全米で23万部のベストセラー本を著したがん研究者ケリー・ターナー氏は、がんが劇的に寛解した1500以上の症例を分析。世界中の数百人ものがんサバイバーたちにインタビューした結果、奇跡的な回復を遂げた患者たちには、ある共通点があることがわかった。そのうちの一つが、「抑圧された感情を解放すること」だった――。
※本稿は、ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
ストレスや怖れを解放すると治癒能力は高まる
ストレスは、がん細胞を発見して体外に排出する役割を担う免疫システムを弱めることが、研究によって繰り返し証明されています。ストレスは免疫細胞だけでなく、体内のあらゆる細胞に悪影響をおよぼします。
幸いなことに、ストレスや怒り、怖れなどの感情を解放すると免疫システムが強化されることが何百もの研究により示されています。したがって、健康上の危機の際にストレスを制御する方法を見つけることは、劇的寛解者にとって不可欠なステップになるのです。
ストレスと同様に、怖れもまた、免疫システムを弱めたり、「硬直」させたりする感情の一つです。がん診断の重大さを考えると、劇的寛解を果たした人たちの間で、怖れが最も抑圧される感情の一つなのは驚くことではありません。とくに死への怖れは、がんと診断された瞬間から、患者に迫ってきます。
怖れに向き合うことは必ずしも簡単なことではありません。療法士や劇的寛解者たちは、怖れを抱き続けると身体が「締め付けられる」ようになり、エネルギーが滞る一方で、怖れは身体のバランスを取り戻すのに役立つという点で一致しています。
ストレスや怖れといった感情を十分に感じ、それを完全に解放することで身体はリラックスし、免疫システムの治癒能力が高まります。劇的寛解者の多くは、それを滝の下に立っているようなものだとたとえます。
感情というものは、状況に応じて降りかかってきますが、やがてそれは流れ出てあなたから去っていきます。もしあなたがいつも「感情の滝」の下に立っているとしたら、それは人生とそのすべての感情を最大限に感じながら、どんな感情的な荷物も溜め込まないということを意味します。そうすることで、過去にとらわれずに、今この瞬間にどんな感情も経験することができるようになるのです。
怖れは免疫システムを抑制してしまう
ここ数年、抑圧された感情を解放することの価値が、私たちの集団意識の最前線に浮上してきました。自分の感情についてほかの人と話し合ったり、そうした感情とうまく付き合う新しい方法を見つけることが、ますます受け入れられるようになってきています。
近年、注目を集めているのは、恐怖やトラウマに対するより深い理解、自己愛の重要性、そして未解決のトラウマから救うためのツールとして、身体を軽く叩くタッピングと、EMDR(眼球運動による脱感作・再処理法)の二つが出現したことです。
怖れを感じるたびに、自己治癒力のメカニズムがオフになります。怖れのようなストレスの多い感情は、体内でストレス反応を引き起こし、闘争・逃走モードに入り、免疫システムを抑制してしまいます。私の友人で同僚のリサ・ランキン医学博士は、ニューヨークタイムズのベストセラー『Mind Over Medicine』と『The Fear Cure』の著者ですが、病気における怖れの役割について話すことをためらいません。
「健康で長生きしたいのであれば、何を食べるか、運動するかどうか、ビタミンをどれだけ摂るか、悪い習慣をどれだけ持っているかよりも、怖れに対処することのほうが間違いなく重要です。多くの病気の根源に、抑制されていない怖れがある可能性を示唆するのは極端だとは理解しています。
これらの病気に生化学的な原因がないと言っているわけではありませんが、怖れは生化学的に有害な影響を受けやすくして、身体の自然な自己回復のメカニズムを不活性化させることを示唆しているのです。
さらに重要なのは、これについてあなたには何かできることがあるという点です。怖れと正しい関係を築くには、怖れと仲よくなり、怖れに関心を持ち、全身を乗っ取られることなく怖れに耳を傾ける必要があります。
そして、怖れている部分を落ち着かせることで、ストレスホルモンが消散され、癒やしホルモンである親密さの生化学的スープが劇的寛解を可能にするためのホルモンの舞台を整えるのです」
劇的寛解者が治癒の過程で直面する二つの怖れ
ランキン博士は、ほかの多くの療法士や劇的寛解者たちと同様に、人生の試練を学びの機会と捉える意欲があれば、怖れを手放し、さらなる好奇心と自己理解に向かって進むことができると示唆しています。劇的寛解を果たした人たちが、治癒の過程で直面する二つの具体的な怖れは、検査や診察のたびに感じる「結果を聞くまでの不安」と「死への恐怖」です。
