やさしく作れる本格和菓子 第1回
今年の連休は、ご自宅で和菓子作りを楽しんでみませんか?
「和菓子はお店で買うもの」と考えていらっしゃる方は、少なくないかもしれません。
職人さんが熟練の技で作り上げる和菓子の味や美しさはもちろん別格ですが、ご自宅で心を込めて手作りした和菓子もまた、えもいわれぬおいしさです。何より、できたてのおいしさに勝る喜びはありません。春の大型連休は、ぜひ和菓子作りにチャレンジしてみませんか?
和菓子の餡は冷凍保存が可能
和菓子作りには特別な器具を買い揃えなければいけないとお思いになる方もいるでしょう。確かに専用の器具で作るのが望ましいですが、実は、台所にある一般的な道具で代用することも可能なのです。また、和菓子に使う餡(あん)は、冷凍で長期保存することができます。
初心者でも挑戦しやすい「きんとん」
今回ご紹介するのは、和菓子屋さんで必ず見かける「きんとん」。難しそうに見えますが、(1)餡を作る、(2)餡玉にそぼろ餡をつける、の2ステップのみ。基本の作り方を覚えてしまえば、色やあしらいのアレンジで季節ごとに自由に楽しめます。
ご自宅でも美しくおいしい和菓子の作り方を教えてくださったのは、清 真知子(きよし・まちこ)さん。茶道裏千家教授の資格を持ち、兵庫県明石市で茶道と和菓子の教室「さろん閑遊」を主宰しています。
それでは、早速教えていただきましょう!
(1)こし餡の作り方
和菓子に使う餡はさまざまですが、まずはきんとんの中によく使われる「こし餡」の作り方から始めます。こし餡とは、小豆(あずき)を漉(こ)し、皮を取り除いた餡です。小豆で作る餡は色が染められないので、中餡に使うのが主となります。滑らかな口当たりと上品な味わいが特徴です。
【材料(作りやすい分量)】
・小豆 500g
・上白糖 または グラニュー糖 450g
【準備】
小豆は虫食いや変色があるものを取り除き、きれいに洗う。
【豆を煮上げる】
(1)鍋に小豆とたっぷりの水を入れ、強火にかけて沸かす。
(2)豆にシワが入る程度に煮たら水を差して、急激に煮汁の温度を下げる。豆が十分に膨らむまで、アクを除きながら中火で4〜5分煮立てる。
ポイント◆この差し水のことを「びっくり水」という。水を差すことで、小豆の煮上がりが早くなる。
(3)ザルにあけて水洗いする(=渋切り)。
ポイント◆小豆に含まれるタンニンや渋みが苦みの原因となるため、渋切りをして、餡の風味が悪くなるのを防ぐ。
(4)鍋に(3)とたっぷりの水を入れて再び強火にかける。沸いたら弱火にして、皮が破れないようコトコト炊く。この間、煮汁が常に豆の上まであるように、途中で差し水をする。
(5)小豆が指で簡単につぶれるくらいまで、柔らかく煮上げる。こし餡の場合、皮の破れは気にしない。
【作り方】
(1)豆をマッシャーなどであらかたつぶす。
(2)ボウルで受けたザルに(1)を少しずつ移し、おたまの背でつぶしながら豆の中身を漉し出す。水をかけながら行うと作業しやすい。
(3)ボウルにたまった水が溢れないように注意しながら、お米を研ぐ要領でしっかりと漉し出し、豆の皮をきつく絞って取り除く。
(4)ボウルに馬毛の漉し器(なければステンレスで代用。目の細かいものが望ましい)を重ね、(3)の漉し汁を注いで、さらに細かな皮を取り除く。
(5)漉し汁が沈殿したら上水を捨て、再び水を注いで沈殿するのを待ち、上水を捨てる。上水が半透明になるまで繰り返す。
(6)上水を捨てながら、袋状にした晒し布巾に受ける。
(7)しっかり水気を絞る。裏返しにしたバットに傾斜をつけ、体重をかけて押し絞る。
(8)鍋に(7)の半量と砂糖を入れ、焦がさないよう気をつけながら強火にかける。砂糖が溶けて、ツヤが出てきたら残りの(7)を加えて、常にかき混ぜながら強火で炊き上げる。
