DIR EN GREYのドラマーShinyaが、自身にとって初のソロプロジェクトを始動させた。クラシック音楽、クラシカルな要素の強いバンドやアーティストから影響を受けたというバックグラウンド、しばしば”存在そのものが天使”と形容されるパーソナリティとリンクするメロディメーカーとして才能を開花させたShinya、未だその存在は謎に包まれているものの”天才”と称されるMoa、この2人から生まれた幻想的で美麗かつキャッチーなメロディが際立つSERAPHの楽曲は、いわばヴィジュアル系クラシカルの金字塔といっても過言ではない。ロックリスナーのみならず幅広い分野の人々に長く愛聴されていくだろう。ふだんは口数の多くないShinyaが、長期的なソロプロジェクトとして考えているというSERAPHへの熱い思い、楽曲制作のこだわりなどを存分に語ってくれた。
ドラムとピアノを入れるっていうことが大前提にあって、そこにシンガーを入れるという形でやろうと思ってました。
- Shinyaさんの初のソロプロジェクト、SERAPHの作品がついにリリースされますね。いつごろからソロ活動をやりたいと思っていたのですか?
ソロをやりたいと思っていたのは、もう十数年前からですね。やりたいことはたくさんあったんですけど。
-いろいろな構想があるなかで、初めて形になったのがSERAPHだったのですね。
SERAPHが一番動きやすかったんですよね。いや…動きやすくはなかったですけど(笑)。
-現時点では、メンバーにShinyaさん(Drums)、そしてMoaさん(Piano&Vocal)のお名前が公表されています。Moaさんとは、どのように知り合って、メンバーとして迎えることになったのでしょうか?
けっこう前から知ってたんですけど、わりとすごい仕事をしている人なんですね。SERAPHを始めるにあたっては、ドラムとピアノを入れるっていうことが大前提にあって、そこにシンガーを入れるという形でやろうと思ってて。それで、ピアニストとしてMoaさんに声をかけたんです。
-Moaさんはピアニストだけじゃない仕事もしていらっしゃるんですか?
そうですね。いろいろなお仕事をやってます。
-なぜピアノとドラムを前提とした編成にしようと思ったのですか?
元を言うと、MALICE MIZERがライヴでやっていた曲で、GacktさんとKamiさんが一緒に演奏していたドラムとピアノの協奏曲、「Regret」と「波紋」ですね。
-今もなお語り継がれる大名曲ですよね。
いやもう、本当に衝撃を受けました。こういう曲に、歌を入れたかったんですよ。
-「Regret」と「波紋」の、どういうところに衝撃を受けたのか、もう少し詳しく教えてください。
GacktさんとKamiさんのお2人が、せめぎあっているような、戦いながらも合わせてっていうところですかね。
-ShinyaさんはMALICE MIZERが好きで、尊敬するドラマーにもKamiさんを挙げていらっしゃいますが、具体的にどういう部分に魅力を感じたんでしょうか?
ドラムで”歌ってる”ところですかね。Kamiさんくらいだと思います。あんなにドラムで歌えるという人は。
-Kamiさんとは実際にお会いしたこともあったそうですね。
はい。お会いした時の印象もすごく良くて。当時、MALICE MIZERはヴィジュアル系のトップで、僕はまだDIR EN GREYになる前のバンドだったんですけど、たまたま打ち上げ場所が一緒になったことがあって。それで、ずっとマリスが好きで聴いていたので、Kamiさんに”あのフレーズって、どうなってるんですか?”とか色々と聞いたんですけど…もう、すごい、ほんとうに、ただのペーペーの僕に、”ああ、あれはね、こうなってるんだよ!”とか、ものすごく熱く語ってくれて。ほんとうに感動しました。
-MALICE MIZERは発想という部分においても一線を画していましたし、ピアノとドラムの協奏曲を実現しているバンドも未だにいなかった。Shinyaさんとしては、いわば幻想的なヴィジュアル系クラシカルの始祖ともいえるMALICE MIZERの系譜を継承していこうという気持ちもあったのでしょうか?
はい、そういう気持ちもありましたね。あとは、YOSHIKIさんやSUGIZOさんなどクラシックを通ったアーティストからの影響が大きかったので。
-交友関係が広いShinyaさんですが、今回の2曲を知り合いのアーティストに聴いてもらったりもしたのでしょうか?
そうですね。HYDEさんとか、SUGIZOさんにも聴いてもらいました。いい感じだねって言ってくれました。Manaさんからは”透明感のある感じで良いね…”というようなお褒めの言葉をいただきましたよ。
シンガーを1年くらい探して、何人かオーディションもしたんですけど、Moaさんを超える人がいなかったんですよ
-Moaさんは元々シンガーとしても活動していたのですか?
