予言は大当たり! お金の未来予測
2020年、テクノロジーの進歩はますます加速していくのは間違いありません。なかでも特筆すべきは、私たちの生活の根幹である通貨のデジタル化です。
ここ数年、ビットコインなど仮想通貨(暗号資産)を含むデジタル通貨の市場が急成長し、注目を集めていますが、実は、こうした新たな通貨の出現を、私は30年くらい前から予測していました。
そもそも、歴史を振り返れば、非国家の通貨は珍しくありません。古くは紀元前の中国で成立して間もない漢王朝が民間の銅貨の発行を許可していますし、建国間もないアメリカでも民間貨幣が流通していました。
30年前の1990年頃から、市場のグローバル化が急速に進み、取引量が大幅に増加していました。しかも、そのころインターネットが登場。私はインターネットというヴァーチャルな空間の誕生を、人類の新大陸の発見に匹敵する出来事だと公言していました。この手つかずの“第7の大陸”に、これまでにない新たなビジネスが無限に生まれ、それに伴い、新たな通貨が次々と誕生しても、驚くべきことではありません。
第7の大陸は、今なお爆発的に拡張していますから、デジタル通貨は20年以降も数えきれないほど誕生し、流通していくでしょう。
アマゾンコイン、アリババコインが出現
数多くある仮想通貨のなかで、覇権を制するのは誰でしょうか。
間違いなく、巨大IT企業でしょう。私の考えでは、世界に影響を及ぼす仮想通貨を立ち上げる最初の企業は、アマゾン、もしくはアマゾンとしのぎを削っているアリババです。
いずれも企業統治の枠内に膨大な数の商品を扱う、巨大な市場を持っているからです。アマゾンは有料会員だけでも1億人を超え、もはや一国家の規模に及んでいます。
さらに、そのアマゾンを遥かに超え、全世界に数十億のユーザーを持つフェイスブックが19年、仮想通貨「リブラ」の構想を発表しました。ドルやユーロなどの法定通貨を裏付け資産とすることで安定した価値を保つ仕組みです。各国政府や金融当局は、政府の特権である通貨発行権が脅かされることを懸念し、神経をとがらせています。
はたしてフェイスブックは、国家の枠組みを超える通貨革命を起こせるのでしょうか。私の予測では、NOです。フェイスブックは、アマゾンやアリババと違って、ユーザーに対して売る「モノ」がありません。通貨はモノの売買に必要なのであって、商品を持たない企業が通貨を発行することには、限界が出てくるでしょう。さらに、政府はこの点を槍玉に挙げ、リブラや同類の通貨の発行を徹底的に阻止するでしょう。
ユーロ史から考えるデジタル通貨の可能性
そもそも仮想通貨が、現行の通貨に取って代わることはあるでしょうか。
私はユーロの誕生に深く関わっており、その経験から、新しい通貨が普及するためには3つの条件が必要だと考えています。第1に「関税の撤廃」、第2に「商慣習の統一」、第3に「貨幣価値の安定」です。
ユーロ導入においては、ユーロ圏内での為替相場リスクがなくなり、さらに、第1条件の「関税の撤廃」によって、域内のモノの移動の自由が担保されました。第2条件、「商慣習の統一」については、関税以外の貿易障壁の排除に腐心しました。この2つの条件は、インターネットを通じて取引される仮想通貨の場合はクリアされます。
一方で、仮想通貨を導入する場合、第3条件の、「貨幣価値の安定」は実現が見込めないでしょう。なぜかというと、仮想通貨が増えるにつれ、仮想通貨間での価値が発行企業の企業価値と連動し上下してしまいます。結果的に、仮想通貨内での物価が安定せず、安定した成長もできなくなるからです。つまり、安定させるためには、価値を担保する絶対的な貨幣が必要になります。現在の「為替の自由化」と同じ理屈です。
そもそも通貨の目的は、ビジネスを円滑にし、活性化することにより、安定した経済成長を目論むことです。価値が上下する通貨に、人は信用を置くでしょうか。通貨は「信用」がすべてです。中央銀行がうまく機能しなくなった場合、あるいは既存の通貨に対して信用をなくしたとき、人々はほかの何かに移ります。それが金(ゴールド)になるか、デジタル通貨になるのかわかりません。デジタル通貨は、そういった類いのものだと思います。
先ほど、民間発行の通貨として、古代中国や黎明期のアメリカを例に挙げましたが、そもそも今の国家主権は、中央銀行の機能を民間に取られるほど弱まっていません。
