クリエイティブな感性を刺激する、本、映画、音楽を紹介する「Penが選んだ注目のカルチャー」。注目すべき作品を、毎月ご紹介します。
100枚の実例からわかる、人集めに効果的なデザイン
『広がるフライヤー展覧会、舞台・映画、イベントを表現するチラシのアイデアとテクニック』
イベントなどで人を集めたい時、フライヤーは効果的なツールだ。必要な情報を正確に伝えるとともに、企画側の感性や意気込みをも表現できる。現物を配布するだけでなく、サイトやSNSで画像を拡散する機会も多い。本書では、100枚のフライヤーを例に、使われている書体や色、レイアウトがコミュニケーションに果たす役割を解説。フライヤーにおけるデザインの効果がよくわかる。
愛する人すべてを喪った時、心はどこをさまようのか。
『波』
2004年、休暇中に滞在していたスリランカを巨大津波が襲い、著者は夫とふたりの息子、両親を失った。一瞬の出来事で、人生の意味は大きく変わってしまう。本書は彼女の喪失の物語だ。家族との温かい思い出をどう処理すればいいのか。死への誘惑は絶え間なく続く。パンケーキのつくり方すら思い出せない。夫の仕事用の手帳を開くことができたのは、6年経ってからだった。愛する人々の不在は、時とともに膨らんでいく。行き場を失い、さまよい続ける心の記録が胸を打つ。
アクシデントに遭遇すると、大人しくなるのはなぜ?
『生き残る判断生き残れない行動災害・テロ・事故、極限状況下で心と体に何が起こるのか』
NYの9.11テロ、ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」、さらに飛行機事故など、著者は実際に起きた災害や事故で生き残った人々を調査し、どんな判断や行動が生死を分けるのかを分析する。アクシデントに遭遇すると、ほとんどの人が物静かで従順になるのは、知性ゆえではない。心が現実を受け止めきれないからだ。これを経て、ようやく思考が再開する。心のパターンを理解すると、やるべきことが見えるはずだ。
自撮りで身体の存在性を問う、若手作家初の作品集。
『GIFT』
9歳で両足を切断し、義足を使用するようになった著者のセルフポートレートと、自らが制作したオブジェを撮影した作品集。下着姿で床に座り込む姿、デコレーションされた義足、手や足を模したオブジェなど、写し出された作品は、どれも身体の存在性や生命のあるものとないものとの境界をえぐる。タイトルの「GIFT」について、ドイツ語では贈りもの、与えられるものから転じて、毒という意味になったと著者は述べる。自分の肉体と自己との間にある距離を、改めて考えさせる。片山は、2019年に行われるヴェネツィア・ビエンナーレにも参加予定。
猟奇事件犯人の真実の姿を、音声テープから捉え直す。
『肉声 宮﨑勤 30年目の取調室』
幼女4人が犠牲になった埼玉連続誘拐殺人事件の宮㟢勤容疑者は、取調室でなにを語ったのか。事件から30年を経てフジテレビ報道局が入手したのは、逮捕から14日間分の27本の音声テープだ。本書はその内容を、文字に起こして事件の経過とともに紹介する。取り調べ担当の刑事は、幼女の自宅前に遺骨を放置し、犯行声明文を送りつけた動機にも迫り、宮崎を追い詰める。肉声の記録からは、彼が計画性をどこまで認めるかで揺れる様子も伝わり、犯人の実像が浮き彫りになる。
兄を失った6歳が行った、悲しみの乗り越え方。
『おやすみの歌が消えて』
ニューヨーク近郊の小学校で銃乱射事件が起きた。主人公である6歳の“ぼく”は担任の先生や級友とクローゼットに隠れて無事だったが、3歳上の兄は命を落とす。優しい兄ではなかったし、両親も手を焼いていたが、母は悲しみの淵から戻ってこようとしない……。自らも恐怖の時間を過ごし、兄の不在を感じ、父と母の間に高まっていく不穏な空気に胸を痛める“ぼく”は、懸命に自らの心を立て直す。子どもを語り手にすることで、純粋に悲しみと向き合う方法が見えてくる。
文:今泉愛子