俳優として、ミュージシャンとして、はたまた文筆家として。多彩な才能を見せる内田朝陽さんにとって、仕事人としての自分とは、父親とは、男とは、そして息子について。それぞれについて、どんな考え、どんな思いがあるのでしょうか。
「オトナになっても、信頼のできる親友がいれば、人生はいつだって大丈夫」
2000年に、映画デビューという華々しいスタートを切った内田朝陽さん。それから数々のドラマや映画に出演。俳優としての未来を約束されたかのような歩みを見せるが、その人生は決して順風満帆ではない。俳優としての挫折、そこからの希望、そして父親となった今、改めて自身とどう向き合っているのか。その裏側に迫ります。
苦境に立たされて気づいた親友の大切さと自分の未熟さ
編集部 まずは、俳優の世界に飛び込もうと思った理由を教えてください。
内田 もともと、凄く人見知りだったので苦手を克服しようと、すすめて頂いたモデルの仕事を始めたのがきっかけでした。
そんな自分に何が向いているんだろうって考えた時、役者に辿り着いたんです。
役者って、突き詰めると孤独だと思ったんです。役と向き合い、自問自答することが役者ですから。自分に向いているんじゃないかなって。
編集部 一匹狼なところがあると?
内田 そうです。いや、そうでした。今は違います。信頼のできる仲間との出会いによって、仲間と一緒に何かを作り上げる楽しさを知りましたから。
編集部 山田孝之さんや綾野 剛さんと仲が良いとか。
内田 僕は親友だと思ってます。孝之も、剛も。一時期俳優業を中断していたことがあるんです。何か先が見えなくなって…。それまでは、「自分は面白い表現者だ。誰にも負けない」みたいな根拠のない自信に溢れていたのに。そのときはテレビをつけるのが怖かった。自信を失い、人の活躍が辛く、無力さを痛感していました。もう自分は必要無いのではないかって感じる毎日。
でも、十代の頃から友人だった孝之の存在だけは興味が湧いて、気になっていました。むしろ鼓舞されましたし、彼と表現者としてもう一度再会したい、と思ったんです。その為には、自分は立ち上がって頑張って表現の出来る場所に戻らなくちゃいけないって。遊び友達ではなく、〝昔、一緒に仕事をした友達〞として…と。
そして、仕事に復帰させて頂いた頃、久しぶりに連絡を取り再会した日に、孝之が〝大切な友達〞と言って出会わせてくれたのが、剛でした。そのときに「あ、剛とは長い付き合いになりそうだな」って思ったのをハッキリ覚えてます。
編集部 信頼でき、お互いを鼓舞しあえる親友との出会いが、内田さんの生き方を変えたんですね。
内田 十代の頃、父親に孝之について言われたんです。「彼は一生の友人になるだろう。絶対に裏切っちゃいけない」って。ちゃんと見ていたんですね。
編集部 そうした男の友情について、自身が父親になった今、息子さんに伝えたいことはありますか。
内田 尊敬できる親友を作ってもらいたいです。こいつにだけは嫌われたくないと思える親友と出会ってほしい。親と子の関係は、切れるものじゃありません。でも、男には友人とじゃなきゃ理解できない、解決できないことって沢山あると思いますから。
好き勝手やるためには真剣じゃないとダメ
編集部 息子に見せる父親の背中、という意味では、最近の音楽活動もそのひとつになるのでしょうか。
内田 音楽制作自体はずっと好きで、ひとりでゲームのサウンドトラックなどを作っていました。
それこそ、俳優業が停滞していた時に、それで生活費を稼いだりもしていました。
大変でしたけど、楽しかったですね。俳優としてスタートを切った時は、身につけなければいけないことが多すぎて、中途半端にならないよう音楽制作は趣味程度に留めていたので。
編集部 昨年スタートした、山田孝之さん、綾野 剛さんとのユニット「ザ・シックス」は、どんな思いで?