いや、そうではなかったんですよ。
-どのような経緯でMoaさんが歌うことになったのでしょうか?
基本的に曲作りは、まずは僕が大元の曲を作って、それをMoaさんに投げるんですけど、Moaさんて天才なんですよ。オーケストレーションも考えてもらってますし。それで、最初は僕が作った大元のメロディに対して仮歌を入れてもらってたんです。それを元にして、新しいシンガーを探してたんですね。それで1年くらい探して、何人かオーディションもしたんですけど、Moaさんを超える人がいなかったんですよ。
-ShinyaさんのイメージするSERAPHのシンガーは、Moaさん以外に見つからなかったということですね。
そうですね、結局は。Moaさんも、ホントはピアノに専念したくて、歌うのは気が進まないって言ってたんですけど、1年探してもいないならっていうことで、ピアノヴォーカルをやっていただくということになりました。
-ちなみに、オーディションはどのようなジャンルの人が受けたんですか?クラシック畑の人もいました?
あらゆるジャンルの人ですね。クラシックの人はいなかったですけど、ロックとかR&Bとかゴスペルの人がいましたね。
-歌詞はすべて英詞ですし。ハードルも高かったでしょうね。
はい、SERAPHのイメージに合う、英詞で歌える人を探してみたけど、日本にあんまりいなかったっていう(笑)。
-SERAPHの歌というのは、とても難しいと思うんですよね。クラシカルな曲で、基本的にすべてファルセットで、でもクラシックの歌曲やオペラ風でもないし、ミュージカル風ということでもないですし。
そうですね。
SERAPHのコンセプト
-幻想的な歌詞も、とても印象的ですね。
SERAPHのコンセプトはもともと”天界から見た人間に対して”というのがありまして、そのテーマから歌詞を膨らませて書いていきました。SERAPHという名前も、天使の階級の最高位なので。
-”天界から見た”という世界観に惹かれた理由は?
単純に、そういう世界が好きなんです。人間ぽいものより、幻想的な世界が。
-Moaさんと会う前から、SERAPHという名前にしようと決めたんですか?
そうなんです。もう高校生の頃から、自分がソロで何かをやるときは、SERAPHという名前にしようと。”SERAPH”っていう言葉そのものがそこまで有名ではないじゃないですか。構想を十数年あたためてきたんですけど、その間に”SERAPH”っていう言葉が有名にならないように願ってました。僕が使う前にどこかで使われて有名にならないように(笑)。
-思いが深い(笑)。ご自分でもこの言葉を発しないようにしようとか。
そうですね(笑)。でも、ちょうど1~2年前に、『終わりのセラフ』っていうアニメが結構有名になっちゃったんですけど(笑)。
やっと”自分のメロディ”が世に出せたな、と思います。
-一番最初に出来たのはどの曲ですか?
「Génesi」ですね。ギリシャ語で”創世記”という意味で。”GENESIS”と同じですね。
-ピアニストがMoaさんに決まってから作り始めたんですか?
はい、Moaさんに決まってから、”これぞSERAPH”というような代表曲を最初に作ろうと。ふだんから曲はたくさん作っているのでストックはたくさんあるんでけど、全体像が見えるまで、これぞ!っていうものになるまでは、2ヵ月くらいかかりました。
-DIR EN GREYのツアーがあってご多忙だったと思いますが、合間の中で作り上げていったのですか?
そうですね。合間を見て。
-作曲の工程は、まずコード感とリズムがあってという感じでしょうか?
一番はメロディなんですよ。DIR EN GREYではメロディを作らないので、作曲のやり方が違ってくるんですよね。
-曲が浮かぶ順番というのは?
メロディ、コード、モチーフとなる別のメロディ、ドラムという順番ですね。ドラムは頭の中で鳴ってるので、自然に出来ていくんですけど。
-ロックとは順番が違いますよね。
そうですね。ロックだと先にギターがあって、となるので。
-とても多重に音が絡んでいますし、ストリングスも綺麗で、幻想的で神秘的でとても美しい曲ですね。単純な構成ではないですが複雑というわけでもなく、5分間のポップソングとしても完成されているところが、さすがだなと思いました。口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディも印象的でした。
そうですね、普通の一般的なポップスみたいな感じではなくて、変わった感じっていうのは意識しました。やっと”自分のメロディ”が世に出せたな、と思います。
-DIR EN GREYのShinyaさんの曲もメロディ重視ではないでしょうか?
