8月18日の吉田サッカー公園は、新外国人FWピエロス・ソティリウが魅せた圧巻のパフォーマンスによって、驚きに包まれた。クロスを全てゴールネットに沈めるシュート精度と破壊力。身体中から発揮される本物のオーラ。ミヒャエル・スキッベ監督への取材も当然、ピエロスがテーマとなる。
ピエロスと組んで初のシュート練習。あまり言葉をかわさなくても、ストライカー同士でお互いに息を合わせようという意識は見えた(8月18日撮影)
だが、指揮官の口から最初にこぼれたのは、鮎川峻について。5月6日、左足第5中足骨骨折の手術によって全治3ヶ月の診断を受け、8月上旬に練習合流を果たした若者のことを、彼は誰に聞かれることもなく語り始めた。
ウオーミングアップでも足の状態を気にすることなく走れているのは、鮎川にとってはポジティブなこと(8月24日撮影)
「(鮎川)シュンはどんどん良くなっていますね。シーズンの残り何試合かの中できっと、彼の出場チャンスはあると考えています」
監督は広島に来た時から、鮎川峻という若者を高く評価していた。例えば3月18日、川崎F戦前日の練習後、こう語っている。
ポゼッション練習でも、とにかく足を止めない。ボールがない時の動きで勝負する鮎川らしいトレーニングだ(8月24日撮影)
「シュンは本当に才能のあるFW。ゴールに向かうプレーは高く評価できますし、裏に抜ける彼のスタイルに磨きをかけて成長してくれれば、チームを助けてくれる存在になる」
3月12日、FC東京戦で見せた鮎川のゴール(下記動画の5分45秒〜)は、まさに才能の証明。だからこそ、川崎F戦で彼が負傷した後も、折に触れて自ら鮎川について語っていた。選手個人に対して、あまり自分からは言及しないスキッベ監督には、珍しいことだ。
「まだ、状態はあがっていないです」
鮎川本人は、まだ自身のコンディションに全く納得できていない。
「連続して動くことができていないし、裏を狙うプレーもまだ回数が足りない。とにかく、自分が思うように体が動いてこないんです。自分の良さを発揮できていない現状が、キツイです」
練習後、スキッベ監督の話を聞きながらも、鮎川は自分のプレーができていない悔しさを隠しきれない(8月24日撮影)
若者は指揮官の期待を感じつつも、それに応えきれない自分に刃を突き刺す。一方、指揮官はそんな彼の状況を容認し、「離脱期間が長かったから、ちょっと考えすぎなところがある」と語った。
「そうですよね。やり続けるしかないですよね」
急ぐな、若者。君の力を必要する時が、必ずくる。
鮎川峻(あゆかわ・しゅん)
2001年9月15日生まれ。愛知県出身。現在サンフレッチェ広島レジーナでプレーしている柳瀬楓菜は、中学まで在籍したFCフェルボールの後輩。2017年、サンフレッチェ広島ユースに加入し、2020年からトップチームでプレー。2021年2月27日、仙台戦でプロ初出場を果たし、同年3月21日の対大分戦でJ1初得点。裏に抜けるスピードと抜群のポジション取りで勝負できるストライカーで、パリ五輪での活躍も期待されている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】