエレベーターの床に寝転がりだしたのです。
「ほらいくよ!立って!」と言っても笑いながら二人共全然立ち上がろうとしません。
無理やり起こすのも簡単ですが、言って分かるならそれに越したことはないと思い、二人以外はエレベーターを降りて、エレベーターのボタンを押しながらドアが締まらないような状態で、「ほら行っちゃうよ!じゃあね!」と二人を残し行ってしまう演技をしてみました。その時あなた(長女)も「行っちゃうよ~!」と笑いながら言っていました。
しかし全く聞こうとしない二人。
次の瞬間、ベビーカーの位置を変えようとしたかなにかで、妻が押していたボタンを離してしまったのです。
時間にしたら、ほんの一瞬だったと思います。
しかしその光景を見た、あなたはとっさに、「あ!ダメー!!!!!」と叫んだのです。
エレベーターが閉まって小さな妹二人だけが取り残され下にエレベーターが行ってしまうことを想像したのでしょう。とても真剣な顔でした。
私は、なんだかそれが嬉しくって、思わず感動してしまったんです。
だってそれは妹たちを守る行為そのものでしたから。
さらに大人と同様に冗談でそういう演技ができたことや、エレベーターのボタンから手を離すとドアが閉まることを知っていたこと。閉まったあとの妹たちの気持ち想像できたこと。
そういうことができるようになったんだなぁとあなたの成長にもぐっときてしまったのです。
私はあなたのそういう優しいところをたくさん知っているし、とても大好きです。
その優しさで幸せな家庭を作ってください。
結婚おめでとう。
【続く】
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心の披露宴は心の雅叙園の中、披露宴会場のでっかいカーテンってどうやって洗濯してんの?とふと思うも、ま、きっとそういう業者がいるんだろうと思い直して、ワインをひとすすりしつつ
まだまだつづく。
室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。
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