作家・水野敬也が山本美月とデート!「彼女にはアーガイルソックスがウケる!? の巻」後編
『夢をかなえるゾウ』シリーズ売上300万部『人生はニャンとかなる!』シリーズ売上200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本最高峰の美女たちに、水野のお洒落理論は通用するのか⁉
>>>「作家・水野敬也が山本美月とデート!『彼女にはアーガイルソックスがウケる!? の巻』前編」の続きです。
今月のお相手・山本美月
「彼女にはアーガイルソックスが
ウケる!? の巻」
今日のデート、なに食べます?
わたしはお肉がいいなぁ……。
山本美月さん(女優)
…雑誌CanCamの専属モデルをはじめ、現在はいくつもの雑誌の表紙を務めつつ女優としても活躍。2012年の映画『桐島、部活やめるってよ』でスクリーンデビューを果たし、ドラマなど数多くの話題作にも出演。来年春公開の映画『去年の冬、きみと別れ』ではヒロイン松田百合子役を演じる。
黒い色のドレスに身を包んだ山本美月が部屋に入ってきた瞬間、ガクガクブルブルの顔文字にそのまま使用できるくらい震え始めた私がいました。
めちゃくちゃ綺麗な人なんですよ。いや映像で見ても綺麗ですが、実物はもう、引くくらい綺麗なんですよね。圧倒的に整ったスタイルの体にすべての男性を魅了するであろう甘い、小さな顔が乗っていて、こんな人が実在する世界なら、ペガサスもツチノコもいるよ! と力説したくなるほどでした。
(こ、こんな美女が本当にオタクなのだろうか――)
私は猛烈に自信を失うとともに、そういえば、手塚治虫先生は自分の大きな鼻がコンプレックスだったことを思い出しました。手塚先生は、大きすぎる鼻を気にしていたフランスの詩人であり戦士『シラノ・ド・ベルジュラック』を漫画化したこともあり、私も、『シラノ・ド・ベルジュラック』は大好きで、恋敵のイケメンのクリスチャンが愛を告白するためにシラノが台詞を考えるシーンは感動して泣きすぎてフローリングの床に水たまりができたほどでした。
こうして、山本美月の美貌にひるんだ勢いで、手塚先生にまつわる「卑屈になるエピソード」を思い出してしまった私ですが、すかさず携帯電話を取り出しメモ帳を開きました。
「外見から男の人を好きになることはほとんどなくて、一目惚れってまずないので、友達から恋に進展するのが理想です(メンズノンノ2014年3月号より)」
ドレス6万8000円 (ヤストシ エズミ)●お問い合わせ先/リ デザイン TEL 03・6447・1264 ピアス24万円、ブレスレット53万円、リング27万5000円 (すべてM/G タサキ) ●お問い合わせ先/タサキ TEL 0120・111・446 バッグ6万3000円(ロンシャン) ●お問い合わせ先/ロンシャン・ジャパン TEL 0120・150・116 シューズ11万5000円 (ジミー チュウ) ●お問い合わせ先/ジミー チュウ TEL 03・5413・1200
――そうなのです。山本美月は男の外見を気にしないタイプであり、彼女を魅了するには何よりも内面が大事なのです。そして内面がオタクである私たちは間違いなく気が合うことになるはずなのです。
(大丈夫だ。いつも通りの俺を出せば問題ないんだ!)
そう自分に言い聞かせながら席に着いた私は、距離にして50センチくらいの近距離に座った山本美月に向かって第一声を口にしました。
「山本さんは学生のとき漫画を描かれてたんですよね」
すると山本美月は目を輝かせて言いました。
「そうなんです。私、ファンタジーが大好きで……!」
そして彼女は描いていた漫画について、さらには自分の絵に関するこだわりについて語り始めました。そして彼女の話を聞きながら(いい滑り出しだ)心の中でほくそ笑みました。今回、服装だけではなく会話についてもかなりシミュレーションしてきたのですが、もっとも重要なポイントは、「自分のフィールドに引き込む」ことだと考えていました。私は漫画は描けませんが漫画原案を担当したこともありますし、モノづくりという枠組みの中で会話を展開すれば、水野のインテリジェンスが漏れ出ざるを得ないのです。
そしてこの作戦はばっちりハマり、彼女の描いた漫画の話、そして私の仕事の話など会話は盛り上がりを見せ始めました。
(この流れは……イケる!)
