インターネット視点でのクラブカルチャーをNight Tempo、DJ hype、DJ hasが語る
渋谷のエンターテインメントに関わる著名人&有識者が集まり、渋谷のナイトタイムエコノミーについて考える「WHITE NIGHTWEEK SHIBUYA」が、11月5日(火)~7日(木)にわたり、東京・TSUTAYA O-EAST 5F特設会場にて開催された。
本記事では、DAY1に「インターネット視点でのクラブカルチャー」というテーマで開催されたトークセッションをレポートする。登壇者はNight Tempo、DJ hype、DJ hasの3名。
has:「インターネット視点でのナイトカルチャー」についてお話したいと思います。まずは自己紹介からお願いします。
Night Tempo:Night Tempoと申します。昭和歌謡が好きで、いろいろやっていたらここまできました。
Night Tempo(Courtesy of WHITE NIGHT WEEK )
hype:hypeと申します。渋谷周辺で6、7年くらいDJをやっています。hasさんと一緒にやっているイベントで、Night Tempoさんを3年前に呼んでいるので、その話とかいろいろできたらと思います。
DJ hype(Courtesy of WHITE NIGHT WEEK )
has:今日司会をさせていただくhasと申します。僕もhypeくんと同じで、DJとオーガナイズをさせていただいています。僕が6年前に始めた主催イベント「BOUNCE UP」と、hypeくんが当時やっていたイベント「POOL」とコラボレーションして、周年のパーティでNight Tempoさんを呼ばせていただきました。最初はhypeさんからお話をいただいたんですけど、Night Tempoさんのことを、どこでどう知ったんですか?
DJ has(Courtesy of WHITE NIGHT WEEK )
hype:僕は結構ポップな音楽が好きで、「BOUNCE UP」や「POOL」以外のアイドルイベントでの転換DJもやっていて。年齢層の高い方が多いので、昭和歌謡をサンプリングネタに使った気持ちいい四つ打ちの音楽をかけようと思って探していたときに、Night Tempoさんのことをみつけたんです。2014年くらいかな。Bandcampだったりsoundcloudを掘っていくと国境の垣根がなくなるといいますか、僕も素人ながらにミックスとかをあげさせてもらうと、海外の人からコメントが来たりして、おもしろさを感じたんです。その中でNight Tempoさんは距離も近いし、お金もかけず呼べるんじゃないかと思ったのがきっかけです(笑)。実際、メールをしたら返事がきて、来てくれることになりました。
has:今スライドに出しているのが、最初にNight Tempoさんを呼んだときの「BOUNCE UP」と「POOL」のイベントのフライヤーです。2016年7月に呼ばせていただきました。初めてライブをしにきたときの日本の印象はどうでした?
Night Tempo:最初はあまり慣れなくて。自分の聴いて作っている音楽と、シーンで流れている音楽の差が大きくて、それをどう楽しめばいいのかと思っていました。なので最初の2、3回はぼーっとしていたり、コーヒーを飲みに行ったり(笑)。僕はもともとお酒も飲めないので、DJしながらお茶とかコーヒーを飲んだりするんですけど、みんなわーって盛り上がっている中でどうやって生きればいいのかが課題でした。ちょっと慣れ始めてからは、いろいろな音楽があることだったり、楽しみ方もいろいろあることを理解し始めて、友達もできました。そこから日本語も学んだり、音楽についてもっと考えるようになりました。
has:初めて出てもらった2016年は、Future Funk自体があまり認知されていなかったんだけど、すごく盛り上がった印象があって。Club Asiaの2ndフロアに出てもらったんですけど、人もパンパンにいたし、動画を見返したらブースが揺れてすごいことになっていた。覚えていないって言っていたっけ?
