現在公開中の映画『夜明けまでバス停で』で、思いがけず人生の歯車が狂ってしまった女性の人生を、板谷由夏さんはリアルに演じている。
素の板谷さんは、47歳。14歳と10歳になる二人の息子を育てながら、俳優としてドラマや映画で活躍中。
その一方で畑仕事に精を出したり、ファッションの仕事をしたり、フル回転の毎日だ。
そろそろ疲れも感じるこの年代を、どんな思いで過ごしているのだろう?
(路上生活者を演じて感じたことについての、インタビュー前編はコチラ)
撮影/富田一也 ヘア&メイク/結城春香 スタイリスト/古田ひろひこ 取材・文/岡本麻佑
板谷由夏さん
Profile
いたや・ゆか●1975年6月22日、福岡県生まれ。’94年よりモデルとして活動し、’99年に映画『avec mon mari』で俳優デビュー。俳優のほか、’07~’18年に『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のキャスター、『映画工房』(WOWOW)のMC、またファッション・ブランド『SINME(シンメ)』のディレクターを務めるなど、幅広く活躍している。主な作品にドラマ『ファースト・クラス』『家庭教師のトラコ』、映画『運命じゃない人』『サッド ヴァケイション』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など。現在、ドラマ『夫婦円満レシピ ~交換しない?一晩だけ~』(テレビ東京系・水曜24時30分~)に出演中。
腰痛、どうにかしなきゃ!と始めたのは?
インタビュー当日、板谷さんは時間ぎりぎりに飛びこんで来た。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって!」
なんとこの日は朝4時半起き。部活の朝練がある中学生の長男にお弁当を持たせて5時半に送り出し、その後もあれこれ忙しく家事をこなしてから家を出たという。
2007年に結婚。第一子を出産後に郊外で暮らし始めた。今は二人の子どもを育てながら、母親業と俳優業を両立させるべく、奮闘中だ。
「31歳で結婚して、まだ上の子が小さいときに郊外の今の家に移りました。海も山もあってお日様がたっぷりで、もともと大好きな土地だったんです。古い一軒家を見つけて、リフォームして暮らしています。
仕事のたびに都内まで車で1時間から1時間半かかりますけど、空気がおいしいし自然が豊かだし。郊外で暮らして東京で仕事して、メリハリがありますね。
仕事が終わると早く帰りたいと思いますから、やっぱり郊外が好きなんだと思います」
自然が豊かな土地に住んで、数年前から本格的に始めたのが、自家農園。
「ウチの横にあるちょっとしたスペースで、野菜を作っています。この春はジャガイモが採れたし、冬には大根とかほうれん草とか。今年の夏はミニトマトが豊作で、もう爆発状態でした(笑)。
小さな苗を2株植えただけなんですけど、入れ替えた土が合ったのか、すごく育って横に広がって、一緒に植えたバジルやパセリが負けるほどトマトに占領されちゃいました。
毎朝大きなボウルにいっぱい採れるので、近所にお裾分けしたり友だちのレストランに分けたり、自分ち用にはトマトソースやドライトマトのオイル漬け、あとはキッチンの横に置いてパクパク食べたりしていました」
もともと大の野菜好き。
「旬のものを食べればいいのかな、ぐらいのこだわりですが。母のご飯がそうだったように、家のご飯が一番安心できるし、私が作ったものが子どもたちの体を作ると思っているので、ご飯はちゃんとしているつもりです」
忙しい毎日を乗り切る秘訣は?と聞くと、シンプルな答えが。
「楽しむこと、ですね。文句を言いたいこともたくさんありますけど(笑)、でも楽しまないと損だし、もったいない。なんとしてでも楽しんでやろうと思っています」
そんな板谷さんにも、弱点がひとつあった。腰痛だ。
「年に1回くらい、ギックリ腰をやっていました。疲れがたまってくるとまず肩こり、そしてそのコリが下がって腰にくるんです。それに、今は運転してもらって仮眠もできますけど、前は10年間ぐらい自分で運転して仕事に通っていたので。運転は、疲れが腰に来ますよね」