そう確信した私は、さらに次の質問を彼女に投げかけました。(次ページへつづく)
今回こそ、イケる!
デートの準備は万端!
「山本さんは日本のアニメが大好きだそうですが、ピクサーやディズニーのアニメは観ますか?」
――私は、ピクサーとディズニーの全クリエイティブのトップであるジョン・ラセターを敬愛していまして、ディズニーとピクサーのアニメは、特典映像も含めすべて繰り返し観ているのです。日本のアニメに関しては彼女の方が詳しいと踏んだ私は、あえてこちらのフィールドに持ってくることで自分のペースで会話が進められると考えたのでした。
しかし、私の質問に対して山本美月は、「普通に観て泣いたりもするんですけど……」と前置きしてからこう言いました。
「『塔の上のラプンツェル』の主人公には少し共感できなかったです。あの魔女はラプンツェルを閉じ込めはしましたが、育ての親なのに最後はひどい仕打ちをしちゃいますよね……」
その言葉を聞いた私は反射的に、「いや、ラプンツェルの魅力はそこではなくて……」と反論し始めていました。というのも『塔の上のラプンツェル』は、ディズニーがピクサーを買収し、ジョン・ラセターがディズニーとピクサー両方のクリエイティブのトップになってから初めて手がけた王道ミュージカルであり、私は劇場で3回観た、最も思い入れの強いアニメだったからです。
そのことを山本美月に語ったところ、「そういう見方もあるかもしれませんが、やっぱり私はあの主人公には共感できなかったです」と譲らないものですから、ジョン・ラセターの一番弟子(非公認)の私も一歩も引くわけにはいかず、どんどん雰囲気は険悪になっていきました。
そこで私は空気を変えるべく、日本のアニメの話題を振ることにしました。
「『魔法少女まどか☆マギカ』は観ました?」
すると山本美月は笑顔になり、「大好きです!」と答えたので(これで空気が良くなりそうだ)と一安心したのですが、彼女は続けてこう言ったのです。
「劇団イヌカレーさんの魔女のコラージュ作画、本当に素晴らしいですよね!!!」
え? そこ⁉ いや、確かに、『魔法少女まどか☆マギカ』の魔女との戦闘シーンのビジュアルは実験的で素晴らしいですよ。でも、あの作品の本当の素晴らしさはコンセプトでしょう⁉ アンパンマンを作ったやなせたかし先生が、「これまでのヒーローは悪を倒すためにビルや街を破壊している。しかし本当のヒーローは何よりもまず人を助けるはずだ」というコンセプトのもと「困っている人のために自分の体を差し出す」という新たなヒーローを描いたように、過去、数多くの「主人公が魔法が使えるようになる」物語がある中で、「魔法を手に入れるための代償」を徹底的に描くことで新しいタイプのヒロインを生み出したからこそ『魔法少女まどか☆マギカ』は素晴らしいんでしょうが⁉ その辺どう思ってんだ? 山本さんよぉ!
……いや、これが漫画やアニメ以外の分野であれば、私も相手に話を合わせることができるんです。ただ、この分野に関しては思い入れが強すぎるんですよね。そして私同様、山本美月も一切妥協することなくガンガンに自分の意見をぶつけてきますので(マジでこの人、漫画とアニメに超詳しいんですよ)、結局のところ、まったく話がかみ合わないまま時間だけがすぎていきました。
(もう、こうなったら一か八かこれに賭けるしかねぇ!)