どちらの怖れも現実のものであり、もっともなものです。しかし、それらによって立ちすくむ必要はありません。むしろ、そうした怖れを受け入れ、その支配をゆるめる方法を見つければいいのです。ランキン博士の怖れに対する「処方箋」の一つは、瞑想です。
瞑想などによって怖れの声から距離を置くことができれば、とても静かで平安な場所を見つけることができます。この絶対的な静寂の場にアクセスするには今この瞬間にいる必要があり、この静寂な場所には怖れは存在しません。この意識状態にあるときは、自分の死さえ怖くありません。
怖れは私たちの免疫システムを抑制するかもしれませんが、瞑想などの実践によってそれを分散させることができます。私たちは怖れの犠牲者になる必要はなく、あらゆる治癒のプロセスの自然な一部として怖れを受け入れ、うまく対処することができるのです。
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、抑圧された感情を解放するための効果的な戦略です。私は、MBSRが健康を改善する無数の方法を理解するという点で、研究が進歩し続けていることを報告できるのをうれしく思います。
たとえば、乳がん患者を対象とした最近の研究では、6週間のMBSRコースを受講すると、テロメアの長さと活動が大幅に増加することがわかりました。テロメアは、靴ひもの端にある小さなプラスチックのキャップがほつれないようにするのと同じように、DNAの末端を保護するものです。
年齢を重ねると、細胞内のDNAがコピーされて新しい細胞がつくられるたびに、テロメアは自然に短くなっていきます。テロメアが短くなればなるほど細胞は「古く」なり、その結果、老いを感じ、病気のリスクも高くなるのです。この研究に参加した乳がん患者は、MBSRのよく知られた心理的効果(抑うつ、不安、がん再発への怖れの軽減など)を享受しただけでなく、テロメアの長さと活動の増加によって細胞の健康状態も改善されました(※1)。
トラウマは慢性疾患のリスクを高める
科学者たちは、怖れが免疫システムに与える影響を理解するだけでなく、大人になってからの身体的健康への影響を含めて、幼少期の有害な経験の長期的な影響についても理解しはじめています(※2)。
幼少期にストレスの多い経験をすると、ストレスに対する初期の反応が高まり、これまで述べてきたように、免疫機能を抑制するため、その後の人生で慢性疾患にかかるリスクが高くなります(※3)。
近年の#MeToo運動のおかげで、私たちは、過去のトラウマや暴行に起因する抑圧された感情の影響の深刻さを認識する、極めて重要な時期にいます。
性的暴行を受けた人の50%が生涯に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を経験します(※4)。女性の5人に1人が一生のうちに一度はレイプされる(※5)という事実を考えると、多くのがん患者にとって性的虐待が抑圧された感情の根源にあるというのは理にかなっています。
このようなトラウマを経験したがん患者に#MeToo運動が与え続けている影響は、こうしたトラウマにまつわる長年の感情を声に出して解放することの重要性を、社会がようやく認識したことです。それによって、患者が自分の感情を処理するために必要な支援を受けられるようになりました。
EMDR(眼球運動による脱感作・再処理)は、過去のトラウマを解放するのに非常に役立つことが示されている新しい治療法です。
自分を愛することは、人生に奇跡をもたらす
近年、雑誌を見ても、ポッドキャストを聞いても、ソーシャルメディアをスクロールしても、自己愛の重要性について語っている人に出くわす確率が高いでしょう。自分を愛するという概念は、何十年も前からあり、多くの人が自助啓発運動の創始者とみなしているルイーズ・ヘイによってはじめられました。
ルイーズは自ら考案した、アファメーション(肯定的な自己宣言)や視覚化、栄養素クレンジング、心理療法などのプログラムによって、1978年に子宮頸がんを自然治癒させました。その後、彼女は自分自身を愛し、感謝することを学ぶことによって、ほかの人々が自分の人生を改善するのを助けることに人生を捧げました。
自分自身を愛する人が増えれば、与える愛も増え、その結果、世界はよりよい場所になります。ルイーズの言葉を借りれば、「自分を愛することは、人生に奇跡をもたらす」のです。
自己愛が治癒を助ける
近年、ソーシャルメディアのおかげで、自己愛のムーブメントが盛んになっています。
24時間365日、ソーシャルメディアに夢中になっている世界では、友人や知人、有名人の(極めて理想化された)生活を垣間見られるようになりました。
人々は、最悪な日や生活の平凡な部分についてはソーシャルメディアにほとんど投稿しません。その代わりに華やかな休暇や幸せな子どもたち、仕事の節目、出会った魅力的な人々、ボランティア活動など、最も「インスタ映え」する瞬間を共有する傾向があります。
