ギャンブル、覚醒剤、アルコールなど、「依存症」の親を持つ子どもの苦しみを描いた『母のお酒をやめさせたい』。親の依存症によって家庭が壊れ、回復していく過程が子どもの視点から語られるコミックエッセイで、依存症のことがよくわかると評判を呼んでいます。
「ASK認定依存症予防教育アドバイザー」の資格を持つ作者の三森みささんに、漫画で描かれた様々な依存症のエピソードについてお話を聞きました。
夫が依存症に。そんな時は自分のメンタルケアも大切
――夫がパチンコに大金を費やしてしまうエピソードでは、パートナーが依存症に陥ってしまう怖さについて考えさせられました。パートナーが依存症かもと思った場合、家族はまずどのような行動を取ったらいいでしょうか。
三森みさ:私だったら…という話になりますが、作中のお母さんと同じように、とりあえず相手に「あなたが心配だから、病院に行ってみない?」と伝えると思います。あとは、とにかく自分のメンタルケアができる場所を徹底して探します。自助グループみたいな場所に行ったり、カウンセリングや病院で相談して、自分を助けてくれる居場所を増やします。それで自分が精神的に落ち着いてから今後どうするか考えますね。
「あなたのままでいいんだよ」依存症の親を持つ子どもに伝えたいこと
――薬物依存症の親を持つ子どもの苦しみが描かれたエピソードはショッキングでした。このような立場に置かれている子供は実際多いのでしょうか?
三森みさ:正確な数はわかりませんが、この話は経験者に取材で聞いた話をモデルにしているので、実際にこうした立場の子どもがいることだけは間違いありません。
この漫画には「ロールモデルを提供する」という目的があるので、漫画のなかの子どもたちは自ら保健室やスクールカウンセラーに助けを求めに行っています。だけど実際には、そんなふうに助けを求められない子どもが大半です。だから問題そのものが認知される機会が少ないんじゃないかと想像しています。
――確かに、家族の問題について子ども自身が誰かに助けを求めるのは難しいかもしれませんね。では、子どもを支援するために周囲の大人はどうしていったらいいでしょうか?
三森みさ:大人にできることは、依存症という病気への正しい理解を持っておく、子どもの話をちゃんと聞く、子どもは親が好きだったりするので、大人側から親の悪口を吹き込まない、とか、色々あるんだろうなと思います。
ただ、現実でそこまで気を配るのって難しいですよね。そして、救ってあげたくてもなかなか手出しできないと思うんです。
だから支援・介入や問題解決まで行かずとも、第9話で担任の先生が語っていたように「あなたはあなたのままでいいんだよ」というメッセージを与えるだけでも、子どもとして救われる部分はあるんじゃないでしょうか。
「この飲酒量は普通?」自分の状態を書き出して可視化を
――アルコール依存症の母親が描かれたエピソードでは、程度の差こそあれ、自分もそうではないかと感じる読者もいたかもしれません。自分がアルコール依存症かもと感じた時に、まずできることはありますか?
三森みさ:本当は周りに相談するのがいいのですが、「だらしない」「甘えてる」と返されることもあるのがつらいところですね。
心配の度合いにもよりますが、「もしかして…?」「今は違うと思うけど将来が不安」と思っている方は、「日々の飲酒量」、「日々の時間の使い方」、「お酒を飲むことで失っているもの」を記録してみるのがおすすめです。これは私が依存行為を自力で減らすときによくやっていたことで、依存症治療の病院でも同様のことをされています。
依存行為にハマっている間は快楽物質が出ていて気持ちがいいので、脳が「やる言い訳」を作り出してしまうのが依存症という病気です。ですから、書き出すことで可視化して初めて「自分が依存している」「問題が起きている」「変わる必要がある」と自覚することができるのです。記録してリストアップすることで、お酒の量が一般より多いとか、何か問題が起きていることがわかったら、飲み方を検討し直したほうがいいでしょう。
――まずは自分の状態を記録して、客観的に見つめ直してみることが大事なのですね。
三森みさ:はい。そして、「本当に病気かもしれない」と心配な方は、依存症専門病院を受診・相談してほしいですね。いきなり病院というのはハードルが高ければ、精神保健福祉センターに電話をかけるだけでも良いですし、連絡先をメモしておくだけでもお守りになると思います。依存症の自助グループでは見学を受け付けているところもあるので、ぜひ探してみてください。
――最後に、三森さんがこれから挑戦したいことや描きたいことなどがあれば教えてください。
三森みさ:4年ほど依存症や生きづらさの問題に関わってきたので、そのなかで培った知識や経験をアウトプットしていきたいですね。多くの人の生きづらさや悩みを解決する入り口になるような作品を、できる限り作っていきたいなと思っています。
三森さんが自分自身の経験を踏まえた上で、丁寧な取材を重ねて描きあげたコミックエッセイ『母のお酒をやめさせたい』。この作品を読んで、誰もがなりうる身近な病気「依存症」について考えてみませんか?
取材・文=宇都宮薫