発熱や長引くせきといった症状が特徴で、子どもが感染することの多いマイコプラズマ肺炎の流行がさらに拡大しています。
10月20日までの1週間に全国の医療機関から報告された患者数は、1医療機関あたり2.01人と4週連続で過去最多を更新しました。
マイコプラズマ肺炎は子どもに多い細菌性の感染症で、飛まつや接触で広がり、感染すると発熱や全身のけん怠感、頭痛、せきといった症状が見られます。
中でもせきは1週間以上続くことがあるほか、一部の人は肺炎が重症化したり衰弱したりして入院するケースもあります。
国立感染症研究所のまとめによりますと、10月20日までの1週間に全国およそ500か所の医療機関から報告された患者の数は8週連続で増加し、1医療機関あたり2.01人と、1999年に現在の方法で統計をとり始めてから最も多くなりました。
過去最多を更新するのは4週連続です。
都道府県別【多い順】
▽青森県 4.83人
▽佐賀県 4.67人
▽愛知県 4.47人
▽京都府 4人
▽東京都 3.84人
▽大阪府 3.28人
以前の流行と別タイプの細菌9割以上
流行が続くマイコプラズマ肺炎について、川崎医科大学などのグループが患者から採取した原因となる細菌の遺伝子を調べたところ、新型コロナウイルスの拡大前に主流だったものと異なるタイプが9割以上を占めていることがわかりました。
原因となる細菌「肺炎マイコプラズマ」は「タイプ1」と「タイプ2」の2つの異なる型が確認されていますが、川崎医科大学の大石智洋教授らの研究グループがことし3月から9月まで全国7つの医療機関でマイコプラズマ肺炎と診断された患者86人のうち地域などに偏りがないように抽出した16人の細菌の遺伝子を調べたところ、9割以上が「タイプ1」だったということです。
研究グループによりますと、2005年から2015年にかけては「タイプ1」が主流でしたが、大きな流行となった2016年は「タイプ2」が主流となり、2018年と2019年には、8割以上が「タイプ2」となっていました。
新型コロナの拡大で患者がほとんど報告されなかった2023年までの4年間は調査ができませんでしたが、研究グループはこの間に主流の型が「タイプ1」に置き換わったとみています。
専門家「免疫もたない人多い 以前かかった人も再感染の可能性」
型の違いによる感染性や病原性の違いは、確認されていないということですが、大石教授は「以前流行したものとは異なる型が主流になり、免疫をもたない人が多いことが、今の大きな流行につながっていると考えている。以前かかったことのある人でも再び感染する可能性があるので、マスクなどの対策を徹底してほしい」と呼びかけています。
【Q&A】予防や治療など必要な対策は?
およそ8年ぶりの大流行となっている理由や必要な対策について、マイコプラズマ肺炎に詳しい川崎医科大学の大石智洋教授に聞きました。
Q. 患者数がこれほど増えているのはなぜか。
A. 流行している細菌の型が変わったことに加え、大きな流行が2016年以来久しぶりで、免疫のない人が大勢いることも理由の1つになっていると考えています。
マイコプラズマ肺炎は、おおむね4年ごとに流行することから「オリンピック肺炎」とも呼ばれてきました。このため、2016年の4年後の2020年に流行するのではないかと言われていましたが、新型コロナの影響で感染症への対策が取られたこともあり、流行しませんでした。今回はおよそ8年ぶりの流行となり、ピーク時の患者数も多くなると考えられます。
例年、秋から冬の始めごろまで流行するとされてきました。感染してから発症するまでの潜伏期間がおよそ2週間と長く、感染に気がついていない人も一定数いると考えられ、今後もしばらく流行は続くと思います。
Q. 発熱やせきなど、かぜと症状が似ていて見分けるのが難しいと感じる。どんなことに気をつけたらいいか。
A.子どもを中心に流行していますが、大人も感染する可能性があります。注意するポイントとしては、ふだんかぜをひいたときにはあまり出ない症状、例えば、あまり熱を出さない人が発熱したり、乾いたせきを繰り返したりするといった症状に気をつけてほしいと思います。特に、周囲でマイコプラズマ肺炎と診断された人がいる場合は症状があれば早めに医療機関を受診するようにしてください。潜伏期間が長いため、感染した人と接触した場合は症状が出ないか気をつけてほしいと思います。
Q. 感染しないためにはどんな対策が有効か。
A. 病気の原因は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌です。飛まつが主な感染経路となるので、マスクの着用は基本的な対策の1つです。症状のある人がマスクをするのが一番効果がありますが、現在のように流行している状況であれば、周りの人がマスクを着用することも予防につながります。もちろん、手洗いなどそのほかの基本的な感染対策も大切です。
Q. もし感染した場合、どんな治療が受けられるか。
A. 治療は、この細菌に効果のある抗菌薬を投与します。個人差はありますが、薬を飲めば通常は数日で熱が下がります。早めに治療できれば早く治りますし、人に感染させるリスクも減らすことができます。
ただ、これまでの薬が効きにくい耐性菌に感染しているケースも確認されています。私たちの研究室が全国調査したところ、第1選択として広く使われている薬に耐性がある菌が全体の55%あまりを占めていたという結果でした。耐性菌に感染すると、医療機関ではじめに処方された薬ではなかなか治らないこともあるので、もし2、3日飲み続けても熱が下がらないようなら、再度受診して別の薬を使うべきか医師に相談してください。