クルマの安全装備のなかには、乗員を守る機能のほかに、対人衝突時に歩行者へ与えるダメージを最小限にする機能があります。近年では、衝突時にボンネットが浮き上がるという装備も開発されました。
しかしこの機能の思わぬ誤作動によって、オーナーが修理代の支払いを強いられるケースが増えています。誤作動を防ぐことは可能なのでしょうか。
歩行者を守るアクティブボンネットがオーナーを苦しめる結果に(撮影者のKさんより許可を得て掲載)
2005年より、歩行者を保護する性能基準として、「歩行者頭部保護基準」がモデルチェンジを機に順次導入されています。
クルマのフロント部分と歩行者が衝突すると、跳ね上げられた歩行者はボンネット下のシリンダーヘッドなど非常に硬い金属で頭部をぶつけてしまい、死傷するケースは後を絶ちません。
それを回避する方法としてシリンダーヘッドとボンネットの間に空間を設け、衝撃を和らげる設計として基準に対応するクルマが増えたのです。
その結果、クルマのデザインは近年大きく変化し、ひとことでいうとフロント部分が分厚いクルマが増えてきました。しかしクーペやオープンカーは、そう簡単にフロント部分を分厚くするわけにはいきません。これらのクルマにとってはデザインも大事な性能だからです。
そこで開発されたのが、歩行者との衝突を感知すると瞬時にボンネットの後端が持ち上がり、ボンネットとその下の部品(エンジンブロックなど)との空間を広く保つことで歩行者頭部への衝撃を緩和する安全装備です。
「アクティブボンネット」(マツダ)や「ポップアップエンジンフード」(日産)など、メーカーによって呼び名は違いますが、基本は同じ仕組みになります。
しかし、近年この安全装置が想定外のシーンで誤作動する事故が増えているようです。本来は歩行者との衝突を感知した際に作動するはずですが、なんと猫をはじめとした小動物との衝突でも、歩行者との衝突として感知されてしまうことがあるといいます。
一度開いたボンネットは、エアバッグと同様に自分で戻すことはできません。ボンネットそのものやヒンジ・火薬など関連するパーツをすべて交換する必要があります。
実際に愛車のマツダ「ロードスター」のボンネットが誤作動した経験を持つKさんは、次のように話します(本記事内の画像は、Kさんより許可を得て掲載しています)。
アクティブボンネットが誤作動してしまったKさんのロードスター(Kさんより許可を得て掲載)
「見通しの悪い左コーナーを立ち上がるとき、いきなり黒い影が飛び込んできました。ブレーキを踏みましたが間に合わずフロント部分と衝突し、その瞬間『バンッ』とボンネットが持ち上がりました。だいたい顎の高さくらいです。
運悪くディーラーはお休みで、マツダ本社の相談室に電話したら『その場では直せないので気を付けてお帰り下さい』との指示でした。視界も悪く危険な状態で帰ってきました。
そして、修理代の見積もりは約20万円と最初にいわれ、後日さらに上がってプラス3万円の合計23万円となりました。結局、標準のボンネットではなくカーボンボンネットに交換することを決めました。
メーターには、アクティブボンネットが作動したことを示す警告灯がいまでも点灯しているのですが、リセットするだけで3万円かかるといわれたので、我慢することにしました。車検には先日無事に通っています。
新車時に10万円以上のコーティングを施したのも無駄になったので、今回の誤作動は残念です。車両保険は相手が動物のため不可でした。風で飛んできた段ボールといえば良かったかもしれません」
こちらにはまったく過失がないにも関わらず、相手が動物だからという理由で車両保険が使えなかったとは驚きです。
Kさん以外にも、ネット上で報告されている誤作動の例は少なからずあり、日産「GT-R」では、なんと鳩との接触だけで開いてしまったといいます。
誤作動を防ぐために自衛できる対策とは
保安基準に指定されているくらいですから、万が一の事故の際は、歩行者の頭部を守る大事な装置だといえます。
ポップアップエンジンフードの衝突実験
しかし、日常的な走行で誤作動する確率の方がずっと高く、その修理代を何の過失もないユーザーが負担するのは納得いかないでしょう。
しかも、クルマ対クルマの事故に限定された車両保険の場合は、保険を使っての修理も不可となるのです。
このような事情から、最近ではキャンセラーを付けるクルマも増えており、車高を調整する「車高調」をはじめとした社外品のパーツを付けたり、サーキットを走行したりする人にとってキャンセラーは必需品ともいわれます。
いわば誤爆防止の自衛手段ですが、作動できないようにした場合、車検には通るのでしょうか。
国土交通省自動車交通局技術安全部技術企画課の担当者は「作動をキャンセルしても車検には通ります」と説明します。
また警告灯に関しても、これまで車検時にいずれかが点灯している車両は、警告を意味するもの以外であっても審査をおこなわないとされてきましたが、独立行政法人自動車技術総合機構が発表した規定によると2017年2月以降は「前方エアバッグ」「側方のエアバッグ」「ブレーキ」「ABS」「原動機」という5点の警告灯のみ対象になることが明確に定義されています。
つまり、この5つに該当しないアクティブボンネット類の警告灯は、点灯していても車検には問題ないということです。
車検には通るということで、少し安心した方もいるかもしれません。しかし、この誤作動についてメーカーはどのように考えているのか、注目されます。