したがって、最近よく囁かれる、巨大IT企業が独自のデジタル通貨を立ち上げ、国家を凌駕して世界市場を牛耳るというシナリオですが、今の主要国政府の反応を見るかぎり、そういったことはまだ起きないでしょう。もしも人々が国家の通貨を信用しなくなり、「ドルもユーロも信用できないけれども、アマゾンとアリババで売買できるものは信用できる」と言い始めるような状況になれば、話は別です。そのような無政府状態が引き起こされることは、当分の間ないでしょう。
ヨーロッパはあの企業と協力する
仮想通貨は今後も数多く誕生していくでしょう。ですが、既存の法定通貨をしのぐ安定性と流通性は持ちえないと思います。
その一方で、国家による既存の通貨のデジタル化が始まっています。
今のところ、世界各国は揃って「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」への慎重姿勢を崩していません。しかし、欧州と中国は導入に意欲的です。ユーロを管理する欧州中央銀行(ECB)は今、入念な準備を進めています。さらに、「中央銀行デジタル通貨」に批判的だった国際決済銀行(BIS)も、法定デジタル通貨の導入に舵を切りました。
繰り返しますが、通貨は、実際に売買が行われているところでしか流通しません。欧州は、自社内に巨大なマーケットを持つアマゾンとアリババと手を組み、デジタル通貨の立ち上げを進めていくと私は睨んでいます。
デジタル通貨は監視に利用される
一方で、デジタル通貨には、既存の通貨にはない大きな特徴があります。デジタル上で、一人一人の資金決済がすべて追跡できるという、中国のような監視国家にはもってこいのメリットです。
実際、私の視点では、中国の公的デジタル通貨「デジタル人民元」の開発は、金融経済的な観点よりも政治的な思惑が勝っています。
お金のやり取りから知りうる企業や個人の情報は今、中国が急拡大させている顔認証システムがもたらす情報よりも重要度が高いのです。中国政府にとってのデジタル通貨は、体制を維持するために、国民の行動データを中央に集め、また、通貨の移動を管理するためのツールでしょう。
ですから私は、中国がデジタル人民元で、ドル中心の国際秩序に挑もうとしているという最近の論調に同意できません。人民元をデジタル化しても、為替を自由化しないかぎり世界の基軸通貨になれませんし、為替の自由化は民主主義体制にならないかぎり実現しないからです。
中国はいずれ分裂する
デジタル通貨から話は逸れますが、今、進行中の香港の民主化運動から、中国の将来を予測してみましょう。
まず、中国は大国ではありますが、多くの内戦を繰り返して今に至っていることを忘れてはなりません。中国は、内に脆さを抱えた巨人であり、“統一された中国”は神話にすぎません。いつ何時、些細なことがきっかけとなり、国が崩壊しても不思議ではないのです。
中国政府はその危険性を十分に理解し、統一国家を維持するため、非常に巧妙な運営をしてきました。具体的には、資本の移動を国内で自由化させることで、独自の金融政策と為替相場を確保し、独裁体制を維持してきました。中国政府は、一方では自由を与えていると国民に信じ込ませ、もう一方では、自由世界から疎外されている国民を互いに監視させることで民主化を阻止してきたのです。
ところが、自由市場は有産階級、つまりブルジョワジーを生み出します。世界の歴史を見れば、ブルジョワジーが膨れ上がると、民主主義が求められ、独裁政治が排除されます。この流れの中にあるのが、今の香港です。私の計算では、あと10~15年くらいすれば、中国は全体主義から民主主義に転じるでしょう。このとき、国が解体され、2つ、3つの民主主義国家が生まれる可能性も否めません。
世界最大の脅威北朝鮮に騙されるな
さて、次に国際政治の未来に関する話をしましょう。
20年、世界最大の脅威は北朝鮮です。これは間違いありません。アメリカの対北朝鮮政策はお粗末なもので、とりわけ18年6月にシンガポールで行われた米朝首脳会談は大失敗でした。トランプは、交渉段階にもかかわらず、非核化を実現するという金正恩の大嘘を信じ、核開発を継続させるチャンスを与えました。金正恩の手のひら返しは、昨今の報道のとおりです。
