―この“変てこさ”がいいね、と言ってしまえばそれまでですが、実はその多くは、航空力学理論の立証や発展のためにつくられたものだったのです。
アレクサンダー・リピッシュのエアロダイン / Alexander Lippisch's Aerodyne
ドイツの流体力学者の先駆者であるアレクサダー・リピッシュ氏が考案した「エアロダイン」を見ていると、こんなとんでもないものを一体どのような計算で飛ばすのだろうと、困惑してしまいます…。
しかも、奇想天外な姿をした飛行機というのは、バランスを駆動力にしたヘリコプターから風船のように膨らませる飛行機にいたるまで、これまでたくさん登場してきています。飛行機の歴史をざっと通観しただけでも、私たちが見慣れた飛行機のカタチとは似ても似つかない、不思議な代物が少なからずあるものです。
それにしても、飛行機の設計者たちはなぜ、こんなにブッ飛んだ飛行機をつくり続けるのでしょうか? 不思議に思えてしょうがありませんね。
この点を、シアトルの航空博物館で学芸員でありながら著書も数多く出版しているダン・ハーゲドルン氏にたずねると、その理由をいくつか教えてくれました。
過去100年以上にわたって研究者たちは、まだ不明なところもある航空力学の原理を探求するために、新しい飛行機のデザインやテクノロジーなどのテストを重ねてきたとのこと。そのチャレンジ精神が具現化したのが、奇抜な飛行機の数々なのです。
「軍隊も飛行機の進歩に大きく貢献しています」と、ハーゲドルン氏は述べており、不思議な姿をした機体の中には「想定されるニーズに応えるために建造されたものもある」と、かつてコメントしてました。
例えば空中での給油、敵のレーダーに捕捉されないこと、特殊な形状の荷物や重い荷物の輸送…などになります。また、ごく稀なケースとしては、奇想天外な飛行機がまったく新しい飛行方式の発見へとつながったこともあります。
研究開発のために——NASA AD-1 / For Research: NASA AD-1
風洞実験と数学的な解析だけでは、開発にも限りがあります。
凹凸のある物体が、大気圏の中を突っ切っていく際に働くすべての力を理解することは、いわば天気を予報するようなもので、不確定要素があまりに多い。そのため、ある程度までの推測に留まらざるをえないのです。
そこで、例えば翼の形状など、ある特定の要素がさまざまな外圧や状況からどのような影響を受ける可能性があるかを把握するため、ときに研究者は実際にそれをつくって飛ばし、確かめる必要があるわけです。つまり、挑戦的かつ実験的製造なくしては新たな飛行機は誕生しない…と言っても過言ではないのです。
その最も奇妙な例のひとつをご紹介しましょう。それがこの「NASA AD-1」です。初めてこれがつくられたのは、1979年のことでした。「NASA AD-1」は安定した飛行を続けたまま、まっすぐ伸びた主翼の角度を60度まで変えられるという特徴を持った飛行機でした。
ネメスパラソル / Nemuth Parasol
1934年、マイアミ大学の学生たちによって製造された「ネメスパラソル」は、円形の翼を用いても飛行機をきちんと飛ばせることを立証してみせました。
いまから数百年後の未来には、この原理が宇宙船のデザインに採用されるときがやってくるでしょう、きっと…。
『スタートレック』の宇宙船より
こんな感じです。
スケールド・コンポジッツ社 モデル281 プロテウス / Scaled Composites Model 281 Proteus
スケールド・コンポジッツ社を率いるバート・ルータン氏が設計した、この細くてタンデム・ウィング(串形翼)の「モデル281 プロテウス」が初めて飛んだのは、1990年代後半のこと。その目的は、飛行機を高高度の通信中継機として使用する研究を行うことでした。
その優れた設計のおかげで、このモデルは高度6万5000フィート(約2万メートル)の上空を、18時間以上飛行することができたのです。ところが無人飛行機の発達によって、このような長時間におよぶミッションに、パイロットが操縦する飛行機を使う必要はなくなってしまったのが現状です。
グラマン X-29 / Grumman X-29
1984年、「グラマン X-29」が実証したのは、「ジェット機の翼の向きが逆になっていても、翼の下で働く揚力は損なわれない」ということでした。
研究用機の多くがそうであるように、「X-29」の場合もフライト実験に先だって、何年もかけて慎重に計算が行われました。
それでもダン・ハーゲドルン氏は、「実験として操縦する『テストパイロットの心中はいかに?』と考えざにおえませんが…」と語っています。テック系雑誌『ポピュラー・メカニクス』誌は1985年、誕生ホヤホヤだったこの戦闘機に試乗しています。
ニッチな用途のために ——ヴォート V-173“フライング・パンケーキ / For Niche Purposes: Vought V-173 "Flying Pancake"
「飛行機には、『これがなかったら話が始まらない…』というものがあります」と、ダン・ハーゲドルンは語ります。
「まず、機体を上昇させるなんらかのものが必要です。翼のような薄い金属板とか、ヘリコプターの回転ブレードのようなものが…。それから推進力を生む装置や、機体をコントロールする手段や、着陸するための装置だって必要です。それらを除けば、残りのものはすべて、例えどんなカタチをしていようと、些細なことにすぎないのです」とのこと。
「些細なことだ」というのであれば、エンジニアだって突拍子もないことを試せるというものです。
ヴォートの「V-173」、この“フライング・パンケーキ”」は第二次世界大戦における太平洋戦線を念頭に置いて設計されました。太平洋戦線では、「短い滑走路での離陸が可能な艦載機」に対するニーズが高まっているとアメリカ軍は考えていたのです。
なんとも不思議な格好をした「V-173」ですが、これを一度だけ操縦したことがあるかのチャールズ・リンドバーグ氏は、「驚くほど操作しやすい飛行機だ」と語っていました。
シコルスキー Xウイング / Sikorsky X-Wing
ジェット機のスピードと推進メカニズムに、ヘリコプターが持つ垂直離陸の能力を合体させるためにつくられたのが、このシコルスキーの「Xウイング」です。
残念ながらこの計画は、「Xウイング」初号機の完成から長い間迷走を続けたのち、1988年に中止となりました。
ロッキード・マーティン P-791 / Lockheed Martin P-791
こちらも、異なる2つの飛行物体の組み合わせて完成した「 P-791」になります。シコルスキー「Xウイング」よりも新しく、飛行機のスピードと飛行船の浮力を合体させるためにつくられた「ハイブリッド飛行船」なのです。
誰ですか、「そんなの不可能だ」と言うのは? 実際、ロッキード・マーティン社はいまでもこれを製造販売していて、高度2万フィート(約6000メートル)の上空に、最長で3週間浮かんでいられると言われていますので…。
P-791 Hybrid Air Vehicle
最後に、ロッキード・マーティン社による「 P-791」の解説をご覧ください。
Source / Popular MechanicsTranslation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。