『SEED』メインヒロインと思われたフレイ 次第に見えてきた悪意
2003年1月18日は『機動戦士ガンダムSEED』(以下、SEED)PHASE-16「燃える砂塵」が放送された日。このエピソードでは当時、視聴していたアニメファンが驚くシーンがありました。 その問題のシーンの中心人物であるフレイ・アルスターは、そのこともあって現在でもアンチが多いことで知られています。しかし、彼女こそ『SEED』の真のヒロインという人も少なくありません。
フレイは果たして天使なのか? 悪魔なのか? それを検証してみたいと思います。
筆者がフレイを認識したのはTCG(トレーディングカードゲーム)「GUNDAM WAR」という商品でした。『SEED』放送の2か月ほど前に販売された、このTCGのキャラクターカードでキラ・ヤマト、アスラン・ザラとフレイが収録されていたのです。
このラインナップだとそれぞれ主人公、ライバル、ヒロインと考えるのが普通。そういうわけで筆者はフレイを最初はヒロインとして認識しました。
後に聞いた話ですが、フレイをヒロイン枠で収録したのは、担当者いわく「1話から出ていて主人公の憧れの存在だったから」「てっきりセイラ・マスのポジションだと思っていた」だそうです。
TCGはテストプレイもあり、販売数か月前にはラインナップを決めるため、まだ設定が固まっていない時期だったころの見切り発車だったのでしょう。 また、『SEED』はよく設定が二転三転していたので、初期はフレイがメインヒロインだった構想もないとは限りません。
そして担当声優が発表された時、フレイ役が人気声優の桑島法子さんだったこともヒロインに間違いないと思った要因でした。
そんな流れで放送を楽しんで見始めたのですが、話数が進んでゆくと当初の予想とは違ったフレイの行動が目立ち始めます。思った以上に自分勝手で自制心に欠け、自己中心的で偏見持ちという悪い面ばかり。
そして、父親の死をきっかけにフレイの行動は一気に悪い方向へ加速しました。
艦を降りようとするキラを引き止めるため、自分から軍に志願します。それは敵であるザフトの人間と同じコーディネイターのキラを同士討ちさせようという暗い考えでした。そのため、自分も危険な場所に身を置くという破滅的衝動です。
こうして戦いに引きずり戻されたキラは、直後に目の前で救いたかった避難民の乗った船を破壊されるという悲劇に遭いました。 そのショックで心が折れるキラ。心が弱っているキラにフレイは近づき、思いがけぬ行動に出ます。それがPHASE-16「燃える砂塵」での出来事でした。
※この後、物語の終盤についての記載があります。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
夕方のお茶の間を直撃したフレイの問題シーン
キラと男女の関係になったフレイ。行為自体が描かれたわけではありませんが、明らかにそうだと分かる映像に筆者は口から砂を吐くようなショックを受けました。
たぶん、大多数の視聴者も同じような思いで、なかには夕食時に家族団らんのさなかに見ていた人もいるでしょう。
後日、新聞の投稿欄に批判的な投稿が寄せられ、放送倫理・番組向上機構にも抗議が多く寄せられたと聞いています。 当時、Twitterがあれば炎上してトレンドワードになっていたくらいの出来事でした。
このエピソードをきっかけにして“アンチフレイ”になった人が多くなったと思います。
この後、フレイのコントロールによってキラは「バーサーカー」とまで呼ばれるほど戦いにのめりこんでいきましたが、カガリ・ユラ・アスハやアンドリュー・バルトフェルドとの出会いによって次第に自分を取り戻していきます。そして、フレイとの関係に変化が生じます。
しかし、その関係に明確な決着がつく前にキラはMIA(実は救出され移送されていた)となり、フレイもラウ・ル・クルーゼに拉致されて離れ離れとなってしまいました。
ふたりが再開することになったのは戦場の真っただなか。しかし、フレイの乗った救命ポッドはキラの目前で持ち去られるという結果になります。
そして最終回。脱出艇に乗るフレイをキラは目撃しますが、その目の前で脱出艇はビームの直撃を受けて爆散しました。その後、精神世界へと逝ったフレイはキラに、これまでの謝罪と懺悔の言葉をかけます。しかし、その声はキラには届かないのでした。
この展開を見た筆者は、同じ「ガンダム」シリーズのアムロとララァ、カミーユとフォウといった死ぬことで主人公と分かり合えた悲劇のヒロインたちを思い出します。
話の流れはともかく、フレイはキラが成長するために必要な犠牲だったのではないでしょうか。それを証明するかのように、この後のキラは感情を大きく乱すようなことはありませんでした。続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』では俗世間を捨てて悟りを開いたかのように思えます。
そう考えるとフレイは、キラというヒーローを誕生させるために犠牲となった悲劇のヒロイン。そういう仮説は成り立つのではないでしょうか。
死ぬことですべての悪意の責任を取れるわけではありませんが、その最期の言葉をもう少し評価してあげたいと筆者は思います。
(加々美利治)
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