米朝首脳会談の過ちが意味することは何でしょうか。
大前提として、北朝鮮は日本だけでなく、中国やアメリカの領域を射程圏内に収める長射程ミサイルを保有しています。その北朝鮮に対してアメリカは、「あなたは核兵器を保有していませんから、私たちは手を出しませんよ」と言ってしまいました。イランに対して核開発を徹底的に阻止し続けている張本人が口にする言葉ではありません。北朝鮮が核放棄に応じなかったとき、アメリカは、日本や韓国に対して「核をつくるな」と言える立場でいられるでしょうか。
日本も韓国も核兵器を持つように
アメリカは北朝鮮有事に対して、ほぼ間違いなく、日本を守ってくれません。アメリカの内向的な態度は、この先、誰が大統領になっても変わらないはずです。したがって、いずれ日本や韓国は自国の防衛のために核開発に乗り出す必要性を感じるでしょう。欧州もアメリカ同様、もしイランが核武装したとき、近隣諸国を守ることはないと思います。
結果的に、安全保障の名目で世界中いたるところで核兵器の拡散が加速します。このまま北朝鮮を甘やかし続ければ、恐ろしいツケが回ってきます。断じて言いますが、この状況は、極めて危険で、世界平和の脅威です。
私が、米朝首脳会談で思い起こすのは、1938年のヒトラーとイギリスのチェンバレンのミュンヘン会談です。私に言わせれば、どちらも、ただの記念撮影の場でしかありません。ミュンヘン会談では、チェンバレンがヒトラーの好き勝手を容認し、まだ戦争の準備ができていなかったヒトラーに時間を稼がせてしまいました。もしも、ミュンヘン会談のかわりに、イギリスとフランスがドイツに宣戦布告していれば、あの時点の軍事力では、一夜にしてヒトラーを追い払い、人類史上最大の戦争となった第2次世界大戦を回避することができました。
トランプは北朝鮮に対して、チェンバレンと同じ過ちを犯しました。歴史に「もしも」はありません。だからこそ、私たちは過去の過ちから学び、差し迫った脅威が何であるかを考え、平和な未来のために手を打たなければならないのです。
日韓対立は幼稚、対北朝鮮の世界同盟を
30年前、国際社会はブラジルと南アフリカに核保有を放棄させることに成功しました。同じように、北朝鮮にも核保有を断念させなければなりません。そのために、まずはアメリカ、日本、中国、韓国が、ただちに同盟を結ぶことです。同盟には、オーストラリアや欧州も加わったほうがいいでしょう。国際的な同盟となって、北朝鮮に対して経済制裁や、より強度の高い制裁を加えるべきです。制裁への報復など北朝鮮側の抵抗を見据えて、武器の使用も覚悟する必要があります。
昨今の日韓対立は、非常に幼稚です。本当に幼稚だと感じています。日本と韓国は、極めて危険な共通の敵がいることを理解し、敵の思うツボにはまらないように手を組むべきなのです。
同時に、国際社会は北朝鮮だけでなく、核保有国であるインド、パキスタン、イスラエルの核放棄も実現させなければなりません。核不拡散に向けて、世界は早急に手を打たなければならないのです。20年の国際政治において最優先すべきことは、国際社会が手を携え、北朝鮮の核開発を停止させることです。
ブレグジットの原因はロンドン五輪
20年にオリンピックを控える日本に、ロンドン・オリンピックと同じ轍を踏まないよう警告したいと思います。
ロンドン大会の開会式を覚えていますか。産業革命や国民保健サービスなどイギリスの世界的な功績を前面に出し、ビートルズやミスター・ビーンなど世界を熱狂させたエンターテインメント要素を取り込み、あげくに『007』のジェームズ・ボンドを演じるスタントマンがヘリコプターからエリザベス女王と降り立つという、いっとき世界を席巻した大英帝国の伝統と威光、ユーモアと親しみやすさを世界に見せつけました。イギリス一色の見事な演出でした。
あの開会式は、イギリスが第2次世界大戦以来、失っていた威信を取り戻した場と言っていいでしょう。この見事な開会式が「大英帝国は偉大。誰の力も必要としない」という過信に繋がり、イギリスのEU離脱の引き金になったと私は見ています。
オリンピックという巨大な祭典の場で、東京が世界に向けて発信するものが、もし「日本は最高だ!」の一色であれば、日本の未来は破滅的です。逆に「国境を超えて団結できれば素晴らしい世界が待っている」というメッセージであれば、問題はありません。ロンドン大会の開会式は、たとえ開会式そのものが驚くべき素晴らしいショーであったとしても、行きすぎた自信とナショナリズムを生まないための反面教師として記憶しておくべきです。