しかし残念ながら、このような完璧な写真がいつまでも続くと、誤った比較や嫉妬、「自分より劣っている」という感情を生む原因になります。ソーシャルメディアの利用が不安やうつ病の症状の一因となっていることは、研究によって次々と示されています(※6)。
このような状況の中、他人と自分を比較する傾向を打ち消す、自己愛のムーブメントが再燃しています。「#selflove」や「#selfcare」のハッシュタグとともに、ストレスを軽減したり幸福感を取り戻すような特別なことをするために時間を割いている人たちが、ソーシャルメディアに投稿した画像を探してみてください。
劇的寛解者たちは、数日間(あるいは数週間)ソーシャルメディアから離れる「ソーシャル・デトックス」や、安らぎと自尊心を取り戻すために数日間、自分だけで過ごす「自己愛のリトリート」に参加したと報告しています。このような行動をとることで、彼らは自己嫌悪やストレスから解放され、自己愛の感情を高めることができました。
最も重要なのは、劇的寛解を果たした人たちは、このような自己愛や価値観の感情につながることが、身体の治癒を助けてくれると考えていることです。
感情を解放するグループワーク
抑圧された感情を解放するためのテクニックのどれもが、すべての人に効くわけではありません。人はそれぞれ、抑圧された感情を解放する独自の方法を見つけます。
たとえば、瞑想やMBSR、タッピングのクラスに参加したり、枕をパンチしたり、ドラムを叩いたりする人もいます。中には、グループでいると感情を解放しやすいという人もいます。メンタルヘルスの改善のために音楽を介したコミュニティを考案する団体も増えています。
ある研究グループは、そのような音楽療法に測定可能な心理的または生理学的な効果があるかどうかについて調べました。
この研究では、参加者は10週間にわたるドラム演奏のグループコースに週1回参加しました。研究者たちは、ほかの社会的活動に毎週1回参加するけれど音楽には参加していない対照群と比較して、このコースがうつ病、不安、社会的回復力の症状を改善できるかどうかを確認したかったのです(※7)。
驚くべきことに、ドラムを演奏したグループでは、わずか6週間で3つの感情指標すべてにおいて著しい改善が見られましたが、対照群には見られませんでした。さらに、その効果は、ドラム演奏のグループコースが終了したあとも3カ月間持続したのです。
研究をさらに進めるために、研究者らは参加者の唾液のサンプルを分析し、グループのドラム演奏コースが身体的な変化をもたらすかどうかを調べました。参加者のコルチゾールとサイトカイン(炎症を抑える免疫細胞のタンパク質)の値を測定したところ、10週間のグループドラム演奏コースのあと、参加者のストレスと炎症の値が大幅に減少したことを発見しました。
これらは両方とも、免疫システムを強化したい人にとってはいいニュースです。心理的、生理的なメリットに加え、この研究では、ドラム演奏がグループの中でおこなわれたため、社会的サポートという治癒要因も組み込まれています。将来の研究で、参加者がグループではなく、マンツーマンのレッスンでドラムを習った場合に、そのようなポジティブな結果を経験するかどうかを見るのは興味深いでしょう。
ステージ4の盲腸がんサバイバーが気づいたこと
抑圧された感情を、ドラムをはじめさまざまな方法で解放しようと試みてきた劇的寛解者の一人が、シカゴ出身のカーリン・マーレイです。盲腸がんサバイバーのカーリンは、20年以上にわたって心と身体、精神のつながりを研究してきました。
診断されるまでの1年間に、カーリンはつらい離婚を経験し、破産を申請し、重度のパーキンソン病と認知症に苦しむ年老いた母親の世話をするために引っ越さなければなりませんでした。当時22歳と20歳だった2人の子どもたちは、家を出て大学に通っていました。この極めて過酷な1年半のあと、カーリンは2013年にステージ4の盲腸がんと診断されたのです。
カーリンの治療は、腹部の臓器を圧迫していた15ポンド(約7キログラム)の腫瘍を取り除くための緊急手術からはじまりました。カーリンは自然治癒を試してもいいかと聞きましたが、医師はがんが進行しすぎているので、すぐに処置をする必要があると言いました。
カーリンは3カ月で4回の化学療法を受け、その後12時間の腹腔内温熱科学療法(HIPEC)の手術を受けることに同意。さらに、彼女は抑圧された感情を解放することが重要な要因であると気づきましたが、10の劇的寛解の治癒要因をすべて受け入れました。
従来の治療のあとの数年にわたる治療の間、カーリンは多くのエネルギー療法士と一緒に取り組みました。
「私は専門家とともに、がん診断の際についてくる感情の中心に“恥”があることを突き止めました!