ああ、DIR EN GREYの場合はアレンジにアレンジが加わって、結局原曲が残ってないっていう状態になっちゃうんですよね(笑)。
-「Destino」は、壮大なオープニングから始まり、儚げで美しい曲ですね。
これはMoaさんの曲なんですけど、前からストックとしてあった曲だったみたいです。もともとは四つ打ちのイメージだったらしいんですけど、それをこんな感じのドラムにしたんですよね。
-歌詞のクレジットはどちらもMoaさんですが、大元のイメージはShinyaさんの中にあったのでしょうか?
「Génesi」は違いますね。Moaさんが曲のイメージに合わせて作ってくれました。そもそも歌詞はシンガーに考えてもらおうと思ってたんですけど、結局はMoaさんが歌うことになり。それで歌詞を書いてもらったら、こんなにも自分とフィーリングが合う、好みに合う歌詞が書けるんだなぁって感動しました。
-歌はキーが高くてほとんどファルセットですよね。これがチェストボイス(地声)だったら雰囲気がぜんぜん違っていたでしょうね。
そうですね。キーはいろいろ変えてみて、どれがいちばんいいかなって考えたんですけど、わりと高めのキーがグっときたのでそうしました。
-レコーディングはいつ頃から始めたんですか?
去年の末くらいですね。DIR EN GREYの年末休みの時期で、1日で2曲録りました。デモの段階では10曲くらいあって、ドラム以外は完パケっていう状態だったんです。それで、「Génesi」と「Destino」が『霊眼探偵カルテット』で使われるということが決定して、それからドラムを録ったんです。と、同時に、ヴァイオリンも生音を足して、フルートも録って。
-なるほど。SERAPHのレコーディングや曲作りの経験が、DIR EN GREYの活動に還元されたように感じたりもしたのでしょうか?
ああ、そうですね。ソロは自分でいろいろやらないとだめなので、実際にやってみてから、DIR EN GREYはいろいろな人に助けられてやっていたんだなぁと、改めて実感したところはあります。
映画『霊眼探偵カルテット』の音楽を担当
-映画『霊眼探偵カルテット』では、「Génesi」が主題歌、「Destino」がオープニングテーマになっていますね。
そうですね。劇中の曲も作っています。シーンごとにテーマが決まってて、現場検証の場面とか犯人がわかった時の場面とか。
-映像からインスピレーションを受けて曲を作ったということですよね?
そうですね。尺にあわせて。
-どのシーンの音楽に注目してほしいと思いますか?
ラストの犯人がわかるシーンと、”リップを塗る”っていうシーンがあるんですけど、そこですかね。
-「音楽室で惨殺死体が発見される」という、音楽好きからしても、おもしろそうな内容のようですね。
そうですね。バンドの話なので。
-『霊眼探偵カルテット』のサウンドトラックを作る予定はあるのでしょうか?
いや、それは考えてないです。
-では、音楽を聴くには映画を観にいくしかないということですね。
そうですね。
曲によってテーマの国が違うんですよ。「Génesi」はギリシャ、「Destino」はイタリア
-SERAPHの情報解禁とともに公開された、Shinyaさんの上半身ヌードのアー写も衝撃的だったのですが、とても綺麗ですね。ヨーロッパの絵画のようなイメージがあったのですか?
いや、というよりも、”生まれました”という感じで。それが「Génesi」に繋がっていくイメージなんですよ。
-なるほど。トレイラー映像を観させていただいたのですが、MVは出来上がってるのですか?
はい、完成してます。リリックビデオになってますね。
-森の中での撮影はいかがでしたか?
撮影は…めっちゃ寒かったです。裸足で山の中を歩いたので。僕、足ツボが弱くて、ちょっとしたイボイボでもめっちゃ痛いんですよ。それに耐えて、苦悩の表情を出すという(笑)。
-(笑)。ちなみにここは、どこの森なんですか?
と、ある森です。監督にはアイルランドまで行ってもらってるんですけど。
-このビデオの監督さんは?
二階健さんという方です。昔から好きな監督さんで、SUGIZOさんがサウンドトラックを手がけた『Soundtrack』とか、『下弦の月 ラスト・クォーター』とか、HYDEさんのソロ作品とか、HALLOWEEN JUNKIE ORCHESTRAのPVとかも手がけていて。二階さんと一緒に映像を作るのが夢だったので、すごく嬉しかったです。
-完成されたMVを観るのが楽しみですね!リリックビデオには和訳も付いているのでしょうか?
そうですね。和訳も出てきます。
-なるほど。音楽性、幻想的な世界観、ヴィジュアル。SERAPHの作品はまるごと映像作品にしてもよさそうですね。
個人的には、すごく作りたいですね。曲によってテーマの国が違うんですよ。「Génesi」はギリシャ、「Destino」はイタリアっていう。
-各国で撮影できたら素敵でしょうね…。さて、「Génesi」は7月5日に世界111か国他、iTunesなどで配信が開始されていますが、8月18日にはデビューシングルCD&DVD『Génesi』がリリースされるそうですね。どんな内容になっているのでしょうか?
