風邪薬や胃腸薬といった医薬品のほか、スキンケアアイテムや化粧品などに「グリチルリチン酸ジカリウム」という成分が配合されていることがある。これは消炎作用(抗炎症作用)などを持つ成分で、現在ではさまざまなものに使われている。今回はグリチルリチン酸ジカリウムの基本、主な効果や用途などについて紹介する。
1. 「甘草」と「グリチルリチン酸ジカリウム」
グリチルリチン酸ジカリウム(グリチルリチン酸2k)は、自然界にある「甘草(かんぞう)」に含まれているグリチルリチン酸にカリウム塩を加えた成分である。まずは甘草について説明をしてから、グリチルリチン酸ジカリウムについて解説しよう。
甘草は生薬の王様とも呼ばれている
甘草はマメ科の多年草植物なのだが、4000年以上にわたり東アジア、中央アジア、ヨーロッパなどの地域で薬用植物として使われてきた歴史がある。そのことから、甘草のことを「生薬の王」と呼ぶこともある。
では、なぜ古くから使用されてきたとわかっているのだろうか。この理由は、紀元前1790~1750年ごろにバビロンを統治していたハンムラビ王が発布した「ハンムラビ法典」に、この甘草が薬として記述されているからだ。日本の場合は奈良の正倉院にも保管されており、少なくも西暦750年より前には使われていたのではないかと考えられている。
甘草の根っこからとれるグリチルリチン酸
甘草は古くから薬として使われてきたのだが、現在でも甘草の根っこに含まれている「グリチルリチン酸」はよく使われている。とくに、これにカリウム塩を加えて水溶性を高めた(=水に溶けやすくした)「グリチルリチン酸ジカリウム」と呼ばれており、優れた消炎作用と刺激の少なさが特徴で、スキンケア用品やシャンプーなどに使われている。
2. グリチルリチン酸ジカリウムに期待できる効果
グリチルリチン酸に、カリウムを加えたことで誕生したグリチルリチン酸ジカリウムには優れた消炎作用があるほか、抗アレルギー作用、バリア機能改善作用、刺激緩和作用などの効果も期待できる。詳しい説明をすると専門的な内容になってしまうため、それぞれどんな作用があるのかを簡単に説明しておこう。
消炎作用(抗炎症作用)
消炎作用(抗炎症作用)とはプロスタグランジンE2(PGE2)という炎症性物質の一種を抑制することで、炎症を和らげるというものだ。
たとえば、発熱のときには脳の中でPGE2が産生されて、これが脳内に拡散して「身体に熱を出せ」という信号を送る。そのため、グリチルリチン酸ジカリウムによってPGE2の合成を抑制することで、発熱を抑えることができるのだ。発熱だけでなく、痛みなどが起きる際もPGE2は産生されているのだが、同じようにPGE2を抑制することで痛みを緩和できる。
抗アレルギー作用
抗アレルギー作用とは、ヒアルロニダーゼの活性化を阻害する働きによって、かゆみなどの原因となるヒスタミンの放出を抑制することができるというものだ。皮膚の真皮には肌の潤いを保つヒアルロン酸があるのだが、これは「ヒアルロニダーゼ」という分解酵素などによって適正な量に保たれている。
しかし、皮膚にアレルギー物質などの刺激が加わると、ヒアルロニダーゼが活性化してしまいヒアルロン酸のバランスが崩れる。このバランスが崩れると皮膚の潤いが足りなくなり、痒みなどを誘発するヒスタミンが放出されてしまう。しかし、グリチルリチン酸ジカリウムにはヒアルロニダーゼを抑制する働きがあるため、アレルギーの発生を防いでくれるのだ。
バリア機能改善作用
皮膚のバリア機能は主に角質層が担っているのだが、グリチルリチン酸ジカリウムにはこの角質細胞を強化する働きがある。角質細胞の細胞膜の内側には、インボルクリンという物質があり、これはトランスグルタミナーゼ-1によってつながれている。つまりこれらは角質細胞にとって必要なものということだ。
グリチルリチン酸ジカリウムには、そんなインボルクリンとトランスグルタミナーゼ-1を産生する働きがあるので、バリア機能を強化することができるのだ。
刺激緩和作用
グリチルリチン酸ジカリウムには、化粧品の「ピリピリ」「チクチク」といった不快感を和らげる働きがあると報告されている。痛みやしびれなどを感じ取る神経に、何かしらの作用があると考えられているようだ。
3. 日常ではどんなものに使われている?
消炎作用をはじめ、さまざまな効果が期待できるグリチルリチン酸ジカリウムは現在、医薬品だけでなく医薬部外品や化粧品などにも使用されている。主にどのようなものに使われているのか、いくつか代表的なものを確認してみよう。
- 医薬品...風邪薬、胃腸薬、鼻炎薬、目薬など
- 医薬部外品...薬用スキンケア用品、育毛剤、歯磨き粉など
- 一般化粧品...スキンケア用品、ハンドケア・ボディケア用品、洗顔料など
結論
グリチルリチン酸ジカリウムにはさまざまな効果があり、医薬品や医薬部外品、化粧品の成分としてみる機会が多い。主な使われ方は消炎作用だが、ほかにも肌を守るために使われていることがある。基本的には安全な成分なので、有効成分の一覧でグリチルリチン酸ジカリウムを見ても特別不安になる必要はないことを知っておこう。