そして3年前、ギックリ腰どころではない状態に。
「(椎間板)ヘルニアを発症しました。お正月でお客さんが来て忙しかったのと、寒さと、いろいろなことが重なっていたのだと思います。朝、掃除機をかけていたら『グジッ』って音がして、そこから立てなくなって」
病院に駆け込み、ブロック注射をした上で、車椅子で仕事場へ。
「連ドラの撮影中だったんです。頑張りましたけど、その3日間、あまりに痛くてつらくて、記憶がないの(笑)」
なんとかせねばと、自分の体と向き合う決意をした板谷さん。特に自分に合っていたのがセルフ整体。お腹の内側、コアの筋肉をほぐし、体を柔らかく保つこと。そして骨盤底筋を意識して暮らすこと。
「『ユミコアボディ』に通って、まずはメソッドを学び、家で毎日ストレッチしています。ローラーやボールで筋膜をはがしたり、肩甲骨と股関節を動かしたり。本当はちゃんとサロンに行くべきなんですけど、忙しくて行けないときはオンラインで。
背筋が伸びますし、筋肉をほぐすだけで全然違う。巻き肩が治ってきましたし、背も少し伸びたような気がします。ギックリ腰もこの3年ほど、起きていません。ひどい目にあったので、自分のこともちゃんとケアしないといけないなって痛感したんです」
40代後半、そろそろ更年期、というタイミングだけど。
「たしかに以前より体が疲れやすくなっていますし、以前は徹夜なんて平気だったのに、今は無理をすると2日間くらいグダーッとしています。でも逃げられないですからね。上手に付き合うための努力はしたいです」
そうそうもうひとつ、板谷さんに聞きたいことが。
ファッション・ブランド『SINME』のディレクターという視点から、40代50代の女性たちに何か着こなしのアドバイスを!
「大事なのは好奇心、ですね。年齢を重ねると、『私はコレが似合うの』って固まってしまいがちで、確かに自分のスタイルを持つのは素敵なことですけど、チャレンジしなくなってしまうのはもったいない。
好奇心旺盛な人は、『ああいう服を着てみたい』って、ファッションも挑戦できると思うんです。色だけでもいいから今までとは違うテイストにトライする、そういう好奇心が大事だと思います」
作り手として心がけていることは?
「私が作る服は、自分が着たい服なんです。ワンシーズンで消えてしまう服は作りたくないので、3~4年寝かせてからまた着ても、全然違和感のない服。ですからどんどんベーシックな服になっていくんですよ。流行よりも、その人に寄り添う服を作っていきたくて」
つまり私たちも、着たい服を着たいように着るのがいちばん。
「年齢を重ねて、ボディラインが多少緩くなってしまったとしても、隠さないほうがいいと思います。もちろん体型カバーというやり方はありますけど、欠点を気にしすぎると、その人のチャーミングさもなくしてしまう。その人の良さまで隠してしまいそうで。
私はフランスとかイタリアのオバチャンたちが、二の腕がたるんでいようがお腹が出ていようが、ノーブラでTシャツを着ているようなスタイルが大好きなので、まぁ文化の違いもありますけど(笑)、そういうチャレンジングなマインドは持っていたい。私も、いくつになってもたぶん破けたジーンズを履いていると思うし、そうありたいと思っています」
『夜明けまでバス停で』
2020年冬、東京・幡ヶ谷のバス停で、ホームレスの女性が襲われ、死亡。誰にも助けを求めずひとりで生きようとしていた彼女が陥った悲劇に、多くの女性が衝撃を受けた。高橋伴明監督がこの事件をモチーフに社会的孤立を描く本作は、各方面から熱い注目を集めている。
2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開中
配給:渋谷プロダクション
脚本:梶原阿貴
監督:高橋伴明
出演:板谷由夏 大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨
柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明ほか
©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会