私は意を決して、机の下に隠しておいたスケッチブックを取り出しました。
――これは山本美月について調査していたとき、「これをやったら間違いなくウケる!」と確信を持って作った、私の鉄板のプレゼン資料だったのですが、すでにこの時にはどんな結果になるのかまったく予想がつかず「逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ……」と碇シンジばりに自分を奮い立たせスケッチブックをめくり始めたのでした。
(以下、スケッチブックの内容)
山本美月さんが好きなアニメ(漫画)のキャラクターと言えば……
↓
『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリック
『ディー・グレイマン』の神田ユウ
『ハンター×ハンター』のクラピカの3人ですが……
↓
このキャラクターには共通点があります。それは……
↓
命をすり減らして敵と戦っている
(たとえば、ハンター×ハンターのクラピカは、緋の目の力を使う「エンペラータイム」により具現化系以外の念能力が上がるが、1分につき1時間寿命が短くなる)
↓
そして水野もまた、
【命をすり減らして戦っている系男子】
↓
水野の命すり減らしポイントその1
【一日中働いている】
水野の命すり減らしポイントその2
【いつもビビりながら生きてる】
水野の命すり減らしポイントその3
【痔である】
↓
というわけで、エドワード・エルリック=神田ユウ=クラピカ=水野敬也
↓
「山本美月、お前の人生半分くれ!」
(これは『鋼の錬金術師』のエドワードが最終巻でプロポーズするときの台詞)
↓
「俺の印税全部あげるから!」
――さて。(次ページへつづく)
――さて。
このプレゼンに対して彼女は、途中は少し笑ってくれたものの、最後のエドの台詞のところでは、「この台詞はネタにしてほしくなかったなぁ……」と大オチの「俺の印税全部あげるから!」にカブるかたちでつぶやいていました。
彼女はいろいろなインタビューで、「理想の結婚相手は『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリック」と答えており、私のプレゼンは彼女の理想を完全に冒とくした形になっていたようでした。
というわけで、今回、私のオタクとしての悪い側面が前面に押し出されたわけですが、会食も終わろうとしていたとき、あることに気づいたのです。それは――あまりに会話にのめり込みすぎていて失念していたのですが――今日の自分の服装について聞いていなかったのです。アニメに関してあれだけコンセプトが大事だって言ったのに、この連載のコンセプトを完全に忘れてました。
そこで今日のコーディネイトについて山本美月に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。
「清潔感があって素敵だと思います。あと、靴下も可愛いですよね」
な、なんと、彼女は、ちゃんと靴下にこだわったコーディネイトを見てくれていたのです!
こうして最後の最後で良い報告を聞くことができ、(も、もしかしたらまだチャンスが残っているかもしれない……!)と、帰ろうとして椅子から立ち上がった山本美月にたずねました。
「ちなみに山本さん、手塚治虫は好きですか?」すると彼女はこう答えました。
「ほぼ、読んだことないですね」
――その瞬間、ストレスで私の頭髪が大量に抜け落ちる感覚があり、抜け毛を隠す意味でも今日のコーディネイトにベレー帽は必要だったんじゃないか、と思いました。
今回のデートのお相手、山本美月さんが敏腕ハッカー役で出演するフジテレビ系木曜ドラマ『刑事ゆがみ』。夜10:00から絶賛放送中。
◇今回2人がデートしたのはこちら!
70分で1周する展望レストラン
なら彼女とのトークも弾む
東京オリンピックが開催された1964年から老舗ホテルとしてたたずむホテルニューオータニ。17階の「ビュー&ダイニング ザ スカイ」は海外のラグジュアリースタイル誌に選出されるほど。大人のためのビュッフェダイニングをコンセプトに360度の景色を楽しめ、中心部のキッチンには和洋中の絶品料理が並ぶ。
《SHOP INFO》
住所/東京都千代田区紀尾井町4-1
TEL/03・3238・0028
営業時間/11:30~15:00、17:30~21:30
(※繁忙期2部制)
sky BAR17:00~23:00
定休日/不定
Photograph / Jan Buus(whitestout)
Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno],Shohei Kashima(W)[Mizuki Yamamoto]
Hair &Make-up / Ichiki Kita(Permanent)[Mizuki Yamamoto]
Text / Keiya Mizuno
Edit / Yasuhiro Sato
Cooperation / Hotel New Otani