内田 「ライブやりたくない?」「バンドやろーぜ」 という孝之と剛の言葉に、やりたい! めちゃくちゃ楽しそうだ!! そう思ったんですよね。もちろん、やるからには真剣です。だから、真剣に遊んでいるって感じです。大人だからこそ、真剣に遊ぶって大切だと思うんです。
36歳の父親が休みの日に友達と楽器をもってスタジオに通って、インディーズでバンドデビューって、面白いじゃないですか(笑)。でも、真剣にやればきっと誰かはわかってくれるはず。子供にも、伝わると思うんです。だから、バンドのスタイルや、ライブの形式、チケットの価格設定なども、メンバー皆でなるべく丁寧に真剣に考えるようにしてます。
編集部 息子さんに音楽を学ばせようとはしているんですか。
内田 学びというより、遊ばせています。子供って、普通大人が絶対出さないような音を出すんですよ。
曲を作るために録音していたら、そばに来て音を出してくるんですけど、それが結構良いんですよね(笑)。
結婚して子供ができてからのオッサンバンドデビュー
「いいオトナが真剣に遊んでいるから面白いことになる気がする…!!」
2018年の11月に始動した山田孝之、綾野 剛、そして内田朝陽による音楽ユニット「THE XXXXXX(ザ・シックス)」。山田がボーカル、綾野がギター、内田がシンセサイザーを担当し、動画配信サイトで発表しています。
「孝之と何か面白い事をやろうと話してました。そんな時に、僕がパソコンで音楽を構築出来る事を孝之が知り、バンド経験のある剛がそれを知り、3人でバンドを組む提案をしてくれ結成に至りました。バンド名も剛が付けてくれた」。目下の目標はライブだとか。
「THE XXXXXX」1st ワンマンライブ〝MUSIC EXISTENCE〞を4月25日に開催。
会場はEX THEATER ROPPONGI。13:00 開場、14:00 開演。アリーナ立見席4500円、スタンド指定席5000円※ともに税込み。※入場時ドリンク代別途必要、未就学児入場不可。
DISK GARAGE ☎ 050-5533-0888
「大人の遊びは真剣じゃないと絶対につまらない」
どんな未来であっても子供と一緒に成長し続けたい
編集部 2歳の息子を持つ父親として、どんなポリシーをお持ちですか。
内田 子供扱いしないこと。友達と喋っている時と息子と喋っている時は、あまり変わらないです。
もちろん、躾の際には親としての言動や行動をしますけど、普段はひとりの人間として接するようにしています。その方が、子供って素直な反応を見せてくれるんですよ。
役者として共演する子供に対しても、同じ。僕なんて途上の俳優ですが、ベテランの俳優さんから同じ目線で芝居の相談を受けた時に、素直に喋れたという経験があるんですよね。
編集部 奥様と、子育てについて喧嘩することは?
内田 基本ないですね。妻は僕とはまったく正反対の生き方をしてきた人ですが、お互いがそれぞれの持ち味を活かせばいんじゃないかと思っています。それに、感謝していますから。
編集部 どういう点に感謝を?
内田 以前大病を患ったんです。結婚して間もなくの頃。
ちょうど孝之との海外で旅をテーマにしたロケを控えていた時期でもあり、ロケが終わったタイミングで入院することになっていたんです。まだ結婚して1年も経っていなかったから、迷惑かけるし離婚も考えたんです。でも入院したその日に、〝御守り〞と言って妊娠してるエコー写真を妻から渡されて。
そしたら、不思議と「俺、絶対死なない」って確信できたんです。
基本ネガティブ思考なんですが、でも守るものができたらこんなに強くなれるんだって思いました。
「我が子とは、対等な関係でいたい。だって、息子から教わることも沢山あるんだから」
編集部 いつか息子さんがこの記事を読んだら、どう思うでしょうね。
内田 どう思うんだろう(笑)。しみったれた話をしてんな、って言われるのかな(笑)。
子供って、いつのまにか成長しますからね。今日の撮影でも、今まで肩車を怖がっていたのに、めちゃめちゃ楽しんでいましたから。僕も息子が生まれてから、くだらないプライドを持つことをやめましたし、これからお互い成長していきたいです。
内田 朝陽
Profile
1982年、東京都生まれ。
2000年に開催された21世紀ムービースターオーディションで、グランプリを受賞。
同年の映画『死者の学園祭』にて俳優デビューを果たす。
その後、数々の映画やテレビドラマ、舞台に出演し、2014年には番組ロケで知り合った奥様と結婚。
昨年には、山田孝之、綾野剛とともに、音楽ユニット「ザ・シックス」を結成した。
HIRO KIMURA(W)/撮影 土屋詩童/スタイリング
向後信行(JANEiRO)/ヘアメイク
POW-DER/文