みずみずしさが特徴の桃のなかでもとくに豊饒な美味を誇る水蜜桃。その字面だけでも豊かな甘さを感じる水蜜桃は、通常の桃とどこが違うのだろうか。旬や味わいに相違はあるのだろうか。本記事では水蜜桃の原産、名前の由来など、その特徴とともに詳しいところを説明する。
1. 水蜜桃(すいみつとう)は日本初の白桃
水蜜桃とは日本大百科全書によれば、果汁が蜜のように豊潤で柔らかい果肉の桃の総称とある。響きからして美味を想像させる水蜜桃にはどのような品種があるのだろうか。その歴史や変遷とともに見ていこう。
大陸から渡ってきた桃
中国が明であった時代、14世紀に水蜜桃が栽培されていたという記録があり、日本に到来したのは1875年、上海水蜜桃と天津水蜜桃と呼ばれる桃であったという。これが日本人が白桃を食する発端となったそうだ。日本における桃の歴史は古く、遺跡からの出土品から推測するに、弥生時代にはすでに桃を食していたとされている。しかし日本の桃は小ぶりで甘みにも水分にも恵まれず、果肉も固いタイプが大半であった。したがって、明治時代に到来した水蜜桃は、日本における桃の栽培や品種改良に大いに貢献したとされている。
名前の由来
水蜜桃の読み方は「すいみつとう」である。そのみずみずしい響きと字面をもつ言葉は、桃の高級品の代名詞であったり、あるいは桃そのものを詩的に表現する場合に用いられる。さらに、シロップ漬けになった桃の缶詰を指す場合もある。一方、その水分の多さから傷みやすさを連想するため、堕落などのネガティブなイメージを比喩することもあるようである。ちなみに、水蜜桃の原産国である中国では、美味しさを表現するための表象であったり、気分が高揚して頬を染める様子を表す言葉でもあるという。
品種ではなく桃を指す
ちなみに水蜜桃とは品種名ではない。明治時代に日本に到来した桃には上海水蜜桃と天津水蜜桃があったと伝えられているが、日本の風土に合っていたのは上海水蜜桃であった。その後の品種改良のなかで偶発実生から新品種が発見されるなど、近年も新品種の登録数は非常に多い。つまり水蜜桃とは正確な品種名ではなく、美味しい桃を表現する場合の一単語ととらえてまちがいない。日本に到来した経緯から、中国に由来する桃は水蜜桃と呼ばれるのが常である。品種改良が進みみずみずしく大ぶりの桃が多くを占める現在、通常の桃と水蜜桃の違いは、ほぼ皆無といってよいだろう。
2. 水蜜桃の種類や特徴
水蜜桃と呼ばれる桃の代表的な品種にはどのようなものがあるのだろうか。いずれも明治時代に中国から渡来した桃から生まれたみずみずしい品種ばかりである。値段も高めの高級な桃も少なくない。水蜜桃という名にふさわしい美味を誇る品種やその特徴を紹介する。
主な水密桃の品種
水蜜桃の品種とその特徴は以下のようになる。偶発実生として登録された白桃は1899年に誕生した品種である。皮も果肉も白色なのが特徴である。白桃と橘早生の交配から誕生した白鳳は1933年に登録された品種である。肉質のきめが細かく甘いのが特徴である。黄色い果肉が特徴で、缶詰などに加工されることが多い。生食の場合は甘みと酸味が強いという特徴がある。ネクタリンは本来、小粒で品質も低い桃の一種であり消滅してしまった品種である。現在のネクタリンは欧米から導入された粒の大きい桃を品種改良したもので興津、秀峰、早生ネクタリンなどの品種がある。無毛でなめらかな果皮を特徴としている。蟠桃という言葉は中国の「漢武帝内伝」にも登場し、3千年に1度だけ実をつけ不老不死を約束する伝説的な桃でもあった。現実の蟠桃は平たい形状が特徴の甘みの強い桃で、日本での栽培が難しいとされている品種である。現在も日本での生産は限られている。ワッサーは水蜜桃の申し子のような品種であり、白桃とネクタリンの偶発実生から生まれている。1990年に品種登録が行われた比較的新しい桃で、小ぶりながら豊かな果汁が特徴である。
味や香りについて
水蜜桃は白桃を中心に大ぶりで甘みのある桃をベースに品種改良されたものが多く、基本的に非常にみずみずしいのが身上である。品種によって特徴はさまざまながら、たっぷりとした果汁と蜜のような甘さ、桃らしい芳香は一貫した特質といえるだろう。
旬の時期と産地
水蜜桃は日本各地で栽培されているが、比較的高温であることが栽培条件となっている。現在、主要な水蜜桃の生産地は、山梨、福島、長野、岡山、和歌山となっている。1978年~2017年までに登録された桃の新品種は260に及び、そのため旬の時期もさまざまである。6月中旬に収穫可能な極早生から9月以降に熟す晩生まで、品種によって旬の時期は大きく変わる。
3. 水蜜桃の食べごろと保存方法
芳醇な美味しさが特徴の水蜜桃。購入する際には質のよいものを選び、正しいタイミングで食べたいところである。美味しい水蜜桃の見分け方や保存の方法について概略を見てみよう。
食べごろの判断
美味しい水蜜桃の条件には以下のようなものがある。
- 左右にあまり広がりすぎない形状
- 全体に白い点がある
- 表面の切れ目があまり深くない
食べごろの判断をするにはまず、下部が柔らかくなり始めたことを確認しよう。また香りも食べごろを測る基準としては重要で、桃特有の甘い香りが濃厚になったらタイミングとしてはよいといえるだろう。
保存方法について
水分が多くデリケートな水蜜桃はどのような保存をすべきなのだろうか。水蜜桃の保存の基本は常温である。表面に傷がつかないようにキッチンペーパーなどで1個ずつ包み、購入後3日以内に食べきるようにしよう。冷やしたい場合には食べる2時間ほど前に冷蔵庫に入れるとよいだろう。また、長期保存したい場合は、桃を丸ごと冷凍する方法もある。
結論
水蜜桃とは明治以降に日本に到来した桃のことである。それまでの桃と異なり、大ぶりで柔らかく甘みの強いのが特徴であった。日本ではその後数々の品種改良によって、水蜜桃の名に恥じない美味しい桃が各地で栽培されるようになった。特徴や旬の時期を異にするこれらの水蜜桃、正しく保存してその美味を堪能してほしい。