スランプを経験しながらも、56歳にして今もなおロック界のカリスマであり続けるレニー・クラヴィッツ。過去には離婚歴もあるますが、元妻や娘とも現在に至っても仲良しのままとのこと。「人と離れた生活を望んだ」というわけではありませんが、現在の状況はさらに彼をたくましくしているようです。
レニー・クラヴィッツが、これまでずっと伝えようとし続けていることの1つに、「現在とは違う、よりよい世界を実現することは可能だ」ということがあります。
それは恐怖ではなく、愛によって導かれる世界であり、人々が分断や自己破壊といったことよりも、団結と平和を選択する世界です。ここ数カ月間でレニーを含め、われわれほとんどの人にとっても、世界はこれまでとは大きく変わったことは確かなことでしょう。
本来であれば、彼は予定されていた通りの春と夏を過ごし、オーストラリアやニュージーランド、そしてリトアニアからリスボンまでと、世界各地で2018年にリリースしたアルバム『レイズ・ヴァイブレーション』をプロモートするため、コンサートツアーを巡っていたことでしょう。
このアルバムもこれまでの作品と同様に、曲が始まると、どこからともなくスーパーモデルたちが現れるかのような彼らしいノリに仕上がっています。そんな中で最初の曲は、プリンスがレッド・ツェッペリンの 「Kashmir(カシミール)』」を歌うような感じで、レニーが「孤独や身勝手さ、傷ついていることから解放されれば、人類全ての人と手を取り合うことができるだろう」と歌う 「We Can Get It All Together(僕らは1つになれる)」になります。この曲は、ここ最近の彼のコンサートの定番曲にもなっています。
しかしながら2020年3月初旬、COVID-19の感染が加速する中、彼はパリの自宅を離れてバハマ行きの飛行機に乗ります。そして、「世界が正常に戻るまでの数日間は」と、バハマにあるエルーセラ島の自宅で過ごそうと考えたのでした。
そのタイミングで彼は、ツアーに必要な荷物はすでにオーストラリアへと発送したばかり。数本のジーンズとわずかな身の回りの品だけを携えて、エルーセラ島にやってきたのでした。「だから、この小さなバッグだけで5カ月半近く生活しているんだ」と、彼は話します。
エルーセラ島では、これまではビーチで眠ったりしていたそうですが、「ここでの生活はまだ長引きそうだ」感じ、ついに諦めてエアストリームのキャンピングトレーラー内のワンルームで生活することに。
もちろん彼は1人ですが、路上で出会ったカリブ海の雑種犬であるLeroy(リロイ)とJojo(ジョジョ)の2匹と一緒です。もちろんこの2匹は、人間の言葉は話しません。ですが、レニーには気のおけない仲間となっています。このインタビュー時にレニーは、「ここでの生活も長くなったので、彼らが何を言っているのか、わかるようになってきましたよ」と打ち明けます。
彼のSNSの写真を見ると、なんだか牧歌的な亡命生活をおくっているようにも見えます。それらの写真で、彼は上半身裸に裸足の姿で古いフォルクスワーゲンビートルのタイヤ交換をしていたり、穏やかな青い海の側でギターを弾いていたり、2つのバスケットがあふれるくらいのバナナを収穫して家へと持ち帰っていたりと。
ここ数カ月間のコロナ渦における精神的なストレスを、誰よりも受けていないように見えるのです。それはひっそりとたたずみながら、感じるままに生きているような自然体の姿そのものです。ある投稿のキャプションには、「あるがまま感じている」と記されています。投稿された写真の数々を見ても、「不幸にも一人となった」という感じではなく、「慎(つつ)ましく、そして思慮深く生きている」といった印象を受けるものばかりです。
ですがレニー・クラヴィッツは、「物欲などなく、モノを所有することに嫌悪感を抱いている」というわけではありません。パリのラグジュアリーな地区である16区には、1920年代に建築された4階建てのタウンハウスを所有しています。それ以上に、その家の地下には、隠れ家的なバーもあります。そして壁には、ウォーホルやバスキアのアートが飾られ、プリンスのギターにジョン・レノンのシャツ、またクローゼットにはあふれるほどのジェームス・ブラウンのダンスシューズまでも。圧巻は、実際にモハメド・アリが試合中に流血した際の血痕がついたままのボクシング・シューズが。このように数え切れないほどの数の、ヒーローたちのお宝を収納したコレクションルームもあります。
レニー・クラヴィッツこそ、最後のマスカルチャーのロックスターなのだ
パリでのレニーとエルーセラ島におけるレニーの陰陽、二重人格かとも思える生活を合わせ鏡を使って考察していくと、彼の人物像を語る上での最適解が浮かび上がります。そう、「彼こそ最後のマスカルチャー(大衆文化)のロックスター」なのだ。
なぜなら、官能主義 / 過激主義的デカダンス(虚無的・退廃的・病的な唯美性に傾倒すること)とビーチでの生活のような反物質主義は、共に「ロックスター」という職業における両極のアーキタイプ(原型)ではないでしょうか。それを 無意識のうちに両立できる人物は、彼をおいて他には存在しないということなのです。
彼は常に、「レニー・クラヴィッツは何をしているのか?」という私たちの疑問に対し、すんなりと応えてくれているというわけす。「ライブストリーミングの時代にあっても、彼はパフォーマーであり続けている」、これは現時点でも事実です。
このエルーセラ島で彼がSNSに投稿している写真も、実際には誰かがフレーミングして、写真撮影をしているわけですから。まさか、犬が撮影しているわけはないでしょうし…。
Zoomでの会話中、画面に映り込んできたピクセル化されたレニーは、Wi-Fiの電波を探して家の中をうろついていました。彼の姿にピントが合ったかと思いきや、フリーズし、デニムシャツを肋骨の下あたりでボタンを留め胸が露わになります。首には何本かの紐(ひも)で緑色の鉱石がついたネックレス、六角形のシルバーの影がジャングルと白い空を映し出し、「世捨て人となったロックスターの偶然の自撮り」のようになっていました。
2020年5月に、レニーは56歳になりました。ですが、白髪混じりの無精ひげだけがそれを物語るぐらい。唇のすぐ下にヒゲをつければ、25歳当時のレニーと何ら変わりありません。いつまでもクールでいるための最も効果的な方法は、やはり目に見える年を取らないことだと痛感できます。
彼はようやく、Wi-Fiを見つけ椅子に腰掛けると、島での生活について話し始めてくれました。
「島の中ではCOVID-19の感染者数は少ないけど、島民は皆とても気をつけています。食料を買うために自分の敷地から出ることはできますが、それは決められた日に限られるし」とのこと。それにも関わらず、「島での生活は窮屈に感じないのか?」と訊けば、「決してそんな気持ちにはならない」と答えます。
「ここにいる間は、ほとんどそんな感じで生活しています。自分に必要ではないものに気づけることは、本当に素晴らしいことですよ。あと5カ月…、あと5年? ここに滞在していなければないとしても大丈夫だと思いますよ」と、話しています。
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