Night Tempo:ちょっとは覚えています(笑)。テーブルを抑えたり。
has:お客さんの期待値の高さは見ていて感じましたね。
hype:Future Funkという言葉ができて間もないときだったので、早耳のお客さんが遊びにきてくれて、すごく盛り上がりましたよね。
「現場」でかかるSoundCloudやYouTubeの音楽
has:そのあと、2019年1月に僕が主催したFlamingosisのイベントにNight Tempoさんをお呼びさせていただいて。そのときの印象はどうでしたか。
Night Tempo:イベント自体の性格が違って、パーティーより共演みたいな形だから準備をして臨んだんですけど、いろんな方が出るパーティとは違う印象でした。最後にカラオケもしましたよね?
has:Night Tempoさんが最後の曲をかけたときに、hypeさんとNight Tempoさんと「TSUNAMI」のカラオケをやるっていう。初めて見にきた人にとっては茶番だっただろうけど、あれをきっかけにNight Tempoさんもいろいろなイベントに呼ばれるようになって。
Night Tempo:もともと僕はプロデューサーじゃなくて、プログラマーだったんです。1年くらいかけて音楽をやってみようと思って頑張って仕事に戻ろうとしたんですけど、いい話をいただいて。もうちょっと頑張ろうと思って、フジロックに出たり、杏里さんにも直接会ってカセットテープにサインをもらったり、たくさんのことがありました。
has:当時のFuture Funkって、SoundCloudやYouTubeでブートレグがあがっていた記憶があるんですけど、僕らが普段いるLOUNGE NEOとかClub Asiaとかでもよくかかっていましたよね。SoundCloudやYouTubeにあがっている音楽が現場でかかるってことに対しては、どういうお考えですか。
hype:DJをはじめた2012年くらいにはSoundCloudがあったけど、誰でも使っているような状況ではないし認知度は今よりも低くて。一体型のCDJとかPCDJとかもないし、USBも刺さるわけでもないしって状況で。僕が初めてやったときはパカって開くタイプのCDJだったので懐かしいです(笑)。今でこそ、ブートとかもたくさん出てきて、SoundCloudだけじゃなく、Bandcampとか、いろんな手法でブートをDLできるようになっている状況ですけど、最近はハウスとかテクノとかではなくて、アイドル曲とかFuture Baseとかアニメを掛け合わせたものとかが特に多い。ブートとかをかけるDJも増えてきたなって。当然DJが増えるといろんな人がいるんですけど、広まることはいいことなのかなと思っています。
has:Night Tempoさんが最初に音源をアップしたのってSoundCloudだと思うんですけど、広まり方も含めてどういうふうに使っていたんでしょう。
Night Tempo:ネットの友達は欧米と西欧にたくさんいたんですけど、その人たちはもっと前から使っていたんですよ。日本に呼ばれる前の2、3年前から。だから、僕にとってはけっこう普通だったんです。たくさんの人に聴かせるより、自分が作ったものを友達と共有するために使っていた。「こういうの作ったから聴いてみて」って感じでFacebookでリンクを送ったりしていて。これいいね、こういう方法で作ってみようって作品を作り続けて、そこからFuture FunkだったりVaporwaveっていうインターネットと音楽のシーンがもうちょっと広がっていって、オフラインのhypeさんとかhasさんにも繋がっていったのかなと思います。
Courtesy of WHITE NIGHT WEEK
has:当時友達になったアーティストと今も交流はありますか?
Night Tempo:今もクルーを組んで一緒に遊びにいったり、ツアーって形で一緒にやったり、だいたい遊びにいくことが多いです。韓国が好きな子が多いので、一緒にカルビを食べにいったり。でも、みんなちゃんと自分の音楽をやっているので、その中でお互い楽しければいいっていう形をみつけられていて。音楽好きな人たちを呼んで音楽をちっちゃく楽しめる。それが楽しいですね。
Future Funkの現在
has:Future Funkの現在についてお伺いしてもいいでしょうか?