CDにはドラム抜きのオーケストラヴァージョンとか、インストヴァージョンも入ってます。聞き流すような感じで聴いてもらえてもいいのかな、という。
-ドラマーなのにドラムを抜くというのも新しいですね(笑)。
(笑)。リズムが入ってるとノっちゃうじゃないですか。だから、自分もサラっと聴きたいんですよ。あと、メロディ抜きっていうのもあって。その場合は、メロディがない状態での楽器の旋律がどうなっているのかっていうところを聴いてほしくて。決してカラオケで歌ってほしいとかではないですね。
-ここまで本格的なクラシカル作品は界隈のシーンにあまりないですし、視点を変えたおもしろさも伝えたかったということですね。
はい、そうですね。
-特典のスペシャルクリップはどんな内容になっているのでしょうか?
リリックビデオのメイキング映像ですね。あとは、レコーディング風景とか、映画の舞台挨拶とかもちょっとずつ入ってます。
-フィジカルでのリリースは、通販のみなんですよね?
はい、超限定です。Shinya Channelの会員になってから申し込んでいただければ、確実に買えるようになってます。この時代、CDってコアファンしか買わないじゃないですか。なので、コアファン向けに作りました(笑)。
-Shinyaさんがより深く聴いてほしいものは、CDでしか聴けないということですね。Shinya Channelはブログの内容もとってもおもしろいですし、ぜひこの機会に入会してほしいですね。
フルオーケストラで、会場もライヴハウスとかではなく、クラシックのコンサートホールとかでやりたいです。教会とかでもやりたいんですけど…
-さきほどドラム以外10曲くらい完パケしているとおっしゃっていましたが、『Génesi』の後のリリース予定はありますか?
いや、今のところ、闇雲に出すのはやめておこうかなと思ってます。
-歳を重ねてくると、だんだんラウドな音が耳に厳しくなってくるじゃないですか。SERAPHを始動するにあたって、クラシカルな音楽なら一生聴けるから、というような意識もあったのでしょうか?Shinyaさんの長期的なプロジェクトだからこそ慎重にというか。
ああ、それはずっと思ってますし、そのとおりですね。
-音楽的なバックグラウンドについてもう少し掘り下げていきたいのですが、Shinyaさんはクラシック音楽も好きなんですよね。特に好きな作曲家は?
いちばんは、ショパンですね。
-ドビュッシーはいかがでしょう?
ドビュッシーは、Gacktさんが弾いてらっしゃったので、それで好きになりました。
-「ピアノのために」の「プレリュード」を引用していましたよね。クラシックのコンサートに行ったりもするんですか?
あんまり行ってないんですよ。YOSHIKI CLASSICALくらいですね。
-素晴らしかったですよね。コンサートを見て、どう思いましたか?
ああ、SERAPHでライヴをやるなら、ああいう感じでやりたいなと思いました。
-なるほど、オーケストラがいてという。SERAPHのライヴの理想形はどんなイメージですか?
もう、フルオーケストラで。会場もライヴハウスとかではなく、クラシックのコンサートホールとかでやりたいです。教会とかでもやりたいんですけど…まあ、無理でしょうね。
-そんな、無理ってことはないのでは(笑)。
フルオーケストラだと、いくらかかんねん?て話じゃないですか(笑)。
-うーん、音大のオケに協力してもらうとかだったら少し見えるのかなぁとも思いますが…。
なので、最低限4人のカルテットではやりたいと思います。そもそも、グランドピアノと僕のフルセットのドラムなので、それだけでもライヴをやるのは大変なんですよ(笑)。だから今のところ考えてはないんですけどね。
-ドラムセットをSERAPH仕様に変えるということは考えてないんですか?
はい。ドラムは基本的に自分のフルセットでやるというのがこだわりなので。
-SERAPHの音楽をどういう人に聴いてほしいと思いますか?ヴィジュアル系だけに響く音楽ではないですし、幅広い人に聴かれるべき作品だなと思います。
そうですね、バンド系じゃない人にも聴いてほしいし、映画の主演の人たちとかもジャンルが違うじゃないですか。そういう感じで、ジャンルの違うところでもやりたいです。まあ、世界に向けて飛び立っていきたいなと。自分が昔から描いていたものがやっと形になったので、それだけでじゅうぶんですけど、人々に訴えかけるメッセージ性の強い歌詞なのでより沢山の人に届いてほしいですね。
Text&Interview Kaoru Sugiura