コロナで倒産しない会社はどんな会社だ
リモートワークによって、「オフィス」と「家庭」の境界線が溶けてゆく。富士通は7月6日に22年度末までにオフィスの規模を半減するとリモートワークの強化を発表しています。世の中が不可逆な方向で進みだした、「新しい時代」の始まりは、まだ序章にすぎないでしょう。既存の概念や知恵では、生き残ることが難しい時代に、必要なもの、それは「変化への対応」と「お金」です。
2020年5月15日号の『プレジデント』の本誌「大暴落時に買う超優良株55選『底値シグナルを見逃すな』」のコーナーのなかで、キャッシュリッチな好財務銘柄を「10銘柄」紹介しています。緊急事態宣言下の中で、銘柄をスクリーニングしました。あれから約2カ月経ちましたが10銘柄とも株価は堅調に推移しており、金持ち企業である好財務銘柄は、やはり今後も注目であることが伺えます。
今回は「自己資本比率」「有利子負債」をさらに加えて、キャッシュリッチ企業の上位600社をランキングにしました。コロナの影響が長引くなかで、企業の倒産件数が増加しています。東京商工リサーチによると7月3日時点で「新型コロナ」関連の経営破綻は309件に達しています。今後、企業の存続を左右するものが、短期間に現金化できるお金をどれだけ企業が持っているかが重要になってきます。実質的な手元資金である「ネットキャッシュ」が潤沢な企業は不況抵抗力が強く、また、変化に対応柔軟にできる体力があると言えます。
絶対安心な企業に共通すること
財務の健全性を判断する「自己資本比率」だけでなく「有利子負債」にも注目し、ネットキャッシュの多い企業からランキングにしました。スクリーニング要件はフィスコアプリのスクリーニングデータを利用しています(7月3日時点)。
≪キャッシュリッチ企業・スクリーニング要件≫
・東証一部
・自己資本比率
・ネットキャッシュ…企業の手元流動性(現金・預金+有価証券)から有利子負債を差し引いた金額でありキャッシュリッチ(金余り)の度合いを示す
・有利子負債
*フィスコアプリのデータに基づく(7月3日時点)
キャッシュリッチ企業のランキング上位にランクインしている、任天堂、ファナック、アステラス製薬、東京エレクトロン、キーエンス……これらの名だたる企業は「お金持ち」でもありながら「無借金経営」の企業でもあるのです。無借金経営とは、銀行借入金や社債などの利息を伴う借金「有利子負債」がゼロの状態のことです。会社のバランスシート(B/S)の負債には、有利子負債以外の負債もあり、例えば、支払手形や買掛金などの仕入債務、税金や従業員の給与の未払金、賞与引当金などの引当金も負債に含まれ、これらを除きます。「無借金」と言う場合はあくまで「有利子負債」がゼロの状態のことを指します。
ファナック、キーエンスのFA関連は底打ちか
ファナック、キーエンスは、FA(工場自動化)関連の代表的な企業です。FA関連は中国関連の代表銘柄として、米中貿易摩擦の影響を色濃く受け、下落してきたセクターです。しかし、いよいよ、FA関連も底打ちから回復傾向の可能性があり、直近、株価も堅調に推移してます。ファナックは直近の決算では、製造業不振のあおりから顧客の設備投資需要が減少し、スマートフォンの加工に使う、ロボドリルや工場向けロボットなどに打撃を受け、4~9月期は6割の営業減益計画となり、通期の見通しは未定としています。しかし、中国の生産の回復からFA関連は今の時点が底ではないかとの見方が強く、ファナックの株価は回復傾向にあります。
中国の6月の製造業購買担当者指数(PMI)は50.9と、景気判断の節目である50を上回っていることから、中国景気のⅤ字型回復への期待が高まり、7月6日には上海総合指数が18年3月以来、2年4カ月ぶりの水準に値を上げています。これを受けて、日本の中国関連株の代表株であるFA関連企業も連動高となっています。
「超効率経営」のキーエンス…自己資本比率は鬼の95.8%
中国に限らず、グローバルレベルで人件費や人手不足は中長期的に続く構造的な問題であり、製造業は継続的な生産性向上が求められるでしょう。FA関連企業のなかでも特に、超効率経営を行っている企業がキーエンスです。キーエンスも20年3月期の決算では営業利益が減益で21年3月期を非開示としていますが、株価は上場来高値を更新し6月4日に4万6740円を付けています。工場を持たないファブレス経営で知られる同社の営業利益率は驚異の50%、自己資本比率は95.8%である超優良企業は先行き不透明な相場で、異彩の強さを発揮しています。
そのほか有利子負債「ゼロ」ではないものの、ランキング7位であるSMCもFA関連企業で、こちらも自己資本比率89.9%と健全性の高い企業です。同社は4月以降の受注動向は半導体向けを含む電気が回復の兆しで、中国で好調が続いています。このことからも、日本企業のFA関連企業は金持ち企業が多いことが分かります。
巣ごもり需要にとどまらない任天堂は有望株
ランキング2位の任天堂は、無借金経営でありながら、お金持ち企業で、自己資本比率も約80%というモンスター級の企業です。20年3月期はゲーム機「Nintendo Switch」シリーズの販売台数が大幅に伸びたことに加え、人気タイトルが好調な売り上げを記録しています。特に、3月に発売された人気シリーズ「どうぶつの森」の最新作『あつまれ どうぶつの森』(あつ森)が、発売から10日間で約260万8000本を売る大ヒットとなったことも、ハード需要の押し上げにもなりました。その結果、営業利益は3523億円となり、キャッシュも大きく積み上がりました。
ランキング19位の自転車機構部品トップのシマノが年初来高値に買い進まれています。世界中で交通のソーシャルディスタンスが進んでおり、自転車通勤やサイクリングが人気化しています。新しい日常のひとつとして期待されているのでしょう。シマノは世界中のさまざまな自転車に高品質・高性能なパーツを供給しており、競技用自転車では世界トップシェアを誇っています。自己資本比率は90.8%、ネットキャッシュは2600億円に対して、有利子負債は45億円です。
1年間売り上げが0円でもお金が余るオリエンタルランド
年間売り上げ5256億円、日本最大のテーマパークである東京ディズニーリゾートは、2月末から休園が続いていましたが、7月1日に約4カ月ぶりに営業を再開しています。入園者数を通常の半分以下に抑えてキャラクターや他の来園者と一定の距離を確保するとともに、一部施設の休止は続けています。オリエンタルランドは1年間売り上げが0円でも、お金が余る衝撃の財務体力を持っています。「対コロナ持久力」を見定めるうえで重要なのが、短期的な債務の支払い能力です。企業が家賃や人件費など、毎月の固定費を払えずに苦しんでいます。そんな状況下でも、オリエンタルランドはお金を払う余裕がかなりある企業なのです。
企業が、1年以内に現金化できる流動資産がどの程度確保されているかを示す指標として、流動比率(流動資産/流動負債×100)というものがあります。同社の流動比率は、コロナ前の2019年3月末時点で285%あり、一般的に理想とされる200%を大きく上回っています。つまり、同社はかなりの支払い能力を持っているのです。2019年3月末時点の現金および預金残高は3775億円と、オリエンタルランドは財務体力がある有望企業なのです。
今回のランキングはアフターコロナの有望企業を探す、1つの手がかりとしていただければと思います。それでは、最新ランキングを見ていきましょう。
[テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子]