プライベートジェットの利用が急増している。11月7日付けで学術誌「Communications Earth & Environment」に発表された論文によると、プライベートジェットからの二酸化炭素(CO2)排出量は2019年から2023年までの間に46%も増えており、その最大の要因は超富裕層による利用だ。
この研究によると、2019年から2023年までのプライベートジェットでのフライトの約半数が自動車での移動も可能な500キロ未満のフライトで、なかには50キロ未満のフライトもあったという。
プライベートジェットを利用する人は世界人口のわずか約0.003%にすぎないが、そのフライトはエネルギーを大量に消費し、乗客1人あたりのCO2排出量は商用航空のフライトよりもはるかに多い。そのため、プライベートジェットの利用者、特にセレブリティーに対する批判が高まっている。
プライベートジェットの一部の機種では、CO2の排出量が、平均的な人の1年間の排出量をたった1時間で超えることもある。その結果、プライベートジェットを定期的に利用する人々は、世界の平均的な人と比べて1年間に約500倍ものCO2を排出したケースもあると研究者は言う。
この研究は、世界のプライベート航空業界によるCO2排出量を初めて明らかにした。そのほかにも、次のようなことが分かった。
トータルの排出量も急増
研究者は、約2万6000機のプライベートジェット機が2019年から2023年にかけて運航した約1870万回のフライトのトラッキング(追跡)データを分析し、飛行時間、航路、機種別の燃料消費量に基づいてCO2排出量を計算した。
その結果、2023年にはプライベート航空全体で約1560万トンのCO2が排出されたことが分かった。これは同年の商用航空全体のフライトによるCO2排出量の合計の約1.8%に相当する。プライベートジェットの1フライトあたりの排出量は平均約3.6トンだった。
「プライベート航空からの総排出量は、商用航空よりもはるかに少ないと言えます」と、英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の気候科学者であるリネット・ドレイ氏は電子メールで述べる。「しかし、乗客1人あたりの排出量はプライベート航空の方がはるかに多く、全体の排出量は商用航空よりも速いペースで増加しています」。なお、氏はこの研究には関与していない。
この研究では、フライト中の燃料の使用による直接のCO2排出量のみを評価したため、航空機が地上走行に費やす時間や、プライベートジェットを降りた利用者が最終目的地までヘリコプターなどの他の交通手段を利用した場合を考慮すると、プライベート航空の排出量は実際にはさらに多くなる可能性がある。
またドレイ氏は、フライトが環境に及ぼす悪影響はCO2の排出だけでなく、窒素酸化物(NOx)の排出のほかに、離着陸時の粒子状物質の排出や騒音公害もあると指摘する。
自動車でも行ける距離のフライトがあった
分析されたフライトの多くが、車でも移動できるような短い距離だった。論文の著者らは、プライベートジェットの所有者が利便性や時間の節約のために航空機の方を選んでいる可能性があると考えている。
全フライトの半数近い47.4%が500キロ未満のフライトだった。また18.9%のフライトが200キロ未満で、送迎に伴う乗客のいないフライトも多く含まれていた。さらに、50キロ未満の極端に短いフライトも4.7%あった。
排出量のピークは大規模イベント開催時
2023年に米国アリゾナ州で開催されたスーパーボウル(米プロフットボールNFLの決勝戦)や、フランスのカンヌ映画祭、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)、そして2022年にカタールで開催されたFIFAワールドカップといった大規模イベントは、プライベート航空による排出量のピークと関連していた。
調査対象となったイベントの中で最も多くのプライベートフライトがあったのは2022年のFIFAワールドカップで、1846回のフライトで1万4700トンのCO2を排出していた。気候変動対策のための会議であるCOP28では、291回のフライトで3800トンのCO2が排出された。
また、スペインのイビサ島やフランスのニースなどを目的地とするフライトには、夏季にピークを迎え、週末に集中する傾向があることも明らかになった。これは、レジャー旅行にプライベート航空が利用されていることを示している。
プライベートフライトの回数は増えている
先述の通り、プライベートジェットからのCO2の総排出量は過去数年間で増えており、2019年から2023年までの間に46%増加した。フライトの回数もこの間に34%増えた。
スウェーデン、リンネ大学の地理学者で論文著者のステファン・ゲスリンク氏は、この増加の一部は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)と関連している可能性があると述べている。
パンデミックの初期には商用航空が利用できなかったため、プライベート航空を利用できる人々はこれを代替手段とした可能性が高い。
ドレイ氏はまた、おそらく感染対策のため、近年は商用航空のビジネスクラスやファーストクラスではなくプライベートジェットを利用する傾向が見られると指摘する。
さらにゲスリンク氏は、パンデミックが超富裕層をますます裕福にしたと指摘する。氏は、少数の富裕層にさらに多くの資金が集中した結果、プライベート航空の利用のしやすさと関心が高まった可能性があると考えている。
今回はパンデミックによる後押しもあったが、基本的に、プライベート航空の成長は今後数十年にわたって続くと予測されている。
気候変動を抑えるには規制が必要
研究者たちは、プライベート航空業界に対する、もっと優れた規制が必要だと考えている。
プライベート航空機の多くは米国に拠点を置いている。米国の人口は世界全体の約4%だが、プライベート航空機の約68.7%が登録されていて、今回の研究で分析されたフライトのほとんどが米国国内での運航だった。
「平均的な人々よりもはるかに多くのCO2を排出している富裕層が率先して排出削減に乗り出さなければ、誰も排出量を減らそうとは思わなくなるでしょう」とゲスリンク氏は言う。
世界で最も裕福な人々が、気候変動を悪化させるCO2を最も多く排出している。国際非政府組織(NGO)オックスファムの2024年10月の報告によると、世界で最も裕福な億万長者50人の1年間のプライベートフライトは平均184回で、その1人あたりのCO2排出量は平均的な人の300年分に相当する。
「今回の研究の最も重要な意義は、富裕層がもたらしている被害に対して彼らに課金する根拠になり得ることでしょう」とゲスリンク氏は言う。「私たちは排出量に価格をつけることができるからです」
文=Olivia Ferrari/訳=三枝小夜子
写真の説明:2022年6月29日、米国アイダホ州ヘイリーのフリードマン記念空港を移動中のプライベートジェット。毎年7月になると、世界で最も影響力のある人々がサンバレー会議に出席するためにプライベートジェットでやってくるため、この小さな空港は危険な3Dテトリス状態になる。(Photograph by Ellen Hansen, The New York Times/ Redux)
外部リンク