ポイント◆火が弱いとポロポロの餡になるので、強火で粘りを出す。
(9)水分があらかた飛んで、餡を落としたときにボテッと山のようになる固さになったら炊き上がり。
(10)火を止めて餡を鍋の内側に貼り付け、粗熱をとる。
(11)バットに小分けにして移し、固く絞った濡れ布巾をかけて冷ます。
【こし餡の保存法と日持ち】
ラップに密着させて空気を入れない状態で餡を包み、においがうつらないよう密閉できる袋に入れて保存する。冷蔵で3~4日、冷凍なら長期保存が可能。
次は白餡、山の芋餡の作り方です。きんとんの周りを覆う「そぼろ」は、白餡と山の芋餡を混ぜて作ります。
(2)白餡の作り方
白餡とは、手芒豆(てぼまめ)や白いんげん豆、白小豆で作る、和菓子には欠かせない餡です。中餡として使われるほか、色を染めてきんとんやこなし、練り切りなど、数多くの主菓子に使われます。
【材料(作りやすい分量)】
・手芒豆 または 白いんげん豆 500g
・上白糖 または グラニュー糖 450g
【準備・豆を煮上げる】
豆は虫食いや変色があるものを取り除き、きれいに洗う。たっぷりの水に浸して一晩おく。一晩おくと豆が2倍くらいに膨らむ。鍋に豆とたっぷりの新しい水を加え、強火にかけて沸かす。前ページのこし餡に倣い、豆を煮上げる。
【作り方】
(1)豆をマッシャーなどであらかたつぶす。
(2)(1)をボウルで受けたザルに適量移し、おたまの背でつぶしながら漉し出す。前ページのこし餡の作り方(2)~(4)に倣い、しっかり豆を漉す。
(3)漉し汁が沈殿したら上水を捨てる。たっぷりの水を注いで全体を混ぜ、泡を取り除いて再び沈殿するのを待ち、上水を捨てる。上水が半透明になるまで繰り返す。
(4)上水を捨てて袋状にした晒し布巾に受ける。
(5)しっかり水気を絞る。裏返しにしたバットに傾斜をつけ、体重をかけて押し絞る。
(6)鍋に(5)の半量と砂糖を入れ、焦がさないよう気をつけながら強火にかける。
ポイント◆火が弱いとポロポロの餡になるので、強火で粘りを出す。
(7)砂糖が溶けて、ツヤが出てきたら残りの(5)を加えて、常にかき混ぜながら強火で炊き上げる。餡を落としたときにボテッと山のようになる固さになったら炊き上がり。
(8)火を止めて餡を鍋の内側に貼り付け、粗熱をとる。
(9)バットに小分けにして移し、固く絞った濡れ布巾をかけて冷ます。
【白餡の保存法と日持ち】
前ページのこし餡と同様、ラップに密着させて空気を入れない状態で餡を包み、においがうつらないよう密閉できる袋に入れて保存する。冷蔵で3〜4日、冷凍なら長期保存が可能。
(3)山の芋餡の作り方
山の芋で作る餡は、白餡よりも真っ白で、口どけがいいのが特徴です。単独で使うと乾燥しやすいので、白餡と混ぜて使います。
【材料(作りやすい分量)】
・山の芋(生の状態・皮付き) 300g
・上白糖 60g
【準備】
山の芋の皮をむく。この際、黒っぽく変色するようであれば、しばらく酢水に晒す。
【作り方】
(1)山の芋を5mm~1cm幅の厚さに切り、蒸し器にじかに置いて強火で蒸す。スッと串が通るほどの柔らかさになったら、熱いうちに1枚ずつ丁寧に裏漉しする。
(2)(1)が熱いうちに上白糖とともに鍋に入れ、混ぜ合わせる。弱火にかけて練る。
(3)なめらかでしっとりした状態になったら炊き上がり。熱いうちにラップに包み、粗熱がとれたら冷蔵庫で一晩寝かせる。
ポイント◆柔らかく、扱いにくい餡を、一晩寝かせることで締める。
【山の芋餡の保存法と日持ち】
ラップに密着させて空気を入れない状態で餡を包み、においがうつらないよう密閉できる袋に入れて保存する。白餡と混ぜ、食紅などで染めてから保存してもよい。冷蔵で2〜3日、冷凍なら長期保存が可能。
さあ、きんとん作りにチャレンジしましょう!