この気づきによって、私は自分自身を見つめ直し、どのように自身をケアしていたかを確認することができました。自分自身が後回しになっていて、消耗していたのです。
私はほかの人のために与える人であり、介護者であり、母親であり、神聖な空間を保持する人でした。私はほかの人を世話するように自分自身を愛し、育てることを学ばなければいけなかったのです。私は自分自身に徹底的なセルフケアと自己愛を与え、古いパターンを壊し、子どもを愛するように自分自身を愛さなければなりませんでした」
「5年生存率が25%未満」からの劇的寛解
カーリンは、治癒の一環として手放す必要がある感情パターンが、どのように確立されたかを知るために、自分の子ども時代を調べました。
「私たちの家庭では、病気の人がすべての注目を集めていました。自分の治療の過程で、私は注目されたり世話をしてもらったりという、自分がどうしても欲しかったものを手に入れるために病気を利用していたことに気づいたのです。私は、『愛や関心を得るために自分の状態を利用する必要はもうない』と、繰り返し唱えました。自分の身体のエネルギーの流れを止めている問題やトラウマを突き止めることはとても重要で、それによって“病”が私たちの経験に入り込んでくるのです」
5年生存率が25%未満というステージ4の盲腸がんと診断されてから、6年以上経ちました。HIPEC手術のような画期的な従来の治療法と、過去の恥の感情を解放することを含む10の劇的寛解の要因を組み合わせることによって、彼女はとてつもない劣勢に打ち勝ち、健康で普通の生活を送ることができるようになりました。
彼女は現在、ラディカル・リミッション・ワークショップの公認インストラクターやヘルスコーチとして、がん患者に恩返しをしています。
※1.Lengacher, C. A., et al. “Influence of mindfulness-based stress reduction (MBSR) on telomerase activity in women with breast cancer (BC).” Biological Research for Nursing. 16, no. 4 (October 2014): 438–447. doi: 10.1177/1099800413519495.
※2.U.S. Centers for Disease Control and Prevention. “About the CDC-Kaiser ACE Study.” Last modified April 2, 2019.
※3.“Past trauma may haunt your future health: Adverse childhood experiences, in particular, are linked to chronic health conditions.” Harvard Health Publishing, Harvard Medical School. Last modified February 2019.
※4.Chivers-Wilson, K.A. “Sexual assault and posttraumatic stress disorder: a review of the biological, psychological and sociological factors and treatments.” McGill Journal of Medicine. 9, no. 2 (July 2006): 111–8. PMID: 18523613.
※5.Smith, S. G., et al. National Intimate Partner and Sexual Violence Survey: 2015 Data Brief – Updated Release. Atlanta, GA: United States Centers for Disease Control and Prevention, National Center for Injury Prevention and Control, Division of Violence Prevention, November 2018.
※6.Cash, H., et al. “Internet Addiction: A Brief Summary of Research and Practice.” Current Psychiatry Reviews. 8, no. 4 (November 2012): 292–298. doi:10.2174/157340012803520513; Montag, C., et al. “Internet Communication Disorder and the Structure of the Human Brain: Initial Insights on WeChat Addiction.” Scientific Reports. 8, no. 1 (February 1, 2018): 2155. doi: 10.1038/s41598-018-19904-y.
※7.Fancourt, D., et al. “Effects of Group Drumming Interventions on Anxiety, Depression, Social Resilience and Inflammatory Immune Response among Mental Health Service Users.” PLOS One. 11, no. 3 (March 14, 2016): e0151136. doi:10.1371/journal.pone.0151136.
[がん研究者 ケリー・ターナー]