Night Tempo:Future Funkって、もともとVaporwaveのシーンから来たんですけど、僕がやっているのは昭和歌謡のリミックスで。もともとはディスコチューンとかK-POPをいろいろ使って生み出すみたいな形で。初期はもっとVaporwaveに近かった。芸術的というか、あまり考えずに作った自由な音楽だったんですけど、途中からオタク音楽みたいに受け入れられてオタク的なサウンドになったり、Vaporwaveをやっている人はVaporwaveの重い音楽をやったり、EDMにいったり、Future Funkに行ったり。僕はもともと昭和歌謡が好きだったので、そっちに進むべきだと掘り起こしてみたり、それを紹介するために前よりもカジュアルにしてみたりして、今オフィシャルの仕事もやらせてもらっています。
hype:オフィシャルっていうのがすごいよね。
has:Future Funkはブートのイメージしかなかったので、オフィシャルの仕事を頼まれるっていうのはすごいことだよね。
hype:最初ってVaporwaveもチルウェイヴの派生系みたいなジャンルだったと思うんですけど、それをちょっと軽快な感じにしてインディロックの踊れる感じを足して、サンプリングしていったようなイメージがあって。Artzie Musicっていう、バンバンFuture FunkがあがっているYouTubeチャンネルがあるんですけど、アニメの1、2秒くらいをひたすら繰り返す動画みたいのがあって。多分、マクロスとかがアニメのネタ使いを始めたのかな。そこからFuture Funkのイメージがついていった。Artzieのあげる動画にいろいろなフォロアーがついてきて、ちょっと有名になって、VaporwaveもやりつつFuture Funkもかけたりとか細分化されていって。Night Tempoさんとかいろんな人が有名にしてくれていった。そんな流れかなって思います。
has:続いてSNSとクラブについてなんですけど、当時、Twitterでイベント告知などをして、イベントの動画だったり写真だったりをハッシュタグをつけてアップロードして、それを見た人たちがまた遊びにくる、っていういい連鎖がありました。最初のほうは試行錯誤していましたよね。
hype:どうやって知り合い意外の人に届けたらいいんだろうって、すごい考えましたね。何したか覚えてないですけど(笑)。「BOUNCE UP」も最大4、500人とか集客していたんでしたっけ?
has:去年は過去最高の470人って人数で。基本的にはTwitterメインで告知をしているんですけど、最近、Instagramが1番見られているんじゃないかって思います。
hype:インスタのストーリーが効果的なのかなって思いますよね。
has:SNSで発信するにあたり、気をつけていることはありますか?
hype:極力プライベートな面は控えるっていうか。特にInstagramはそういうところを意識しています。
has:Night TempoさんはSNSを使っていて気をつけていることとかありますか。
Night Tempo:僕は自分の色を守りながらアップロードしようと思っていたんですけど、毎日何を伝えればいいんだろうと最近悩みすぎてアップしないときがあって。今は、自分の好きなものを選んでアップロードしています。基本的に英語を基本にしているんですけど、どこのなになにさんっていうのが嫌で。最近はTwitterのほうで英語ばかり使うと申し訳ないと思って、日本語をがんばろうと、フジロック以降、Twitterのほうは頑張っています。Instagramは毎日1個ずつ自分のコレクションを自慢するって決めて、たくさんアップロードしていて。自分自身もアップしたらあまり反応がないですから(笑)。あとは最近はTwitterで、毎日昭和の渋い音楽を1曲ずつ選んで短くエディットして動と一緒にアップすると反応がよくて。自分があまり興奮していなかった曲たちをもう1回聴いて研究して、自分なりにも勉強になっています。そういうセンスをレベルアップして、自分のライブとか発信したものを、ちゃんとした形で作りたい。
自分の考えや得意なことをちゃんと表現していったら、逃していた音楽まで伝えることができて、もっとSNSの使い方があるんだなって感動しています。InstagramもFacebookの更新ペースもアップしたりしていて、僕のことを好きな人は読んでくれているので、けっこう効率がいいと思うんです。どちらもがんばって考えを伝えたら、来てくれる人も増えてくれるので、すべてが勉強ですね。
韓国内でのサブスクの影響
