「五月大歌舞伎」に出演する尾上菊五郎の取材会が東京都内で行われた。
本公演で、菊五郎は「仮名手本忠臣蔵」の6段目「与市兵衛内勘平腹切の場」にて、早野勘平を勤める。これまで繰り返し演じてきた勘平役を「難役中の難役」と表現する菊五郎。「とにかくやることが多い(笑)。あぐらをかいて切腹するので、おしろいを顔だけじゃなくて、お腹や脚の付け根まで塗らなきゃいけない。キセルや血のりの扱いも大変。血のりが浅葱の衣装に付くと取れないので、今ではそんなこともありませんが、昔は2・3枚衣装を用意してもらいましたね。またかつらの髪の毛が(血のりのついた)頬にくっつくと、今度はかつらに血のりが付いてしまって……本当に気が抜けなくて、頭の芯が痛くなるような役」とコメントする。
菊五郎は、勘平を演じる前、その妻であるおかる役を経験した。「勘平は難しいけどやりがいのある役。いつか(勘平を)やろうという思いで、おかるを演じながら、勘平の仕草をずっと見ていました」とほほ笑む。役の内面について「息を引き取る間際まで、姑のおかやに『どうかおかるには(自分が死んだことを)言わないでくださいね』と言うのですが、これはおかるに騒がれて、四十七士の企てがバレないようにするため。どこまでも敵討ちを優先する姿は『忠臣蔵』の“忠臣”たるゆえんかと」と話す。また、勘平を責めるおかやに対しては「申し訳なさよりも、やはり敵討ちに重きを置いたほうがやりやすい。なので、(おかやが)これ以上騒ぎ立てたら殺してしまおう、という気持ちで演じています。殺して取ったお金も、天より我に与えうる金!と、喜びを強調して演じたほうが、あとの流れに気持ちを持っていきやすいですね」と語った。
さらに「5代目、6代目(の菊五郎)が作った音羽屋の型は受け継いでいますが、自分なりの工夫を入れたり、自分の肉体に合わせたやり方も取り入れています。例えば、口伝には“声を張らずに”とありますが、お客さんに伝えるためには、ある程度は歯切れよく言わないといけない。また口伝では、腹を切ったときには“お腹の中に栗のイガが入っているように”とあるのですが……そんな痛さじゃないと思うんだけどね(笑)。昔の人の口伝って、なんだかおもしろいんですよね」とちゃめっ気たっぷりに話し、周囲の笑いを誘った。
「五月大歌舞伎」では、「土蜘」に孫の寺嶋眞秀、「春興鏡獅子」に長男の尾上菊之助と、菊之助の長男で菊五郎の孫の尾上丑之助が出演する。菊五郎は「胡蝶の精を演じる丑之助には、菊之助が稽古をつけています。眞秀も、今度うちに来て稽古をする予定。みんな喜んでやっています」と目を細めた。同じく「五月大歌舞伎」に出演予定で、現在療養中の中村吉右衛門については「元気に帰ってくるのを待つだけです」と沈痛な面持ちで述べた。
菊五郎は「5月恒例の團菊祭ができなくて残念ですが、みんなで力を合わせてこの興行を成功させたいですね」と決意を新たにした。「五月大歌舞伎」は5月3日から28日まで東京・歌舞伎座にて。なお同劇場では現在、「四月大歌舞伎」が上演中で、公演は4月28日まで。
「五月大歌舞伎」
2021年5月3日(月・祝)~28日(金)
東京都 歌舞伎座
第1部
一、三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場
作:河竹黙阿弥
出演
お嬢吉三:尾上右近
お坊吉三:中村隼人
夜鷹おとせ:中村莟玉
和尚吉三:坂東巳之助
ニ、新古演劇十種の内 土蜘
作:河竹黙阿弥
出演
叡山の僧智籌実は土蜘の精:尾上松緑
平井保昌:坂東亀蔵
渡辺源次綱:中村福之助
坂田公時:中村鷹之資
碓井貞光:尾上左近
ト部季武:市川弘太郎
太刀持音若:寺嶋眞秀
侍女胡蝶:坂東新悟
源頼光:市川猿之助
第2部
仮名手本忠臣蔵
浄瑠璃 道行旅路の花聟
出演
早野勘平:中村錦之助
鷺坂伴内:中村萬太郎
腰元おかる:中村梅枝
6段目 与市兵衛内勘平腹切の場
出演
早野勘平:尾上菊五郎
女房おかる:中村時蔵
千崎弥五郎:中村又五郎
判人源六:市村橘太郎
母おかや:中村東蔵
一文字屋お才:中村魁春
不破数右衛門:市川左團次
第3部
一、八陣守護城 湖水御座船
作:中村漁岸、佐川藤太
補綴:松貫四
出演
佐藤正清:中村吉右衛門
轟軍次:中村種之助
鞠川玄蕃:中村吉之丞
雛衣:中村雀右衛門
ニ、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子
作:福地桜痴
出演
小姓弥生 / 獅子の精:尾上菊之助
用人関口十太夫:坂東彦三郎
局吉野:中村米吉
胡蝶の精:坂東亀三郎
胡蝶の精:尾上丑之助
老女飛鳥井:市村萬次郎
家老渋井五左衛門:坂東楽善