蕎麦屋で見かけることが多い「蕎麦湯」。これは蕎麦を茹でたときの茹で汁のことで、ポリフェノールの一種であるルチンをはじめ、蕎麦に含まれる栄養成分が多く溶け出しているといわれている。そのため、古くから「蕎麦湯は健康にいい」といわれて飲まれてきた。今回はそんな蕎麦湯の基本について詳しく解説する。家でもできる蕎麦湯の作り方や蕎麦湯のアレンジ方法なども確認しよう。
1. 蕎麦湯とは?
蕎麦湯とは、日本蕎麦を茹でるときに使ったお湯(茹で汁)のこと。蕎麦湯には、蕎麦のデンプンなどが溶け出しているため、白く濁っておりとろみがあるが味はほぼない。また、一般的に「湯桶(ゆとう)」と呼ばれる大きめの急須に入れて出され、お椀に残った蕎麦つゆを割って飲むことが多くなっている。ルチンといった栄養素が溶け出しているため、古くから「健康にいい」と飲まれている。
2. 蕎麦湯に含まれる「ルチン」とは?
「日本食品標準成分表」などには(※1)、蕎麦湯の栄養価は収録されていない。しかし、蕎麦湯には蕎麦の栄養素がたくさん溶け込んでいるとされており、代表的な栄養素の一つがポリフェノールの一種である「ルチン」だ(※2)。そんな蕎麦湯に含まれるルチンなどについて詳しく確認する。
「ルチン」とはどんな栄養素?
ルチンとは、日本蕎麦に多く含まれているビタミン様物質であるビタミンPの一種。また、ケルセチンとルチノースからなるポリフェノールの一種でもあり、体内では「抗酸化物質」として活性酸素の発生を抑えたり、発生した活性酸素を取り除いたりする働きがある(※3、4)。なお、蕎麦湯に含まれるルチンの分量は、蕎麦の加工状態や茹で時間などによって異なる。
3. 蕎麦湯の3つのおすすめの飲み方
一般的な蕎麦湯の飲み方は、蕎麦つゆが入った蕎麦猪口に注いで飲むというもの。しかし、このほかにも、「そのまま飲む」「薬味を加える」「焼酎割りにする」などいくつか飲み方がある。ここではそんな蕎麦湯のおすすめの飲み方を紹介する。
その1.そのまま飲む
蕎麦湯は蕎麦つゆで割らなくても、そのまま飲むことが可能だ。特に、蕎麦の名店の蕎麦湯は美味しいといわれており、蕎麦の香ばしい香りやほのかな味わいを楽しむことができる。なお、蕎麦湯用の湯飲みがない場合には、蕎麦猪口に蕎麦湯を注いでから飲み干し、空になった蕎麦猪口に改めて蕎麦湯を注いで飲んでみよう。
その2.薬味を加える
蕎麦つゆと蕎麦湯を合わせて飲むときに、ネギやワサビ、一味・七味唐辛子、白ゴマなどを添えるのもおすすめだ。薬味にはいくつか役割があるが、その一つに料理に味わいや香りをプラスするというものがある。そのため、蕎麦湯に薬味を添えることで、そのままで飲むよりも豊かな味わいや香りを楽しめるようになる。蕎麦湯も楽しみたいなら、少しだけ薬味を残しておくようにしよう。
その3.焼酎割りにする
自宅で蕎麦湯を飲むなら、蕎麦湯と焼酎を合わせて「焼酎割り」を作るのもおすすめだ。作り方は簡単で、蕎麦湯を入れたホットグラスに焼酎を注ぐだけである。また、焼酎の原料には芋・麦・米などが多く使われているが、蕎麦の実を原料としている「蕎麦焼酎」もある。蕎麦焼酎を使って焼酎割りを作ることで、より蕎麦の香りや味わいなどを楽しめるようになる。
4. 家でできる蕎麦湯の簡単な作り方
家で蕎麦湯を作る方法といえば、「生麺や乾麺を茹でる方法」が一般的である。しかし、実は市販の蕎麦粉をお湯(または水)に溶かすことで、簡単に蕎麦湯を作ることができる。スーパーやネット通販などで蕎麦粉を入手したら、以下の手順で蕎麦湯を作ってみよう。
蕎麦粉で蕎麦湯を作る方法・手順
- 蕎麦猪口などにスプーン1~3杯の蕎麦粉を入れる
- 蕎麦粉と同量のお湯を加え、スプーンで混ぜながら溶かす
- スプーンで混ぜながら少しずつ熱湯を注げば完成
- (2)でクリーム状になるまで蕎麦粉を溶かす
- (3)ではお好みのトロミ感に熱湯を注ぐ
5. 作った蕎麦湯の正しい保存方法
前述の方法で作った蕎麦湯や、乾麺・生麺を茹でてできた蕎麦湯は、密閉容器に移し替えて冷蔵保存しておこう。ただし、あまり日持ちしないため、2~3日程度で使い切るのがよい。また、長期保存したいなら製氷皿に入れてから冷凍。完全に凍ったら冷凍用保存袋などに移し替えて冷凍保存しておこう。冷凍保存する場合は、1か月程度は使うことが可能になる。
6. 蕎麦湯を飲むときの注意点
蕎麦湯は美味しくて、「ルチン」も含むため健康面でも優れているとされるが、「蕎麦つゆを飲みすぎると塩分過多になる」「お店によっては飲み方のルールやマナーがある」などいくつか飲む上で注意点もある。そこで蕎麦湯を飲むときの注意点についても確認しておこう。
注意点1.塩分の摂り過ぎになる
蕎麦湯を飲むときに注意したいのは、その「塩分量」。特に蕎麦つゆと合わせて飲むときには塩分過多に注意したほうがよい。蕎麦つゆの塩分量はお店などによって異なるが、1杯(約90ml)あたり2.7~2.9g程度含まれている(※5)。成人男性(18~64歳)の1日あたりの塩分目標量は7.5g未満であるため(※6)、蕎麦湯(蕎麦つゆ)の飲みすぎによる塩分過多には注意しよう。
