国産初の皇室専用リムジン
天皇陛下在位30周年の慶祝行事の一環として、平成31年2月24日に赤坂離宮(迎賓館)で1日だけ、旧御料車「プリンス・ロイヤル」の展示が行われました。昭和44年から平成20年まで40年もの長きに渡って昭和天皇、今上天皇に愛された「プリンス・ロイヤル」とはどんなクルマなのでしょうか。
40年もの長きに渡って昭和天皇、今上天皇に愛された御料車「プリンス・ロイヤル」(写真提供:日産自動車)
プリンス・ロイヤルはのちに「マイカー元年」と呼ばれる1966年に開催された、第13回東京モーターショーで発表されました。同じ会場で日産「サニー」とトヨタ「カローラ」が同時にお披露目された年でもあります。
日本が本格的なモータリゼーションの幕開けとなる記念すべき年に、プリンス・ロイヤルは「国産初の皇室専用リムジン」として国民の前に姿を現しました。全長6メートル超、全幅2メートル超の巨大ボディに、現在も国産車最大の排気量となる6373ccのV8エンジンを搭載。これまで見たこともないくらい大きくて立派な出で立ちの国産車に観衆は圧倒されました。
開発を担当したのは当時のプリンス自動車工業(1966年に日産自動車と合併)です。「自動車の最高峰を国産車で」という信念の元にエンジニアの情熱と技術の粋を集めて作りあげられました。
ちなみに、プリンス自動車工業が開発をすることになった背景には、すでに1950年代から1960年代前期にかけて多数のプリンス乗用車が宮内庁の公用車として納入された実績があったことや、青年時代の明仁親王(今上天皇)が自ら複数のプリンス製乗用車を運転されていたこと、プリンス自動車工業の本社が東京都内(杉並区)にあったことも御料車として選ばれた理由だと言われています。
皇室への納入直前にプリンスと日産が合併
国産車として初めて日本の皇室用御料車として開発されたプリンス・ロイヤルは、試作車を除き7台が製造されました。正式名称は「ニッサンプリンス・ロイヤル」です。プリンス自動車工業によって開発・製造され、1967年2月に御料車として初めて納入されましたが、その数か月前にプリンスと日産が合併したため、車名には「ニッサン」と「プリンス」の両方が冠されることになりました。
「プリンスブランド車は、乗用車ばかりでなく、商用車も含めて高度なメカニズムをもつ先進的なクルマで占められていました。プリンスのクルマづくりは、後発メーカーのハンディキャップを跳ね返すべく、つねに技術的挑戦を繰り返し『日本最高』ないし『クラストップ』を目指してきたと言えます。
プリンスが開発し、日産自動車との合併と前後して1966年に発表された『ニッサンプリンス・ロイヤル』は、このような社風から生まれ、同型車が1967年に宮内庁に納められて以来、約40年間にわたり、貴賓用リムジンとして数多くの国事や行事に登場し、気品あるスタイリングとともに日本中に広く親しまれました。
同車は、このような文化的側面ばかりでなく、プリンスが史上空前のジャンルに挑んだ技術的側面、また、プリンスと日産の融合の歴史を見つめてきた生き証人として、企業文化的な観点からも、わたしたち日産自動車にとって至宝というべき存在となっています」(日産自動車広報部)
プリンス・ロイヤルはどのような行事に使われた?
第13回(1966年)東京モーターショーでお披露目。巨大なボディとエンジンが観衆を圧倒(写真提供:日産自動車)
赤坂離宮に展示されていた御料車の横には、これまで迎賓館赤坂離宮で使用されてきた例が掲載されていました。これによると、
●平成3年4月 ソビエト連邦共和国大統領の接遇
●平成8年4月 アメリカ合衆国大統領の接遇
●平成8年11月 フランス共和国大統領の接遇
●平成9年4月 ドイツ連邦共和国大統領の接遇
●平成11年4月 ルクセンブルク大公国大公の接遇
また皇室での行事では、退役となる直前の平成17年には1年間で50回使用されました。その内訳をみてみると、
●国賓への差し回し 20回
●国賓以外の外国賓客(元首)への差し回し 13回
●天皇皇后両陛下行幸啓関係 7回(天皇陛下国会開会式御臨席、天皇皇后両陛下全国戦没者追悼式御臨席、天皇皇后両陛下外国御訪問のため東京国際空港など)
●その他、天皇皇后両陛下宮中行事等関係 6回、皇太子殿下御名代関係 1回、紀宮殿下御結婚関係 2回
●故高松宮妃殿下御喪儀関係 1回
となっています。
平成元年2月24日に行われた昭和天皇の葬儀(大喪の礼)においては、プリンス・ロイヤルを改装した寝台車が使われました。
プリンス・ロイヤルの後継はセンチュリー・ロイヤル
プリンス・ロイヤルの後を継いで平成18年7月よりも御料車として使用されているのはトヨタ「センチュリー・ロイヤル」です。当時、宮内庁ではプリンス・ロイヤルが御料車としての役目を終えることに関して以下の発表を行いました。
「現在の御料車『ニッサン・プリンス・ロイヤル』5両は導入後40年近くを経過し、車両本体の老朽化、部品補充が困難となってきたこと等からその維持が限界に近づいており、運行に支障を来すおそれがあることから、去る(平成18年)7月7日に後継車として新御料車『センチュリー・ロイヤル』(トヨタ)1両を導入しました」(宮内庁管理部)
宮内庁の公開データによりますと、新御料車センチュリー・ロイヤルの価格は5250万円。陪乗席を備えた8人乗りの大型車であり、国会開会式、全国戦没者追悼式および国賓接遇などで使われています。
プリンス・ロイヤルは5台が使われていましたが、センチュリー・ロイヤルは合計4台が宮内庁に納入されています。その理由を宮内庁では「国の財政事情が厳しい折から」としています。
なお、プリンス・ロイヤルは昭和天皇記念館(東京都立川市)に展示されている他、搭載されていたW64型エンジンは、日産自動車横浜工場ゲストホール「日産エンジンミュージアム」で見ることができます。
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