全人口の約2%が「性的マイノリティー」自認者であるイギリス(2016年イギリス国家統計局調査による)。LGBT+コミュニティーも大きいことから、当事者ネットワークはすでに確立しており、「誰もが安心してくらせる社会」を目指した取り組みは発展を続けている。そんななか、「多様性のある街」を掲げるロンドンにイギリス初のLGBT+当事者専用の高齢者向け集合住宅が誕生。話題を呼んでいる。
イギリスには、引退後のシニア世代のみが暮らす集合住宅「リタイアメント住宅」というシステムがある。一見は普通のマンションだが、入居最低年齢が設定されている(多くの場合、55歳、または60歳)。同地区・同条件の住宅よりも一戸の価格が安く、高齢者に必要な設備が整っているのが特徴だ。同じライフスタイルの人たちとコミュニティがつくれることが魅力であり、引退後にそれまで住んでいた家を売却し、リタイアメント住宅に引っ越す人も多い。
イギリスは同性婚もパートナー制度も法制化済みであり、制度的には整っている部分も多い。それだけにこのニュースを聞き、「あれ? LGBT+用リタイアメント住宅ってまだなかったの?」と正直驚いたが、LGBT+当事者が高齢になったとき、「これまで同様のライフスタイルを維持しつつ、安心して生きていけるのか?」については疑問があった。
今回、この部分を一歩進めたのがロンドン市長サディク・カーン。市長の強い後押しのもと、LGBT+シニア層のコミュニティー形成を推進するNPO団体「トニック」が大ロンドン庁住宅基金から570万ポンド(約8億7200万円)を借り入れ、タワー型シニア用集合住宅内の19戸を買い上げた。この春からLGBT+当事者専用のリタイアメント住宅「トニック@バンクハウス」として分譲される。
「トニック@バンクハウス」のあるボクソール地区はロンドン屈指のゲイコミュニティーがある街。まだ19戸のみだが、ここを出発点にLGBT+高齢者コミュニティーが「暮らしやすい」形を探りつつ、育っていくと期待されている。
文:宮田華子