ドラえもんの声まで!? アニメ創生期から活躍する大レジェンド
今や声優たちの勢いはとどまるところを知らず、バラエティ番組などにも続々と進出しています。そんな声優界のレジェンドといえば、アニメ創生期から活躍している野沢雅子さん。「オッス! オラ悟空」の名セリフで知られ、最近では、お笑い芸人「アイデンティティ」の田島さんのモノマネも受け、ますます親しまれています。
実に半世紀以上にわたって声優人生を歩んでこられた野沢雅子さん。代表作といえば、野沢さん自身が「最初のオファーを受けた時から悟空とともに生きてきた」と語っている、『ドラゴンボール』の孫悟空役ですが、それ以外にも、私たちが心を躍らせたさまざまなキャラクターの声を演じてきました。初主役を務めた『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎をはじめ、主役として『怪物くん』の怪物くん、『いなかっぺ大将』の大ちゃん、『ど根性ガエル』のヒロシ、『銀河鉄道999』の鉄郎などなど……かつて私たちが一緒に笑い、泣き、冒険したキャラクターたちに命を吹き込んでいたのが、野沢さんだったのです。
さらに、「ドラえもん声優」といえば、まずは大山のぶ代さんのイメージでしょうが、実は野沢さんは「大山ドラえもん」以前にドラえもんの声を演じていたんです。テレビ朝日の『ドラえもん』(1979年~)が始まる6年前、日本テレビで放送された『ドラえもん』でのことでした。
主役以外でも『魔法使いサリー』のトン吉&カン太、『タイガーマスク』の健太など、実は気付くかずに野沢さんの声に触れていることも多いんです。
300種以上演じたというキャラのなかにはセリフがない役もありました。『あらいぐまラスカル』のラスカルです。セリフがないのが面白そうだと、自らオーディションを受けて勝ち取ったのだそうです。演じるにあたって、あらいぐまの鳴き声を聞いたことがないので動物園に10日間ほど通い詰めたものの、あらいぐまは手を洗っているばかりで1回も鳴いてくれなかったのだとか。
初めての…だらけ! 声優界のパイオニア
野沢雅子さんには、数々の“初めて伝説”があります。たとえば、女性声優として初めて少年役を演じたのも野沢さんです。最初はアニメではなく洋画の吹き替えだったそうですが、当時はテレビの吹き替えも生でつけていた時代。本物の子供にやらせるわけにはいかず、声帯の近い女性でということになり、オーディションで起用されたのが野沢さんだったのです。今では女性が少年役をやるのは当たり前ですが、それは野沢さんが切り開いた道。悟空も鬼太郎も、そこから始まっていたんです。
昨今大盛況のアニメイベントも、その先駆けは野沢さんです。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の大ヒットで、ファンを集めてデパートの屋上で開催されたそうです。鬼太郎の着ぐるみが用意されてかぶるように言われたものの、あまりの重さで中には入れず、野沢さんは着ぐるみの横に立ってセリフをしゃべっていたのだとか。声優にして初めて顔出しをしたパイオニアでもあったのです。
これまで数え切れないほどの作品に出演してきた野沢雅子さんが、特に思い入れの深い3作というのが『ゲゲゲの鬼太郎』、『銀河鉄道999』、そして『ドラゴンボール』だそうです。いずれも主役を演じた大ヒット作であるのはもちろん、すべて、オーディションに参加して原作者自らに選んでもらった作品なのだそうです。
野沢さんは、演じる前には原作を読まないと言います。それは「内容を知ってしまったら、これから起きることが分かってしまう」からなのだとか。役になりきり、役と同じ体験をすることでセリフに感情を込める……これこそが声優・野沢雅子さんのすごさではないでしょうか。ご本人が「性格も似ている」と語る『ドラゴンボール』の孫悟空が感じた喜び、哀しみ、怒りは、すべて野沢さんご自身の感情であり、野沢さんは悟空そのものになりきっているのです。
ちなみに、あの有名な「オッス! オラ悟空」の名セリフは、原作には登場しない野沢さんのオリジナルだということはご存じでしょうか? 何気なくアドリブで言った言葉が「面白い!」と採用されたのだそうですが、気持ちは悟空そのものの野沢さんですから、悟空が野沢さんの口を借りて発した、まさに悟空の挨拶に違いありません。
(古屋啓子)
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