和菓子の姿や色合いは、日本の四季や自然、日本人の暮らしや行事と密接に結びついて作られています。今回ご紹介するのは、4月と5月のきんとんです。
(4)4月のきんとん「吉野山」
白から濃いピンクの5色の餡を重ねてそぼろにし、桜の名所、奈良・吉野の山を覆う深山桜を表しました。
【材料(10個分)】
<そぼろ餡>
・白餡 200g
・山の芋餡 150g
食紅(紅、黄) 適宜
<餡玉>
・白餡 150g
【準備】
白餡を10等分して餡玉を作る。食紅の紅と黄を合わせて淡い朱色を用意する。紅色の濃淡は溶く水の量で調節する。
【作り方】
(1)そぼろ餡用の白餡と山の芋餡を合わせて丁寧に混ぜ、そぼろ餡を作る。
(2)(1)に食紅を混ぜ、色を染める。(1)の分量が3:3:2:1:1になるように5つに分け、それぞれピンク、白、淡いピンク、濃いピンク、淡い朱色の5色に染める。それぞれ平たくのばして重ねる。
(3)(2)を半分にちぎって重ね、10層にする。
ポイント◆重ね目が違う色になるように、必ず折らずにちぎって重ね合わせる。
(4)(3)を厚みを2cmくらいに均等にのばす。目のやや細かい漉し器(なければざるで代用)にのせ、手前から奥へ手の腹で押し出すようにして、そぼろを作る。
(写真で使っている餡は、別のきんとんのもののため、緑色をしています)
(5)先の細い箸を使い、手のひらに、土台となるそぼろをのせる。中に入れる餡玉がのる程度の大きさに。
(写真で使っている餡は、別のきんとんのもののため、緑色をしています)
(6)(5)のそぼろに餡玉をのせ、箸を使って下の方からそぼろを付けていく。全体のバランスをみながら、しっかり植え込むようにつける。
ポイント◆箸を拭きながら作業する。
【保存法と日持ち】
常温または冷蔵で保存。作ったその日のうちに食べ切る。ラップを敷いた密閉容器に入れ、冷凍保存も可能。
(5)5月のきんとん「薫風」
白、薄い青、濃い青の三色のそぼろで皐月に吹く風の爽やかさを伝えます。
【材料(10個分)】
<そぼろ餡>
・白餡 200g
・山の芋餡 150g
食紅(青) 適宜
<餡玉>
・こし餡 150g
【準備】
こし餡を10等分して餡玉を作る。
【作り方】
(1)4月のきんとん「吉野山」の作り方(1)、(2)、(4)に倣い、濃い青、白、薄い青(分量の比率は1:2:1)に染めたそぼろ餡を作る。それぞれ平たくのばして3層に重ね、粗目のそぼろを作る。
(2)4月のきんとん「吉野山」の作り方(5)(6)に倣い、餡玉にそぼろをつける。
いかがでしたでしょうか?刃物を使わないレシピなので、小さいお子さんと一緒に作ることもできます。ぜひご家族で、和菓子作りを楽しんでみてください。
清 真知子/Machiko Kiyoshi
1960年神戸市に生まれる。83年裏千家学園茶道専門学校卒業。96年神戸市内に、2002年に東京・学芸大学に和菓子教室を開く。現在、茶道裏千家教授、茶道と和菓子の教室「さろん閑遊」を主宰。デモンストレーションと実技で構成される和菓子教室は、季節感溢れる美しい和菓子が初心者でも上手に作れると好評を博している。2014年兵庫県明石市に教室を移転。今回ご紹介した2種のきんとんを含め、主菓子と干菓子55のレシピを掲載した著書『家でこんなに美しい和菓子が作れるなんて!』好評発売中。
撮影/浮田輝雄