自分ファーストがまん延している
ブレグジットに見られるように、今日の世界は国家も市場経済も近視眼的で、重要な決定が短期的な視野のもとでなされています。ナショナリズムの台頭など思想の危機も分断を進めています。要するに、今日のイデオロギーは勝手気ままで、社会においても、個人の私生活においても「自分ファースト」(自分第一)なのです。しかし、他者を顧みない利己の追求が破滅を呼ぶことは明らかです。
20年からは「合理的な利他主義」という新しいイデオロギーが根付くことを私は願っています。繰り返しますが、他者のことを顧みない利己の追求が長続きしないのは明らかです。他者の幸せを考慮してこそ自分自身も豊かになれるのです。他者を助けることが、自分を助けること、利他主義が利己の最善の方法であることを、ぜひ理解していただきたいと思います。
ここで言う「他者」とは身のまわりの人だけでなく、これから生まれてくる次世代も含まれます。次世代の利益を考えて行動することが、個人にとっても最大の利益になることを悟ることによって、私たちは幸せに暮らせます。人文知の宝庫である偉大な日本文化を広く活用し、この先も発展させることは、世界のために有益となり、日本の次世代の利益にもなります。
将来性ランキングOECD最下位の日本
私の研究機関では毎年、次世代の教育、国債、インフラ構築、女性の地位など複数の観点からOECD(経済協力開発機構)加盟国の将来性を格付けしています。最新の統計でも、例年通り、上位を北欧諸国が占め、日本は韓国やトルコなどよりも低い最下位グループの1つです。日本が、とりわけ次世代への備えが遅れていることを認識し、早急に手を打つことを呼びかけたいと思っています。なかでも減り続ける労働人口は、今後の日本の国力にかかわる喫緊の課題です。
人口減対策として日本政府は外国人労働者の受け入れ拡大を目指しています。不安視する声があるようですが、世界経済におけるプレゼンスが弱まっている日本が活気づくには、外国の顧客のニーズを把握し、外国人を魅了し、外国人労働者を受け入れること。要は、未知なものに対して積極的に門戸を開くことだと、私は常々思っています。新しいヒト、モノを積極的に受け入れることで、この先どう進むべきか、答えが見えてくるでしょう。
日本の未来を明るくする処方箋
留意すべきことは、外国人労働者の受け入れによって、目先の人手不足は解消されても、少子高齢化問題の根本解決につながらない、ということです。現に、少子高齢化先進国といわれるフランスの合計特殊出生率に移民が寄与している、という説は間違いで、実際は、第2次世界大戦後からの積極的な子育て支援政策が功を奏したからにほかなりません。
日本が本腰を入れるべきことは、外国人受け入れ拡大以上に、子どもを産み、次世代への備えを進めるための意識改革です。
「これで幸せだから、子どもはいらない」「子どもを産むと家計が苦しいから産みたくない」という利己的な考え方から、「子どもは日本社会の未来であって社会の宝」「子どもを産むことが自分の利益」という価値観に変えていくよう、社会全体の意識改革が必要です。
女性が安心して子どもを多くつくるための最善策は、女性により多くの権利、よりよい仕事を与えることです。私は日本を訪れるたびに、様々なビジネスシーンにおいて、女性の割合がいまだに少ないことを危惧しています。社会は女性に力を与えれば与えるほど前進します。日本は、女性に対するあらゆる形態の差別と暴力と戦い、女性の社会進出と地位向上を目指すべきです。
1つの具体案は、出産後に女性と配偶者に長期休暇を与えることです。夫婦合わせて、生後、合計6カ月の休暇が必要でしょう。日本の未来のため、自分たちの利益のため、政府と企業は連携して、より一貫した家族政策を推進する必要があります。
「合理的な利他主義」と「未知なものに心を開く」。この2つは、日本の未来を明るくする私からの処方箋です。20年、きっと素晴らしい年になるはずです。
[経済学者 ジャック・アタリ 取材・構成=桂 ゆりこ 撮影=宇佐美雅浩 写真=AFLO、時事通信フォト]