注意点2.お店によってはマナーがある
一般的に蕎麦湯の飲み方にルールやマナーはない。そのため、蕎麦つゆと混ぜたり、そのまま飲んだりしてもよい。しかし、蕎麦店によっては、蕎麦湯の飲み方に関するルールを設けているところもあるという。不安なら蕎麦店のホームページや口コミサイトなどを事前にチェックしたり、店内にある説明書きなどを確認したりするとよいだろう。
7. 蕎麦湯に関するよくある質問
ここまで蕎麦湯について詳しく解説してきた。しかし「蕎麦湯はいつから飲まれているのか」「蕎麦自体にはどんな栄養素が含まれるのか」などが気になる人もいるだろう。そこで最後に蕎麦湯に関連するよくある質問・疑問に回答しておこう。
Q1.蕎麦湯はいつから飲まれているの?
1697年発行の『本朝食鑑』に蕎麦湯に関する記述は見られるが、蕎麦湯を飲む習慣がいつ頃のものなのか明確な資料は残っていないという。しかし、蕎麦湯を飲む習慣は「信州地方(現・長野県)」で始まり、江戸時代中期(1750年前後)に江戸(現・東京都)」に伝わったとされている。なお、なぜ飲まれるようになったのか、その理由についても現在は分かっていないそうだ(※7)。
Q2.日本蕎麦にはどんな栄養素があるの?
日本蕎麦は、炭水化物とたんぱく質の含有量が多く、身体を動かすためのエネルギー源になる。さらにビタミンB群やビタミンEなどのビタミン類、カリウムやリンなどのミネラル類も豊富で、食物繊維もたくさん含んでいる食品である(※1)。なお、蕎麦に多く含まれるビタミンB群などは水溶性の成分であるため、茹でている間に茹で汁(蕎麦湯)に溶け出しているともいわれている。
Q3.蕎麦湯のカロリーはどれくらいなの?
前述したとおり、「日本食品標準成分表」には蕎麦湯の栄養価は収録されていない。そのため、蕎麦湯の明確なカロリーは不明となっている。しかし、オンライン健康管理サービスの「イースマート」によると(※8)、湯飲み茶わん1杯分の蕎麦湯のカロリーは7kcalとなっている。
Q4.蕎麦湯の使い道やアレンジ方法には何がある?
蕎麦湯は一般的に蕎麦つゆと合わせて飲むことが多い。しかし、実は蕎麦つゆを料理に使うことも可能だ。特にデンプンが溶け出しておりトロミ感があるため、トロミを活かしたかきたま汁、あんかけなどに使うのがおすすめ。また、蕎麦の香りを活かして、葛切りやラーメンのスープ、湯豆腐などにするのもよい。残った蕎麦湯は取っておき、このような料理を作るときに使ってみよう。
結論
蕎麦を茹でたときに残った茹で汁は、古くから「蕎麦湯」として飲まれてきた。当初の理由は定かではないものの、現在はルチンやビタミンB群などを含んでいるため「健康にいい」として飲まれている。しかし、蕎麦つゆと合わせると塩分過多に繋がる可能性があるため注意が必要になっている。家で使う場合は、料理の隠し味などにも使えるので上手に蕎麦湯を使うようにしよう。【参考文献】
- ※1:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 https://fooddb.mext.go.jp/
- ※2:日本雑穀協会「第4話 そば湯までおいしく」 https://www.zakkoku.jp/archives/10948
- ※3:国立健康・栄養研究所「ルチン」 https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail612lite.html
- ※4:e-ヘルスネット「抗酸化物質」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-009.html
- ※5:東北精粉株式会社「そばのかけつゆとつけつゆの塩分量の違い」 http://www.hokuto-kona.net/soba/zatsugaku/kake_tuke-tsuyu-enbun.html
- ※6:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年)」 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
- ※7:日本麺類業団体連合会 / 全国麺類生活衛生同業組合連合会「そば湯」 https://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/01/
- ※8:イースマート「【カロリー】「そば湯」の栄養バランス」 https://www.eatsmart.jp/do/caloriecheck/detail/param/foodCode/9999040000466