has:最近、音楽の聴かれ方がサブスク中心になってきています。韓国ではもっと前からそうだったと思うんですけど、そのへんの影響とかありますか。
Night Tempo:こういう話はつらいんですけど、韓国はもともとからストリーミングが多かったんです。10年前、もっと前の僕が中学生の頃からかな。アメリカにNapstarというプログラムがあって、韓国ではそのあとSoribadaっていうアプリケーションが出てきて、それでみんな音楽を共有するようになって。そのときにモーニング娘。も一時期流行ったんです。「恋愛レボリューション21」のMVを撮影してUCC(User Created Contents)を獲得して、あれもストリーミングみたいに広まったんですけど、すごく怒られて。当時はそういうのが多かったけど、去年夏から話題になっているのは、再生数を買って上にあげるみたいなことをみんながやっていて。ライトな一般層の方は上位にあるものから聴くから、お金で順位を買って聴かせるみたいな悲しい話があるんです。
日本とアメリカではSpotifyとかApple Musicのように、ストリーミングサービスがクリエイターの立場に立って、クリエイターが頑張れるよう支援してくれるものが多くなっている。リリースの方法もたくさんできたのも大きいですよね。前は会社に入って音源をたくさん出すけど、反応がなくて来世でがんばろうみたいな(笑)。いまは自由にリリースできるから、クリエイティブ的にいろんなものを出しても反応がきたり、けっこう音楽ジャンルが広がったと思う。世界の音楽シーンも一般の人が聴いているものも変わった。限られた音楽ジャンルもストリーミングにあるのを聴いて、もっとたくさんの音楽ジャンルが広まればいいと思います。
has:DJの視点からいうと、現場でお客さんの反応を見て、すぐにフィードバックして次の制作に活かせるっていうのがありますよね。
hype:あとSNSを観ていて思うのが、Twitterでこの曲がいいってSpotifyとかのリンクを貼って投稿したりするじゃないですか。それによって、前に比べてお客さんが好きなものがわかりやすくなった気がします。あとはストリーミングで膨大な楽曲を聴けるので、お客さんが音楽を掘り出した感じがすごくあります。僕もDJなんで、お客さん以上に知っていないといけないんですけど、お客さんがポストしたりしている曲で、最近知らないことありますもん。だから詳しい人はどんどん詳しくなっていく。情報の撮り方が変わってきている。
has:10年前と比べたらスピードも速いですしね。僕はアンダーグラウンドといわれる現場でイベントを主催することが多いんですけど、そういう現場だとお客さんが来ないと話にならないわけで、100人くらいはきてもらわないとさすがに成り立たないから、自分の感覚を信じて呼ぶことも多いんですけど、お客さんがどういう音楽を聴いているのか、探しやすいのはありがたいなって。格好いい音楽を聴いているお客さんが何人かいて、その人が聴いている音楽を掘り下げていって反応がよさそうだったらみたいなやり方もできるので、主催者側としてはいいことかな。最後に、現代とこれからの活動についてお話を伺いたいなと。
Night Tempo:これから今よりも、もっとたくさんの活動のやり方ができるようになると思います。なので、古いものだけじゃなく、どうやって新しい方法で出すか、たくさんの人に聴かせるかを研究したい。僕はプログラマーでもあるので3Dプログラミングをやって松田聖子さんを召喚するみたいな(笑)。いろんな方法にトライしたい。ただ家で音楽を作って発信するだけじゃなくて、アートと一緒に盛り上げていきたい。曲もいっぱい作っていきたいです。
hype:20歳すぎくらいのアーティストは、SNSの使い方がうまい人がいっぱいいるなと思って。動画の上げ方とか、プロモーションの仕方もうまい。若い人が自由な発想で展開していくことで、普段クラブに来ない人たちを巻き込んでいってくれるんじゃないかと思うし、僕もそれについていきたいと思っています。
has:ここ最近、昔はDJとバンドとシンガーは分かれていたんですけど、また一緒になる機会が僕の肌感覚ではあるんです。だから、クラブだけじゃなくて、バンドシーンとクラブシーンが融合していったり、音楽を聴くシーンが体感として広がっていくんじゃないかなと思います。カフェだとかバーとか、もっともっとそういう未来が待っているんじゃないかなと思います。
Night Tempo:そうだ! 4D映画館でもやりたいですね(笑)。
Edited by StoryWriter