会社の経費で世界中へと旅行ができ、各国で最高のお料理を楽しむことができる…そう聞くと、この世で“最高の仕事”の1つだと思いませんか。その答えは、「イエス」であり「ノー」でもあり…そんなエキサイティングな生活を送っている方々が、そう、“ミシュランガイド調査員”なのです。
レストラン批評に関するエリート集団ともいえる彼らの仕事は、レストランやシェフを格付けし、特に優れた店には星を与えるという必殺技をもっっています。
「Michelin Red Guide 2018 Great Britain & Ireland: Restaurants & Hotels(ミシュランガイド イギリスおよびアイルランド)」2018年版が、2017年10月5日(木)に発売されました。今年の目玉は、3つ星を獲得したロンドンの日本料理レストラン『あら輝』(わずか9席で、一人当たり300ポンドという価格設定)、そして初めてミシュランの星を獲得したブリストルのタパスレストラン『パコ タパス』などになります。
「エスクァイア」編集部では、そんなミシュランに20年前に入社し、現在は同ガイドの編集者を務めるレベッカ・バー氏に対しインタビューを決行。この権威ある食の案内書の調査員の仕事について、様々な話をいただきました! そして、ごちそうさまでした!!
仕事は当然フルタイムです
調査員は世界中を渡り歩き、ミシュランはそんな彼らにお金を支払します。私たちは彼らを日本、ニューヨーク、ミラノに送り出し、世界中で通用する格付けの基準を学んでもらいます。これはフルタイムの仕事で、調査員はひたすら旅行と食事を続けるのです。彼らは仕事漬けになる必要があり、仕事自体がライフスタイルになります。調査員の仕事について問い合わせを受けることも多いですが、この仕事がどれほど忙しいかを理解していない彼らは、すぐに心変わりしてしまいますね。
ご存じのとおり、調査員であることは伏せている
ミシュランガイドのスタッフは完全に独立して運営されており、調査の際の食事代も支払っています。私たちは通常の顧客と同じ体験を求めているんです。もちろん私たちは、調査員がレストラン側にバレないように、彼らをしばしば国内でローテーションさせたり、予約の際には異なる名前や電話番号を使ったりなどの手を打っています。
多いときには、週に10回は外食
毎日、少なくとも一人のミシュランガイド調査員が1つのレストランを訪れています。私自身、世界中でも最高のレストランの数々で食事をしたことがありますが、家に帰って食べるビーンズ・オン・トースト(英国の定番の朝食)やスクランブルエッグも大好きです。世界でも“最高の仕事”の1つと言っていいでしょうが、こういったグルメの世界からひっそりと一息つく時間も必要なんです。
もちろん、調査員は食やサービスのエキスパート
多くの調査員は、ホテル学校を卒業しています。彼らは食やサービスの基礎知識を学び、当然トレーニングも受けています。ホテル業界での長年の経験もあるのです。ほとんどの調査員が料理人でもあります。飲食ビジネスについて、広くも深くも理解しているのです。たとえば訪れた飲食店で、少し気の抜けた対応があったとしても、サービスのマンネリ化を防ぐためのオフの日と理解することもあるでしょう。私たちはレストランを知り尽くしていると言ってもいいのです。
難しくはありません。掲載される方法は至ってシンプル
ミシュランガイドに載るのは、純粋に良い食事を提供する場所です。私たちはホテルからゲストハウス、ブラッセリー、ビストロ、パブまで、様々な飲食店を掲載します。重要なのは食事の美味しさ、そしてそれが値段相応なのか?と、一貫しております。「星」を獲得したいと言うのなら、さらに高いレベルが求められます。が、目指すべき方向性は同じなのです。とにかく、素晴らしい食事を提供するということです。ですが、やはり「星」を獲得するのは至難の技です。それは「このようにすれば獲得できる」、というような公式はないからです。ミシュランガイドでは、各飲食店を個別に取り上げます。星付きの店はラグジュアリーなレストランからカジュアルなパブまでと様々。とにかく、素晴らしい食事の提供が「星」獲得の鍵となるのです。
当然だが、ときにはシェフも不満を抱く
親交のあるシェフに「星を獲得するために力を尽くしているが、なぜ獲得できないのかわからない」と言われたら、何らかの熟慮したフィードバックを提供することもあるかもしれません。ですが実際には、こういったことはほとんどしていません。私たちはコンサルタント業ではありませんし、事あるたびにコメントをするようなこともしません。率直に話すことはありますが、店との距離感は保っています。なぜなら、私たちは独立した組織だからです。
打ち明けよう! この仕事の最もいいところを
私は、世界最高のレストランへ何度も訪れてきました。これは素晴らしい特権で、心に残る経験も数多くありました。たとえば、昨年「ファット・ダック」(ロンドンのミシュラン3つ星レストラン)が再開したときや、マット・エイブがクレア・スミスからゴードン・ラムゼイのレストランを引き継いだときにも、これらのお店を訪れることができました。重い看板を背負うことになったエイブでしたが、引き継ぎは素晴らしくスムーズなものでした。そんななか、ガイドの発行するときも最高の瞬間でした。レストランの店主が大喜びする顔を見ることができますし、ガイドによって彼らのビジネスに変化をもたらすことができる。それは、本当にやりがいがあることです。