馬乳酒とは、主にモンゴルを代表とする、中央アジアエリアで飲まれている飲み物である。遊牧民に伝わる伝統的な飲み物として知られている。日本では目にする機会がほとんどないので、馬乳酒という言葉自体が初耳という人も少なくないだろう。馬乳酒とはどのようなものなのか、カルピスの起源になったというのは本当なのか、また日本でも飲めるのかということなど、知られざる飲み物馬乳酒について詳しく解説しよう。
1. モンゴルの馬乳酒とは
でははじめに、馬乳酒とは一体どのような飲み物なのか、じっくり解説していこう。馬乳酒はモンゴルでは一般的に飲まれているが、実は遊牧民の知恵が詰まった飲み物なのだ。
馬乳酒とは
馬乳酒とはその名前の通り、馬の生乳が原料になっている。日本では馬の生乳を飲む習慣はないので、まずここで驚く人も多いだろう。馬の生乳を乳酸菌と酵母で発酵させると、馬乳酒ができあがるのだ。馬乳酒はモンゴルでは「アイラグ」と呼ばれ、ロシアやキルギスなどでは「クミス」とも呼ばれる。土地によって同じ馬乳酒でも名称が変わることを覚えておこう。
酒と書いても酒じゃない?
馬乳酒は、名称に酒という字が付いていても、実は酒ではない。これは一体どういうことなのかというと、馬乳酒に含まれるアルコール度数はわずかに1度前後しかないのである。酒と記してあっても酒ではない飲み物と聞いてピンときた人もいるかもしれないが、これは日本の甘酒に似ている。一般的な甘酒のアルコール度数は馬乳酒と同じく、1度前後である。
実は豊富な栄養価
1年を通して移動を続ける遊牧民にとって、栄養補給は必須である。遊牧民は農耕を営まないので、必然的に食生活の中心は家畜の肉や乳になり、ビタミンが欠乏しやすいといえる。しかし馬乳酒には不足しがちなビタミンCが豊富に含まれているので、遊牧民のビタミン補給のためにも、古くから重宝されてきた飲み物なのである。
馬乳酒の味わい
馬乳酒の味わいは、強い酸味や苦みがあり、かすかな発酵臭があることが特徴だ。こう説明すると美味しくない印象を与えるかもしれないが、実際は飲むほどにクセになるような味わいである。ボトルに詰められた馬乳酒よりも、現地で飲む馬乳酒の方がフレッシュで美味しい。
2. 馬乳酒がカルピスの起源だった?
日本国民なら誰もが飲んだことがある飲み物と聞けば、真っ先にカルピスが頭に浮かぶという人も多いのではないだろうか。日本で初めてカルピスという名前で商品化されたのは1919年のこと。以来カルピスは日本国民から愛される乳酸菌飲料として、世代や性別を問わず飲まれている。では、そんなカルピスのルーツが実は馬乳酒だったという話は本当なのだろうか。この真偽を検証していこう。
馬乳酒とカルピスの関係
カルピス誕生の起源が馬乳酒だったという話は、実は事実である。カルピスの生みの親である三島海雲氏が、当時中国で雑貨商を営んでいた頃、北京からモンゴルへ移動した際に、現地で勧められて口にした馬乳酒の美味しさと健康効果にいたく感動したというエピソードがある。この馬乳酒との出会いこそが、カルピス誕生のきっかけなのだ。その後三島氏はモンゴルで馬乳酒の製法を学び、帰国後は馬乳酒をもとにした乳酸菌飲料の開発を開始、「美味しい」、「滋養になる」、「安心感がある」、「経済的である」の4箇条を本質に、現在の国民的飲料カルピスが誕生したのである。
3. 馬乳酒を蒸留した酒アルヒ
馬乳酒にはアルコールがほとんど含まれていないことは前述したが、その馬乳酒をさらに蒸留して作るスピリッツ、アルヒという酒もある。もとは馬乳酒を簡易的な蒸留器を用いて、蒸留して作られていた酒だが、常日頃から飲酒の習慣がない遊牧民にとって、アルヒは交流の場で酒盛りを開くための、いわばコミュニケーションツールとして作られていた酒なのだ。
現在商品化されているアルヒとは
では、現在流通しているアルヒもすべて馬乳酒から作られているのかというと、実は違う。現在は近代化もあり、遊牧民は牧草地を農地として定住し、農作物で生計を立てる人も多くなっている。このことから、商品化されているアルヒの主な原料には麦が使用されており、ウォッカのように無色透明のスピリッツであることからモンゴリアン・ウォッカとも呼ばれている。代表する銘柄は「アルヒ・ウォッカ」、「チンギス・ハーン」だ。それぞれアルコール度数は40度と高いことが特徴である。通販でも購入可能なので、興味があったら味わってみよう。
4. 日本で馬乳酒を購入するには
馬乳酒を日本で味わうことは、実は至難の業である。現在は世界各国の酒が簡単に通販などでも購入可能になったが、馬乳酒は鮮度の問題もあり、輸入が困難な飲み物なのだ。どうしても日本で馬乳酒を味わいたいという場合は、モンゴル料理店など、専門店に足を運ぶ以外手段はないといえるだろう。場所によっては、馬乳酒を扱っている店も存在する。
それでも馬乳酒を飲みたいという人に
馬乳酒とは違えど、同じ乳酸菌が多く含まれるヨーグルトがベースの酒があることをご存じだろうか。馬乳酒のような独特のクセがなく、心地よい酸味と甘みのある味わいの銘柄が多く、こちらであれば多くの種類が簡単に購入可能である。馬乳酒はいつか現地で味わうまでのお楽しみにとっておいて、ヨーグルトの酒で雰囲気を味わってみるのはいかがだろうか。
結論
馬乳酒とは、日本では聞き慣れない種類の飲み物とはいえ、実は日本とも深い関わりがある飲み物だったということを、わかってもらえただろう。いつか馬乳酒を飲む機会があれば、ぜひ本記事で紹介した馬乳酒のさまざまな歴史も思い浮かべながら、じっくりと味わってみてほしい。